昨年、藤原麻里菜さんの取材でお邪魔をした株式会社オプテージの携帯電話サービス「mineo」の実験型未来共創スペース「マイラボ渋谷」で、またまた面白そうなイベントが行われています。
新しい恐怖体験を作り出す会社「株式会社闇」と人気ホラー作家「梨(なし)」氏が仕掛ける考察型展覧会『その怪文書を読みましたか』が3月17日から4月2日まで開催しています。
連日大盛況のこちらの展示、世の中に溢れかえる不確かな情報を「怪文書」に見立て、考察を楽しむ展覧会です。誰が、どこで、なぜ、この怪文書を書いたのかが徐々に浮かび上がり、背景を考える。情報社会を生き抜くための洞察力と考察力が問われる体験ができる展覧会だといいます。人気ホラー作家梨氏のファンはもちろん、株式会社闇のファンの「闇がプロデュースしているなら、絶対普通の展示じゃないだろ!」という来場者も多いそうです。
一体どういうことなのか、数々のお化け屋敷やテーマパーク、観覧車、映画館、商店街、ラブホテルでのホラーイベントを企画・プロデュースしている株式会社闇の代表取締役 頓花(とんか)聖太郎さんにお忙しい展示の合間をぬってお話をうかがいました。
SNSを巻き込んで新たな都市伝説を作りたい
会場には多種多様な印刷物や手書きのメッセージが貼られていて、ちょっと異様な雰囲気です。一枚だけで見たらただの不可解なチラシ。そこに添えられた梨氏の解説を読みながら、来場者は情報と背後にあるストーリーを考察していきます。会場にまとめて展示されていることで日常では見逃してしまいがちな情報を読み解くことが可能になり、来場者それぞれの考察を「#その怪文書を読みましたか」のハッシュタグと共にSNS投稿することで展示の体験が会場の外まで広がっていく。来場者それぞれの物語が交錯する。まさに今話題のシェアード・ワールド(※ここでは、複数の作家またはアーティストが独立して作品を提供し合い、全体のストーリー、キャラクター、または世界設定を共有しつつ発展させる架空の世界)ができあがっていくという構図になっていて、怖い中にもワクワクさせるものがあります。
「今回、“実験場”であるマイラボ渋谷の特性を活かしつつ、いつか一緒に仕事をしたいと思っていた梨さんと一緒に何ができるかを考えました。我々は普段お化け屋敷やインターネット上のコンテンツなどを作っているので、広さに制限があり、日の光が入るマイラボ渋谷のスペースをどう使うか悩んだ結果、あえて“お化け”は登場させない挑戦をしてみようとなりました。梨さんの文筆力を活かしたテキスト主体のコンテンツ、小説を立体化させたいと考えたんです。
会場には100種類以上の怪文書が貼られています。メインの文書には梨さんの解説がついていて、解説を読んでいくと徐々にキーワードが見えてくる作りになっています。細かい伏線や仕掛けもあるんです。
こういう展示は会社としても初めての試みだったので、どんな反響があるか不安でしたが、連日整理券がなくなるほどの来場者が訪れるほどの盛況ぶりで、SNS上の考察もかなりディープなものもあって、開始から1週間経たずに想像を超える反響で嬉しい限りです。SNSについては公式の立場からはあえて何も発信しないで、来場者の考察を静観するようにしています。一応、メインとなるストーリーはあるのですが、ここから新しい都市伝説を作れたらいいなと考えています」
「会場内には怪文書のガチャガチャがあったり、自分でオリジナルの怪文書を作るスペースもあり、他にも考察に関わる様々な仕掛けもあります。梨さんの作品の特徴でもある細かい伏線とさまざまなレイヤーで構成された展示なので、いらした方のうち半分くらいに伝わるかどうか!? と想像していたら、想像以上の方が深いところまで考察をし事実を明らかにしていく体験を楽しんでくれています。中には『もう一度確認をしたいから』と2回訪れてくださる方もいらっしゃいます」
ホラーxテクノロジーで人の感情と向き合いたかった
優しい語り口の中にユーモア溢れる頓花さん、学生時代はグラフィックデザインを学んでいたそうですが、当時からコンセプチュアル・アート(※作品製作の背景にある発想・思想といったコンセプトに重きを置く芸術)にも興味があり、アートフェスに参加してお葬式のパフォーマンスをしていたとのこと。基本的にメジャーなものより日陰者、闇を感じるコンテンツが好きだといいます。
ホラーxテクノロジー「ホラテク」で新しい恐怖体験を作り出す謎の会社でもあり、日本一怖い企業サイトでも有名になった株式会社闇を頓花さんが立ち上げたのは2015年。それ以前は学生時代に学んだグラフィックからウェブに転身したデザイナーでした。
「当時はシュッとしたおしゃれなデザインを作っていました(笑)。デザイナーの仕事は届けた先にある人の顔を直接見ることができないので、人の感情と直接的に向き合える仕事をしたいと思ったのが株式会社闇を立ち上げたきっかけです。自分の好きなホラーとテーマパークやエンタメと、テクノロジーを掛け合わせようと考えました。最先端のテクノロジーを使ったホラーエンターテイメントなら新しい市場やフォーマットを提供できるし、歴史に名を残せるんじゃないかと考えたんです。
まずは、とりあえず目立とうと思って、めちゃくちゃ怖いホームページを作ったところバズって。サイトオープンから1時間で仕事の依頼が来たのが、自分が憧れていた有名お化け屋敷プロデューサー 五味弘文さんの関わるプロジェクトでした。五味さんは、今では株式会社闇のエクゼクティブプロデューサーとして今回の展示の監修もしてくれています」
カレーの刺激とホラーの刺激の相関性
なぜ世の中には怖いものが好きな人と苦手な人がいるのか、頓花さんがどう考えているのかをうかがうと、まさかのカレーの話になりました。
「僕たちの考え方として、「恐怖」というとイヤな感情だと思われがちですが、実は恐怖は感動の一部だと考えていて。ホラー好きは怖いほどアドレナリンが出て、幸せそうな顔になるんです。恐怖を感じることに幸せを感じている人たち。これは楽しみ方なので、訓練で鍛えられると思っています。
僕はホラーの伝道師としてホラーが苦手な人に「怖いは楽しい」、ホラーの面白みを伝えたいという思いが根底にあります。
なので、ホラーが怖いという方たちは、笑い上戸ですぐに笑いに反応するお笑いのゲラ的な存在でと一緒で、すごくホラーを楽しめる素養のある方たちなんです。
ソースがはっきりしているわけではありませんが、脳科学的にも恐怖と快感を感じる部分はつながっているので恐怖を感じると快感も感じるという話があります。恐怖感情は慣れていくけれど、快感は常に快感として存在し続けるので、最終的には快感を求めるために恐怖コンテンツを求める、だから中毒性がある。
僕は恐怖をよくカレーに例えるのですが、辛さと同じである程度楽しめるようになってくると、もっと刺激を求めたくなり快感が増していくんです。慣れてない人がいきなり激辛を食べると刺激が強すぎてしまうんです。なので、ちょっとづつホラーの刺激にハマってもらう活動をしています。今回の展示もそのためにの大切な一歩だと言えます」
エネルギー渦巻く渋谷は怪文書が似合う街
「実は展示されている怪文書にもセンター街や渋谷を絡めてあって、リアリティにつながります。なんとなくこの辺りが舞台になったんだな、と匂わせています。後は、センター街は人通りが多いので外から見える怪文書を見てギョッと日常の中の非日常の間を感じてほしいと思っています。マイラボ渋谷で『考察を体験した後に渋谷の街を歩いたら、世界の見え方が変わっていて、怪文書だらけに見えました』といったコメントもありました。
僕は古い風習が残っているようなものすごい田舎の出身なので、人混みは苦手です。来るたびに『祭りか !?』 って思います。でも、渋谷からほど近い池尻大橋に住んでいたこともあるので渋谷にはよく遊びにきました。渋谷はいろんなものが揃っていて退屈しない街ーー。だからこそ渦巻くパワーがすごいので、ホラーの題材としても扱いやすいんです」
今回の展示は渋谷の街だからこそ生まれたインパクトがあると語ってくれた頓花さん。インターネットで「#その怪文書を読みましたか」を検索すると多くの考察が交錯していて、自分の得た情報が正しいのか、さらなる考察に引き込まれていきます。やはりSNSを巻き込むことで都市伝説となっていくのか!?
カレーは基本的に中辛を楽しむ筆者には、まだまだ未踏の奥深い恐怖の世界があるようです。ちなみに、現在は第2弾となっている日本一怖い企業サイトは相変わらず健在で、個人的には夜中に見ることはおすすめしません。
◾️頓花聖太郎 略歴
1981年 兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナーであり、 2011年 関西の制作会社 STARRYWORKSにアートディレクターとして入社。 大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。
◾️株式会社闇
WEB:https://death.co.jp/ja/pc/
Twitter:@yomimashitaka
◾️『その怪文書を読みましたか』「株式会社闇」と人気ホラー作家「梨」が仕掛ける 怪文書をテーマにした考察型展覧会
期間:2023年3月17日(金)~4月2日(日)
場所:マイラボ渋谷
開催時間:3月25日(土)以降、全日11:00〜20:00
定休日:不定休
料金:体験 500円(税込) 3月25日(土)以降の開催分からオンラインチケットにて販売
チケット販売サイト:https://t.livepocket.jp/e/kaibunsho
主催:株式会社闇・株式会社オプテージ
協力:SUZURI byGMOペパボ(協賛)
WEB:https://mylab-shibuya.jp/events/kaibunsho/