障害・トラブルを負いながら働きたい人は扉を叩いていただきたい『FITIME』佐々木千恵さん、秋山圭太さん

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人間はいつどうなるかわからないもの。それが真実だ。でも事故や病気などで、もし障害を負ったなら!?  あるいは精神的ストレスで働けなくなってしまったら?
そんな時に是非、利用していただきたいのが就労移行支援事業。今回はそんな支援事業者のひとつで渋谷で展開している『FITIME』(フィティミー)にお勤めの佐々木千恵さん、秋山圭太さんにいろいろとお話を伺った。

もし突然、障害を抱えることになったら…

実は筆者は一度、失明の危機に陥ったことがある。ある日、左目の内部で大量出血が起きたのだ。左目だけが出血のせいで世界が夕焼けのように真っ赤に染まった。原因は失明率の高い糖尿病網膜症。右目も同様の危険性があると言われ、両目の手術をした。

結果としては右目は1.0の視力を残すことができた。しかし左目は視力が0.03まで落ち、あまり明かりを感知できなくなり、現在もほぼ見えていない。

視覚障害者になる可能性という現実を突きつけられて、そうなったらどんな仕事ができるかを慌てて調べた。そこで初めて、なかなか仕事がないことを知り、さらに焦った。当時は支援事業というものがあることを知らず、本当に絶望の淵に立たされたものだ。

株式会社スタートラインが運営する『FITIME』(フィティミー)は、渋谷区東1丁目にある就労移行支援事業所。就労移行支援とは、障害者総合支援法に定められた「障害福祉サービス」のひとつ。障害のある方が就労に向けてトレーニングを行い、働くために必要な知識やスキルを獲得していくというものだ。障害者レートに特段制限は設けず、身体の障害を持つ方、精神の障害を持つ方など様々な方が通っているという。実はこういった事業所は、とてもたくさんあるのだという。

どの事業所を選ぶかで働き口も変わる

「就労移行支援は実は2種類に大別できます。いわゆる事務補助的な仕事を学べる“総合型”と、何かの職業に特化して学べる“特化型”があるんです。なのでどの事業所に通うか、そのチョイスがとても大事なんです。事業所によって自分の働きたい職業に繋げられるかどうかが決まるといっても過言ではありません。そこがミスマッチを起こしてしまうと、就労移行支援の利用は期間が決まっているので、無駄になりかねないんです。だからどういう事業所があるのかをまずは知っていただきたいのです」と、障害福祉事業部の部長・佐々木千恵さんは説明してくれた。

「渋谷の『FITIME』は主な勤め先として、カフェを筆頭とした飲食店やアパレルなどに繋ぐようにしています。渋谷にそういう店舗が多いから、そういった特化の仕方をしました。私たちとしては、とにかく自分に合った仕事を見つけてほしい。なんとなく事務職は給料が良さそうだから…という理由で選んだりするのではなく、本当にやりたい仕事に就いてほしいと願っているんです」(佐々木)

アセスメントで自分自身と対峙を

「まず就職希望者には必ず事業所を見学してもらいます。そして説明を聞いていただく。実際に通うことになればアセスメント(評価、査定)があって、訓練、就職活動があって就職というステップがあります」(佐々木)

中でもアセスメントは自分を一から見直すキッカケにもなるため、人によっては精神的にシンドさを感じる可能性もあるという。

「アセスメントを取ることで、その方の得意なこと不得意なことを把握します。そのためには学生時代から調査を始めますが、我々と一緒に整理をして、自己理解を深めるのがとても大事なんです」

さらに社会人基礎力を得るため、コミュニケーションや生活面、社会的なことなどの基礎トレーニングを積む。
自分にあった働き方の選択肢を知るカラフルトレーニングプログラムでは、例えばカフェに勤めたいならばコーヒー製作に挑んでみたり、アパレル志望なら服の畳み方や袋詰めの仕方などを訓練する。こういったプログラムがかなりしっかりしているのが『FITIME』の強みだと佐々木さんは断言する。

工賃をいただきつつ訓練を

「特に次のステップである『リアルジョブトレーニングブログラム』は実際に働いて工賃もいただくというものですが、他の就労移行支援施設にはあまりありません。なぜこのプログラムをやるかというと、仕事って楽しいよねとか、仕事って責任あるよね…ということを体験していただくのが狙いです。実は就労移行支援のプログラム実践中は、原則、アルバイトとかはできないんです。そうするとここに通う時の交通費やお昼代はどうすればいいのかという問題も出てくる。それが多少でも解決すればと。またそこで得たお金をどう使うのか。それも大事な社会人基礎学になる。例えばお昼代。豪華に毎日、焼肉定食は食べられない。だとしたらおにぎりは家から作ってくるとして、おかずだけ何か買うとか。そういうお金の使い方を学ぶためのプログラムです。こういったプログラムには、我々の思いと経験が詰め込んであります」(佐々木)

こういうプログラムを通して、支援を受けた障害者が、本当にやりたいと思った仕事に出会ってほしいのだという。

できないから諦めるはご法度

「もちろんできないこともいろいろあると思います。でもできないからと諦めてしまうのではなく、こういう部分を手伝ってもらえばできる……ということを理解していただく場にもしてもらいたいんです。そのための訓練なんです」と語ってくれたのは、サービス管理責任者の秋山圭太さん。

「例えば電話対応が苦手という方がいらっしゃるとします。でも苦手といっても理由はさまざま。電話を聞きながらメモを取るという同時にする行為が難しい方もいます。それならメモをいつ・どこで・誰がというのを線で分けて書いていくと、問題なく書けたりする。つまり自分の中でどこが苦手なのかを把握するのが大事なんです。コミュニケーションひとつとっても、自分の思いを伝えることが苦手な人もいれば、他人から聞いた内容を正確に理解するのが難しくてコミュニケーションに悩んだ方もいる。どこが苦手かを自己理解して対策をたてればいいんです。だからその日のうちに、利用者さんとは振り返りをします。うまくいったこと、いかなかったことを確認した上で、次回どうするかまでを考えるクセをつけていただく。そうやって翌日の訓練に繋げていくんです」(秋山)

実際、利用者ひとりにつき、スタッフは2名つく。訓練期間の目処は6か月だという。もちろん6か月で終わらない人もいる。

「人間は千差万別。だからひとりひとりブログラムはオーダーメイド的な感じで準備していきます。だいたい通って1年目までに3割から4割の方が就職されてますね」(秋山)

「つまり卒業したら終わりではなくて。このあとの支援が大切なんです」(佐々木)

「就職したあとも無理なくお仕事を継続することが大切。だから最初は密に連絡を取りますが、その後は次第に間隔をあけて自立に向けて準備していきます。感覚的には自転車を教えるお父さんみたいな。徐々に手を離していき、一人で走る様を見守っていく。もし転んだとしても一人で立てるように指導することが大切なんです。解決するにはどうしたらよいか、答えを教えるのではなく、本人たちが考えるキッカケを提示するという形を取っています。最大3年までは支援させていただく形になります」(秋山)

手厚い支援の様子が感じられたこの会社。「例え障害者手帳がなくても、何らかのトラブル、障害を抱えた方で働くことを考えている方ならば、是非足を運んでいただきたいです。まずは相談をしてみてください。本当に人間はいつ何が起こるかわかりませんから」(佐々木)

◾️『FITIME』(フィティミー)渋谷
東京都渋谷区東1丁目26ー30 SHIBUYA EAST BLDG 2F
03-6822-8025

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