「渋谷みんながつながるインクルーシブアート」落書き対策×多様性×アートでインクルーシブな地域コミュニティーを目指す 東京都議会議員 龍円あいりさん

渋谷で、以前から問題となっている街中の落書き。特に規模の大きい落書きが、渋谷区東2丁目にある都営バス営業所の200mにわたる壁に長い間放置されていました。2022年1月に落書きが除去された後に、地域住民らが約4ヶ月かけて再犯防止のためのカラフルな大型インクルーシブアート壁画を同年11月に誕生させました。

この「渋谷みんながつながるインクルーシブアート」は、大人も子どもも、障がいがある人もない人も、多様な人々のべ250人以上が交流をしながらアートを制作した巨大なプロジェクトです。渋谷新聞の中学生ライターの私さおも制作チームの一員として参加してきました。

 

今回はそんな「インクルーシブアートプロジェクト」を立ち上げ、インクルーシブ(あらゆる人が参加可能)な社会を目指し活動を続ける都議会議員、龍円あいりさんにインタビューをさせていただきました。

 

落書き消しとインクルーシブな社会

ーー「落書き消し」と「インクルーシブ」を組み合わせるきっかけは?

イベントを実施する前は、都営バス営業所の壁の前を通る度にこの落書きを消したいと考えていました。近隣住人からの「怖いから消して欲しい」という声も多く、それが後押しとなって2022年の1月に東京都交通局によって落書きが除去されました。

▲イベント実施前の壁

 

この方法のメリットは、アートを施すことによって、その壁に注目する人が増えます。人々が愛着を寄せていることが分かると、「ここに落書きをすると怒る人がたくさんいるだろうな」と思い、落書きがされないそうです。そのお話を聞いた時に、なるべく多くの地元の方々と一緒にアート活動をすることで、この壁への注目度をあげたいと考えました。私は多様な人が共に混じり合って生きていくインクルーシブな社会を目指した活動をライフワークにしているので、今回のプロジェクトも、私が関わるからには、普段はなかなか美化推進といった地域活動に参加しにくいような人も一緒にできるアートにしたいなと思いました。このプロジェクトがインクルーシブなコミュニティーを作るきっかけになればと考えていました。

 

▲2022年12月4日に、完成した壁画周辺で行われた「インクルーシブアートみちあそび」の様子

 

タングラムから滲み出る個性

ーー「誰もが参加できる」ために取り入れたことはありますか?

今回のインクルーシブアートは、東京都の交通局と生活文化局、そして渋谷区といった行政のバックアップのもと、CLEAN&ARTと渋谷区障害者団体連合会(略称:渋障連)の共催で進めました。スペシャルニーズ(障がい)のある人と一緒にアート活動をするのは初めての壁画のプロであるCLEAN&ARTと、芸術作品展「どきどきときめき展」を30年開催しているけれど公共の場に永続的に展示されるような大きな作品に関わるのは初めての渋障連。双方が一緒に打ち合わせと準備を重ねて、どうやったら多様な人たちが作品制作に関われるのか準備を綿密に行いました。

 

今回の壁画で一番の工夫ポイントは、原画制作に「タングラム」の手法を取り入れたことです。タングラムは、正方形の板を、三角形や四角形など7つの図形に切り分けて、それを好きな形に組み合わせて遊ぶパズルゲームです。今回は作業をしやすいようにその7つのピースにマグネットを着け、ホワイトボードに貼り、できた作品にタイトルをつけるというワークショップを、スペシャルニーズ(障がい)がある人が参加しやすいように、普段活動している作業所に赴いたり、オンライン開催もしました。初台にある医療的ケア児のための施設「ヘレン」や、区内の保育園にもご協力いただいたほか、誰もが参加できるワークショップを恵比寿の「景丘の家」で開催しました。

タングラムは、出来上がった作品に1つとして同じものがなく、それぞれがすごく個性的で魅力的でした。子どもはもちろん大人も楽しめるワークショップを開催できたことがとても嬉しいです。

 

▲8月23日に行われたタングラムづくりの様子

 

ーー壁に色を塗っていく作業はいかがでしたか?

マスキングテープを縦横無尽に壁に貼り、その中をSDGsの17色で塗るというワークショップを4回開催しました。子どもから大人まで、壁に色を思いっきり塗るという体験がとても楽しそうでした。

そこにCLEAN&ARTが、原画ワークショップで制作したタングラム130作品を丁寧に再現して、躍動感溢れる色彩豊かな壁画「渋谷みんながつながるインクルーシブアート」が完成しました。

 

ーーなぜ今回のような「みちあそび」を企画したんですか?

アートが完成して、関係した大人向けの「完成披露式典」「シンポジウム」は開催しましたが、参加してくれた多くの子どもたちと喜びを分かち合えていませんでした。そこで一般社団法人TOKYO PLAYさんの「とうきょうご近所みちあそび」というプログラムとして、みんなで壁画の前で人工芝の絨毯、巨大シャボン玉、チョークアートなどを楽しむことをお願いしました。このアート作品はこれから何年も壁画として残っていくので、今後もこの場所で「みちあそび」を継続し、子どもたちの成長を慈しみながらコミュニティーも継続的に育てていきたいと感じています。

ーーこのイベントを通して気づいたことはありますか?

私にとって一番大きな教えとなったのは「インクルーシブは1日にしてならず」ということでした。多様な人たちが共に活動するには、相互の理解と、様々な配慮や調整を忍耐強く進めていく必要があります。だからコツコツと継続していくことが、もっとも重要だと感じました。参加したスペシャルニーズのある方のご家族から「福祉や社会のお世話になることが多いけれど、このイベントに参加したことで、街の美化やまちづくりに貢献する側になれたことはすごく嬉しかった」と感想をいただきました。地域活動等に参加しにくさがある方にも参加してもらえる工夫をしたことが、そんな風に喜んでいただけるんだ! と、新しい発見がありました。

 

他にも、初めてスペシャルニーズのある人と一緒にアート活動をしたCLEAN&ARTの傍嶋さんたちは、その表現がとても自由なことに感動していました。スペシャルニーズのない人は、タングラムで鳥や猫など何か“もの” を作る傾向があるけれど、スペシャルニーズある人の方が表現が自由で、そこから学ぶことがたくさんあったと話してくださいました。

 

▲インクルーシブアート作成中

 

ーー今後の展望を教えてください

インクルーシブアートを、これで終わらせないことです。渋谷の街に彩(いろどり)を増やしていきたいし、インクルーシブな遊びもたくさん考えていきたいです。今回のプロジェクトでも、ワークショップの回数を重ねたことで、参加者同士が友達になって、イベント後に一緒に遊んだり、連絡先を交換したりしていました。そういった繋がりを大切にする活動を続けていけたらいいなと思っています。

 

ーー龍円さんが目指すインクルーシブな社会とはどんな社会ですか?

誰もが無理せず自分らしく輝きながら、社会の大切な一員として参加していると実感の持てる社会です。周りに共に生きる人がいたとしても、本人が孤独だと感じていたら、インクルーシブではないと思っています。マイノリティの方たちもが参加しやすい社会というのは、マジョリティとされる方の中にもいるであろう、孤独や生きにくさを感じている人たちにも参加しやすい社会だと考えています。

 

ーー今まで渋谷を拠点に活動されていますが、渋谷区はどんな区だと感じますか?

渋谷区は、若者カルチャーの街、スタートアップ企業が日本一集積して活気のある街、などいろんな面がありますが、シニア世代も含めて多様性に柔軟でインクルーシブなマインドの人が多いと感じます。インクルーシブな街づくりを進めやすいと感じています!

 

▲完成したインクルーシブアートを見に来た人々の様子

 

ーー龍円さんにはニコくんというダウン症があるお子さんがいらっしゃいますよね

はい。米国カリフォルニア州に住んでいた頃にニコが生まれ、ダウン症があることが分かりました。海外での初めての出産、ニコはスペシャルニーズまであるということで不安でしたが、充実したサポート体制のおかげで、あっという間に支援の輪の中にいて、不安も少なく育児を楽しめました。そのアメリカで知ったのが「インクルーシブの重要性」でした。それがきっかけで都議会議員としてインクルーシブな社会を目指すようになりました。

 

ーーニコくんと生活してきたからこそ活動に生かせたことはありますか?

アメリカでインクルーシブな社会の重要性を知ったので、ニコはなるべく地域の他の子どもたちと共に学び育つようにしたいと思いました。地域の保育園を経て、今は小学3年生として渋谷区立の小学校に通っています。日本はまだまだインクルーシブな仕組みが少なく、あちこちハードルにぶつかっています。そういう当事者だからこそ見えてくる現実を、議員としての様々な政策にも活かしています。スペシャルニーズのある人たちだけではなくて、性的マイノリティの方々、社会的養護の元で育つ子たち、ひとり親などなど、いろんな場面で「仲間になれていない人」に意識を持つようにしています。ニコやマイノリティの方たちが参加しやすい社会とは、マイノリティでない人たちも自分らしく参加できる社会なのかなと思っています。ニコがいなかったらこの活動自体やっていなかったし、政治家にもなっていなかったかもしれません。ニコの母親になれたことは私の人生にとって、とても大きな意義があると思っています。

 

▲息子さんのニコくんと

 

ーー私たちのような学生や若者でも、そういった社会にするために貢献できることはありますか?

小さな頃から社会や地域のいろんな活動に参加していろんな経験をして、人に会って、自分とは違う世代と触れ合っていくことが重要だと思います。

特に学生の間は、同じ学年の子とばかり一緒にいることが多いと思うんです。スペシャルニーズのある子たちがいる学校も少なく、同じ地域に住んでいる同世代の子たちとばかり一緒にいると、多様な人が世の中にいることを知らないまま育ってしまいます。学校を中心に生きていると、勉強やテストなど学校の中の価値だけが正しく、他の選択肢はないと思いがちです。小さい頃から色々な社会や地域の活動に参加し、色々な生き方をしている人と出会うと、例えば、テストで良い点を取って受験に合格して、有名な会社で働くことだけが良い生き方じゃないって、将来の選択肢が広がると思います。

 

あとは、中高生くらいの年ごろって兄弟が居ないと小さい子と関わることが少ないかもしれません。なので、こういったイベントに参加すると子どもと遊ぶ楽しさを知って、子どもと触れ合うことが普通になっていきますよね。私は出産するまで子どものいる生活ってどんなものか想像さえできなかったので、子どもが普段から身の回りにいると、そういったことも自然と想像できるようになると思います。たくさんの経験を通して、将来を想い描く時に、幅広い視野を持つことに繋がっていくと思います。そういう意味で、さおさん(筆者)のように今からいろんな経験や活動などに参加しているのは、とっても素敵なことだと思います。そしてさおさんみたいな若者が増えると、社会はより多様な人が生きやすいインクルーシブな社会に繋がっていくと思います!

 

今回のイベントに私はClean&Artのメンバーとして参加しました。

タングラムを作ったり、壁を塗ったりしていくうちに、子どもたちや、保護者の方々とも自然に交流することができて、とても楽しかったです。

イベント最中の龍円さんは、参加者全員をまとめる力がある頼もしい姿が印象的でした。

 

参加者のお子さんにイベントの感想を聞いてみると、

「障がいのある人ってこんな子たちなんだなぁとか、こんな遊びをする子がいるんだなぁとか色んなことを知れて良かったです」

と、嬉しそうに話してくれました。

 

こうやって、人と人とをつなぐコミュニティを産み出しながら、環境美化に取り組む龍円あいりさんに、ぜひご注目ください!

大人から子供まで関係なく作業をすることが出来ました!

本当に沢山の気持ちが詰まったこの壁が落書き防止に繋がりますように

▲龍円さんと中学生ライター大角さおり

 

 

◾️龍円 あいり 略歴

1977年生まれ。スウェーデン・ウブサラ市出身。小中学校時代を東京、北海道、英国で過ごす。法政大学法学部政治学科卒業。
1999年テレビ朝日入社。アナウンス部所属(「スーパーJチャンネル」「やじうまワイド」「ぷっスマ」「おかずのクッキング」などを担当。
2006年より社会部記者として警視庁、北朝鮮拉致問題、東京都庁、宮内庁などを担当。
2011年テレビ朝日退職。
2012年米国カリフォルニア州へ移住。
2017年東京都議会議員選挙で初当選。
2019年マニフェスト大賞グランプリ受賞。

 

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