舞い上がるビニール袋、イヤホンコードを絡ませるための装置、札束を挟んだ機械ーー
一見すると意味のわからない装置が並ぶ「株式会社無駄 渋谷支展 ~無駄なおしごと体験~」の会場は、代表取締役の藤原麻里菜さんの作品が並ぶなんとも不思議な空間。
自身の“無駄づくり”をYouTubeやSNSそして文章で発信し続ける藤原麻里菜さんの作品は、まさにステレオタイプな価値観からは一線を画する面白さや驚き、そして時には感銘すら受けるという奥深さである。
藤原さんのYouTubeチャンネルの登録者数が10万人を超えるということからも、そういった発想を必要としたり、楽しんでいる人々の多さがうかがえる。
会期は9月11日までの「無駄なお仕事体験」。予約制のワークショップに参加する渋谷新聞のノエちゃんとそのお子さんと一緒に訪れてみた。
一見無駄とも思えるモノや行動の中に「ゆとり」や「面白さ」が潜んでいる!
株式会社オプテージの携帯電話サービス「mineo(マイネオ)
もともとマイネ王というmineoのコミュニティサイト内のスタ
いつか来るかもしれない「未来」や「ライフスタイル」を体験できる公開実験スペースとして作られた「マイラボ渋谷」と、藤原さんの作り出した無駄づくりによる「おしごと体験」。そのマッチングを通して、現代社会における「無駄な時間」の価値や意味を見つめなおすことを問いかけていくという。
“札束で頬を叩かれるとやる気が出る”という発想から生まれたやる気を出すための機械や、煩わしい謝罪メールをパンチングボールを一発殴ると定型文入力ができてしまう装置、オンライン会議を緊急脱出できる仕掛け、イヤホンを回転するマシーンに入れると絡まるのでそれを解く、生けられた花の奥から中指が現れたり、ビニール袋が舞い上がるのをただ見続けて過ごす。
個人的には、風であおられて舞うビニール袋を座って見続けることに一番時間を費やした。袋が踊っているようにも見えて、日々に疲れた身には心安らぐ癒しの時間となり、「無駄な時間」とはまるで感じなかったというのがこの展示のねらいなのかもしれない。
煩わしいけど仕方ないと我慢していたことや、無駄だと思っていたことに着目した作品は新しい視点を与えてくれる。
文字ではこの絶妙な面白さを届けにくいかと思うので、お時間のある方は是非、現地を訪れてみていただきたい。
そして今回覗かせてもらったワークショップでは、藤原さん自身をモチーフにしたと思われるプラスチック板に参加者はチェーンやシールなど思い思いのデコレーションを施す。そして藤原さんが電池やスイッチ、LEDの目のハンダ付けを指導してくれる。出来上がったのはスイッチを入れると目が光るというシュールでおしゃれなネックレスである。
“役に立つ意味のあるものばかり”が重宝される違和感
昔からものづくりが好きだったという藤原さん。「面白い人になりたい=芸人」だということで吉本興業の新人タレント養成所、総合芸能学院(NSC)に入所した。修了後はそのままよしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属したのが13年前。
「ライブに立つのが苦手で伸び悩んでいて…… そんなタイミングで事務所の勧めで始めたのがYouTubeでの動画投稿だったんです。
もともとインターネットは好きだったので、自宅でピタゴラスイッチみたいなものを作って動画をアップしようと思ったんです。2~3週間かけて部屋いっぱいの装置を作る予定だったのに、ようやく出来上がったのはテーブルサイズ。仕掛けは2~3個しかない上に、仕上がりもイマイチでどちらかというと失敗作。でもそれを失敗作とは呼ばずに『無駄づくり』というコンテンツにしてしまおうと考えました。それからは週に1~2個を目安に無駄づくりをつづけています」
一番最初の作品はピタゴラスイッチのような仕掛けによって、醤油差しから器に醤油を入れるというもの。そこから作り始めた無駄づくりは200個以上にもなり、2021年にはForbes Japan「世界を変える30歳未満の30人」に入選するほどの高い評価を得ている。
藤原さんは、「なくてもいいけど、あったら面白い」といったニュアンスのものから、企業から依頼を受けて新しい視点からコラボプロダクトを制作したり、文筆家として思うところを綴ったりしている。そして、ウェブサイトに掲載されている藤原さんのコラボレーションを呼びかける資料スライドは非常に興味深い(文末にリンクを掲載)。
「作品が完成することはもちろん楽しみだし、完成させることも好きなのですが、何よりも作っているプロセスが好きなんです。だから出来上がったものは完成度が低くても、予想していた仕上がりと違ってもいいんです。
無駄づくりを続けていくのは“使命”だと思っています。現在の価値観だと役に立たないものは排除されてしまうような風潮が蔓延している感じがしていて、メジャーなものしか認められないことが続くと面白いものが生まれなくなる。
無駄かもしれないアイデアが誰かの心を救うかもしれない、発展することで次のアイデアにつながるかもしれないのに、表面的な価値だけで必要ないとされてしまうのがイヤなんです。無駄づくりを続けることで、そういったことが忘れられないように光を当てていきます」
渋谷なら、人と違った格好をしていても誰も気にしない!
渋谷には買い物に来たり、友人と飲みにくるという藤原さん。それ以外にもインスピレーションを求めて渋谷を散策することも。渋谷駅前の雑踏で刺激を受けながら代官山へ向かい、たどり着いた静かなカフェで色々と考えをめぐらす。通り過ぎた人々、道に落ちているもの、溢れかえる人とモノがアイデアの素になるそうだ。
「普段は江東区にあるアトリエで作品作りをしているんですが、下町と渋谷では人もモノも違っていて、渋谷の方が老若男女への間口が広い感じがします。
ネックレスのワークショップも、実は今年6月に渋谷西武で行ったイベントがきっかけでスタートしたものです。渋谷といえばファッション。アクセサリーのワークショップをしようと思ったんです。そして渋谷だと、終了後に制作したネックレスを首から掛けたまま帰っていく参加者もいたりして。そういう、ちょっと目立つことや周りと違うことをしていてもいい、というのは渋谷の魅力だと思います」
株式会社無駄の社員は藤原さん1名だが、今回の展示を通して新しい制作方法にも挑戦したという。特に『イヤホンケーブルを絡ませるマシーンでイヤホンを絡ませて、またほどく』装置は、これまでと違う思い入れがあるそうだ。
「イヤホンを絡ませるマシーンは知人に設計を頼みました。今までは1人で考えて1人で作ることばかりだったので、人と作ることの楽しさを体験できたのは新しい発見でした。これからの活動のやり方が変わっていくきっかけにもなりそうです」
これからも“無駄づくり”を続けていくという藤原さんが、周囲を巻き込み始めたらどうなるのか!? 今回、藤原さんの作品に触れて「無駄なものっぽいけど、出会うと面白いもの」をこれからも見続けたいと思ったので、まずは藤原さんのYouTubeとSNSをフォローして、新しいネタを心待ちにすることにした。
◾️藤原麻里菜 略歴
株式会社無駄 代表取締役
1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25,000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。Forbes Japan「世界を変える30歳未満の30人」2021年入選。青年版国民栄誉賞 JCI JAPAN TOYP 2022会頭特別賞受賞
Twitter @togenkyoo
Instagram @mudazukuri
WEB https://fujiwaram.com/archives/1243
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCHFvKf-ATrhs3jbjj793N6w
◾️株式会社無駄 渋谷支展 〜無駄なおしごと体験〜
会期:8月8日(月)〜9月11日(日)
場所:マイラボ渋谷(渋谷センター街内)
WEB https://mylab-shibuya.jp/events/muda/
入場無料