「ハチペイ」で自分だけのお気に入りのお店を 渋谷区産業観光課 廣沢由紀子さん

2022年11月1日からスタートした渋谷区デジタル地域通貨「ハチペイ」。専用アプリにチャージをすると、渋谷区内の加盟店で支払いが可能になる、渋谷区独自のキャッシュレス決済です。地域通貨でありながら渋谷区民はもちろん、渋谷区に遊びにくる人や渋谷区で働く人も使える通貨として今、注目を集めています。そんなハチペイについて、渋谷区産業観光課産業振興主査の廣沢由紀子さんにその誕生秘話やハチペイへの想いをおうかがいしました。

 

スピード感を持った判断で地域経済を応援

 

ーーまず、「ハチペイ」についてお聞かせください

2020年度に新型コロナウイルス感染症で経営にダメージを受けた商店街や店舗を応援するために渋谷区でpaypayを使ったキャンペーンを計3回行ったんです。お店側としては「助かった」という感謝の声はありましたが、複数の課題が散見されました。今後、同じことを継続していくのは厳しいということで、渋谷区独自のデジタル地域通貨を作る話が浮上しました。私はpaypayキャンペーンを担当していた経緯もありハチペイの担当になりました。

 

ーー計画から実行までの期間がとても短いですね

そうですね。2021年の夏頃から約1年をかけてヒアリングをしました。やるかやらないか、やれるのか、ということも含めての調査から始まりましたね。アプリの作り方やキャッシュレス決済について学び、既にデジタル地域通貨を取り入れている自治体にヒアリングなども行い、コストや労力を調べ、予算として成り立つのかも含めて検討しました。「これならできそうだ」となり、2022年4月からプロジェクトが本格始動となったのですが、導入開始まで7ヶ月、ギリギリでした。

 

炎天下の中、加盟店を求めて渋谷を毎日歩き回る!

ーー決済するときの「ワンワン」がとても可愛いですね。決済音を決めるにあたって色んな「ワンワン」を聞いた、というお話を耳にしたのですが……

そう言っていただけて嬉しいです! たしかにいろんな「ワンワン」を聞きました。リアルな犬の泣き声や遠吠え、アニメっぽい声などがありました。他の決済アプリの決済音を聞いて研究したり、いろんな人にも意見を聞いてみたり。「これは犬が嫌いな人にとっては苦痛かな?」といったことも考えました。沢山聞きすぎて、よく分からなくなったかも(笑)。

 

ーーハチペイを推進する中で、どんなことが大変でしたか?

全てが想定通りにはいかず大変でした。アプリはできたけれど、使えるお店が少ないと利用してもらえないので、まずはインフラを整えるために加盟店を本当にゼロから開拓しました。商店街を一軒一軒営業で回り、「いかがでしょう?」とお願いをしました。当時はまだアプリが完成していなかったので、誰も知らないシステムを説明をしても、お店からするとちょっと怪しいですよね。何度も足を運んだり、DMを送ったりしました。

 

ーー何人くらいで回られていたのですか?

部署としてハチペイに関わっているのは私を含め3人です、他の部署から入ってくれた応援クルーも何人かいました。加盟店周りを始めたのが2022年の8月頃だったんですが、本当に暑くて外に出るだけで倒れそうな状況でしたがみんなで手分けし、歩いて回ってくれました。他に区役所内で加盟店募集のハガキをみんなに配って、「どこかお店に入った時はこれを渡してください」とお願いしたり、地道に拡めていきました。

 

ーー実は私が普段からよく行く地元のパン屋さんでもハチペイが使えてとても嬉しいです

それがまさに目指していたことで、日常使いしてもらうために、まずは普段使っているお店に導入してもらえるよう商店街を中心にまわっていきました。

 

改めて気づいた渋谷の魅力「まちと人の連動」

 

ーー渋谷の隅々まで歩いてみて、渋谷へのイメージは変わりましたか?

そうですね。渋谷は駅周辺の街のイメージがすごく強いですが、それ以外の町会にも良さがあって、それぞれがプライドを持っていると感じます。産業観光課にいるので商店街を中心にみることが多く、一つお店が変わると商店街の雰囲気ががらっと変わったりするんです。一つのお店や一人の影響力がすごいと感じます。そして、ファッションもカルチャーも常に流行の最先端が集まる場所なので、お店がすぐに馴染むように感じます。他の人を受け入れてくれる多様性もあるし、それぞれが自分たちの魅力を最大限に引き出す工夫をしている。みんなで「まちをよくしていこう」と動いている、まちと人の連動を感じます。

 

ーーちなみに、今のお仕事の前は何をされていたんですか?

文化振興課にいて、イベント系の仕事をしていました。毎年代々木公園で行われる区民フェスティバルの運営や文化団体の支援、その他の文化イベントの運営に携わっていました。一つの事業を1年を通してやっていくという点では、今の業務と共通するところがあります。

 

ーーもともと文化振興や街を盛り上げることに興味があったのですか?

いえ、もともとは歴史や美術史が好きで実は美術館の担当を狙っていたんです(笑)。あとは本が好きなので図書館などもいいですね。今の部署とはまるで違いますが、繋がりも増え、仕事が楽しいので、結果的には今の部署でよかったと思っています。

 

「ハチペイ」と「ハチポ」はフェーズを分けて。「ハチポ」では横の繋がりを

ーー「ハチペイ」と並行して「ハチポ」というものもありますが、違いはなんですか?

お金だけに頼らない仕組みとしてハチポを作りました。今回のデジタル地域通貨の目的は、産業振興・消費者支援・コミュニティ活性化の3つです。まずはハチペイでお店を支援し、今度はハチポを使って人と人との繋がりを作っていく連携。お金を起点とするけれど、結果的に地域や団体などのコミュニティ活性化につながっていくというサイクルを作っていきたいという想いがあります。

 

ーーハチペイは使っているのですが、「ハチポ」はまだ使えていません

実をいうとハチポはまだ区としても大きく打ち出せていないんです。まずはハチペイを定着させることで、2つの混同が起きないようにしたいと考えています。「ハチポプレゼント」とあった時に、それをハチペイと勘違いして後日支払いに獲得したポイントを使用しようとすると、「え? なんで払えないの?」と店頭でトラブルになるのが怖い。まずハチペイを覚えてもらって、ハチペイとは別にハチポがある、という認識を定着させるためにフェーズを分けて広めていこうと考えています。そういういった意味で、今年度はハチペイを広げていって、来年度からは「ハチペイを使ったお店で、今度はハチポでも楽しみましょう」という風に広げていく予定です。

 

ーーそうなんですね。私はこども食堂を運営しており、食を伝える体験も行っています。その体験にハチポが使えたらいいなと興味を持っているので、来年度に期待しています

ありがとうございます。ハチポはポイントを貯めてお店や団体で体験として支払うという仕組みです。ポイントを使える先が一番大事になのですが、そこがまだ弱いんです。「スポット」と呼んでいるのですが、スポットをもっと増やしていって、「貯めたらどこで使おう」という“選ぶ”楽しみも増やしていきたいと思っています。

こども食堂との相性もよくって。昨年参加させていただいたこども食堂のイベントでは、一つのこども食堂の中で、地域で活動されている団体や学生ボランティアサークルなど、色んな団体の方が入っているのが素晴らしいなと思いました。ハチポはコインとメッセージで感謝を伝えるシステムもあるし、横の繋がりでも使えるので、ぜひ、こども食堂などで仕組みの一つとして使っていただきたいです。

 

ハチペイを使い、渋谷に自分のお気に入りのお店を見つける

 

ーーハチペイを使って渋谷がどんな風になればいいと思いますか?

「渋谷」ってなかなか来ない人にとっては怖いイメージが多いと思います。私も区役所の職員になる前はそんなイメージがあったのですが、渋谷に通い安心できるお店や自分の居場所がいくつかできて。どういう人でも受け入れる雰囲気があるので、自分に合うお店や場所を見つけやすいというのも渋谷の魅力だと思います。なので、ぜひ多くの方に渋谷にきてハチペイを使って、自分だけのお気に入りの場所を見つけてほしいです。

 

ーーハチペイは渋谷区民以外でも使えるんですよね

はい、もちろんです。区民以外でも参加できるキャンペーンもあります。ハチペイはふるさと納税の返礼品にもなっている点をアピールしたいですね。区外在住の方が1万円寄付をすると3,000円分のハチペイが貰えます。総務省の決まりで、利用対象施設が飲食店・理美容・宿泊業に限られていますが、髪を切ったり、ご飯を食べたり、渋谷に来る方は沢山いらっしゃると思うのでとてもお得です。

ふるさと納税でもらえるハチペイはアプリの中で、別のお財布に分けられます。そういった仕組みがまだまだ分かり難かったり、使いにくい部分もあると思うので。ユーザーのみなさんから頂く意見を参考にして、改修を続けています。

 

ーー利用者にとってもフィードバックをする甲斐がありますね

そうですね。常にアップデートをしていて、みなさんからのアイデアを入れ込むことができています。この先の開発スケジュールもかなり詰まっていてまだ暫くは忙しいですね。

 

 

ハチペイを推奨しながら気づいた渋谷区の新たな魅力について丁寧に語って下さった廣沢さん。その目の奥はキラキラと輝いており、渋谷の魅力をもっと沢山の人に知ってもらいたいという熱い想いを感じました。渋谷区内で買い物をしてハチペイで支払いを行い「ワンワン」というキャッシュレスオンを聞く度に真夏の厳しい日差しの中、渋谷中を歩き回ってくださった区役所の方に感謝の想いを抱いています。

ハチペイの普及により渋谷の経済が活性化されることはもちろん、ハチペイが誰からも愛される渋谷のシンボル「忠犬ハチ公」のような存在になっていけばいいなと思います。

 

◾️廣沢由紀子 略歴

渋谷区産業観光文化部産業観光課産業振興主査
平成21年入区。文化振興課を経て、令和3年から産業振興主査に就任。地域通貨事業のほかに、就労支援や空き店舗活用事業を担当している。

 

◾️ハチペイ
HP: https://www.hachi-pay.tokyo

 

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