緑が減る渋谷に農と食に触れる機会を プランティオ芹澤孝悦さん

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プランティオ株式会社は、「持続可能な農と食をアグリテインメントな世界へ」をテーマに、持続可能な農と食的活動を支援するプラットフォーム「grow」の開発・提供をされている会社です。地方や海外で生産し物流過程を経て食卓に並ぶ従来の「農業」だけに頼らず、家庭やビル屋上などで、地域住民が主体となって自律分散型の「農」を育む、持続可能な世界の実現を目指し活動されています。

渋谷という大都会の中でどのようにして農的活動を実装されているのか、今回は代表の芹澤孝悦さんにお話を伺ってみました!

渋谷との深い繋がり

ーーではまず、自己紹介をお願いします。

出身は渋谷区神泉町で、父の実家がある場所です。祖父は「プランター」を発明し、セロン工業を創業した芹澤次郎です。私はセロン工業の三代目を継いで、同時に2015年から孫泰蔵さんと共にプランティオというスタートアップも創業しました。農園を作り、IoTでガイドシステムを開発し、農と食に触れるタッチポイントを提供する事業を行っています。

ーー「プランター」という言葉自体も芹澤さんのおじいさんが考えた言葉だと聞いたのですが、てっきり「プランター」って英語だと思っていました!

プランターという言葉は、祖父が「植物(プラント)」と「人(ER)」を組み合わせて名付けました。実は「プランティオ」という社名にも「植物に愛を」という意味が込められています。プランターという言葉は、現在正式に英単語として登録されているのですが、もともとは祖父が発案した和製英語なんです。今や世界中で知られるモノになってるけど、実はプランターは渋谷生まれなんです。

農が減る渋谷に農と食に触れる機会を作りたい

ーープランティオではどんな活動をされているんですか?

僕らはビルの上や公園の中、屋内など、あらゆるところで「農と食」に触れる“タッチポイント”を作ること、それから野菜栽培のガイドシステムの開発も行っています。人々が育てることで地域が繋がり、自身も成長できると考えています。

これらの活動の背景には、祖父から受け継いだ想いもあるんです。祖父はプランターを発明することで、緑が減る渋谷で植物に触れる機会を作りたいと考えていました。せめてベランダだけでも農と食に触れてもらいたい、自然に触れてもらいたいという想いが強くあったんです。僕はそんな祖父の想いに共感し受け継いで、今この活動をしています。

ーー循環を永続的なものにしていくような取り組みをされているんですね。

そうですね。僕らの取り組みの中には主に2つの循環があります。1つ目に、僕らの提供している野菜の種はライセンスフリーの種なので、種取りの方法までガイドします。また次の年の同じ時期に種が撒けるという点で持続可能性です。もう1つの持続可能性としては「堆肥」です。ビルから出る生ゴミをコンポスティングして堆肥として使っています。実は、日本の肥料の自給率はほぼ0パーセントでほとんど全てが海外からの輸入なんです。仮に農業という産業のライフラインが明日途切れてしまったら、日本人全員餓死しちゃうかもしれない。そんな時に必要なものこそ、持続可能性の根源である「種と堆肥」です。僕はそこがないと持続可能じゃないと思っているので、種と堆肥という部分から着手しています。

都会でも自給自足はできる

ーー私自身、ずっと渋谷に住んでいて、田舎に比べるとどうしても都会でのコンポスト活動や野菜作りをすることに困難さを感じているのですが、何かコツなどありますか?

まず、すごくシンプルな解決方法を提案するとすれば、僕らのgrowシステムにとびこんでもらえれば、いくらでもライセンスフリーの種を無料提供できます。農園で採れた種なので無料で配りまくっているんです。種が届いたら、僕らのgrowアプリで“育てる場所”と“育てたい野菜”をセットしてもらえれば、AIによってその場所でガイドが始まります。プランターひとつでも始められるし、僕らのようにビルの上に農園を作ってもいいですね。こんなふうに野菜の栽培は簡単にスタートできるんです。

ーースゴイ!なんだか急に野菜作りに対するハードルが下がった気がします。都会での自給自足も案外実現できそうだと思えてきました。

そうですね。まさに僕は都会で農的活動をすることの敷居を下げたいんです。大変だとか難しいとか環境にいいからやろう、じゃなくて、“おもしろいからやってみたい!”という世界にしていきたいんです。都会での自給自足も理論上は可能なので、まずははじめの一歩を恐れずに始められるような環境づくりをサポートしていきたいです。

農と食に触れる

ーー「農と食に触れる」というキーワードがありましたが、農的活動をして「育てる」だけではなく「食べる」というところまで重点を置いていらっしゃるのには、どんな理由があるのでしょうか?

まず前提として「農」と「農業」っていうのは法律上も全く意味が違うんです。農業というのは産業のことで、僕らのいう「農」は一般の方の農的な活動のことを指しています。なので、ただ野菜を育てるだけでなくて、作った野菜をどう食べるかまで考えてから育てることが原理原則だと思ってます。祖父が発案したベランダ菜園や家庭菜園は、まさに「食べる」ことに重点を置いているんですが、どうも育てるだけで終わってしまうことが多いんです。一方、世界では「*アーバンファーミング」と呼ばれ、ニューヨークやパリ、ロンドンなどでバンバン社会実装されていて、育てた野菜を持ち込める飲食店もめちゃくちゃ増えてるんです。じゃあなんで渋谷でできないんだろうってずっと思ってるんですよね(笑)。だからこそ、僕が突破口を開いて、アーバンファーミングというカルチャーを社会実装したいという強い思いがあります。

*アーバンファーミング:都市における農を通じた持続可能な生活文化

 

ーー「SHIBUYA Urban Farming Project」について教えてください。

SHIBUYA Urban Farming Projectでは、都市に住む私たちができることは何かを考え、渋谷区内でのFARMの設置支援や、地域団体との連携による食育活動、地域住民が参加できるイベントなどを実施しています。

詳しくはこちらから▶︎SHIBUYA Urban Farming Project

デジタルテクノロジーの活用

ーー私自身、高校生の頃からパーマカルチャー*を学んでいて、理想的だと思う反面、マネタイズがうまくできておらず、経済面での永続性に問題意識があるのですが、資本主義社会のど真ん中である都会で実装できるものなのでしょうか?

たしかに、パーマカルチャーなどを社会実装する上でマネタイズは直面する問題だと思います。どれだけ価値のある素晴らしいものでも、見える化されないとどうしても社会実装されづらいんです。だからこそ、デジタルテクノロジーを取り入れることが重要だと考えています。僕らのガイドシステムでは、野菜栽培のサポートをするだけでなく、環境への貢献がどれくらいできているのか可視化できる仕組みが備わってます。数字として可視化できるというのは、企業や行政にとって嬉しいことですし、導入のしやすさにも繋がってきますよね。加えて、野菜栽培をするとその地域で使えるポイントがたまるシステムになっているので、ユーザーにとっても地域の人にとってもメリットがあります。こんなふうに見える化することによって、アーバンファーミングに内在する価値を、環境だけでなく全ての人に還元することができ、結果良い循環へと繋がっていくんです。

*パーマカルチャー:永続可能な循環型の農業をもとに、人と自然が共に豊かになるような関係性を築いていくためのデザイン手法

渋谷茶

ーー「渋谷茶」について教えてください。

実は、渋谷はもともとお茶の一大産地なんです。江戸時代から松濤鍋島藩を中心にお茶と桑の栽培を奨励していて、代官山から西原まで、渋谷全体にお茶畑が広がっていました。お茶の名産地である静岡同様、谷の角の部分はお茶ができやすいので、地形的に渋谷はお茶作りに向いていたんです。長い間、お茶の栽培はされていなかったんですが、2018年に伊藤園さんと地元のNPOの方々が、渋谷茶の苗木を松濤公園で奇跡的に発見したことをきっかけに、『幻の銘茶「渋谷茶」復活プロジェクト』が始動しました。

ーー松濤公園に渋谷茶の苗木が!渋谷茶はもう完成したのでしょうか?

今はまだ苗の状態です。将来的には、この苗を渋谷区の色々な場所に置いていって、みんなで3年間育てていきたいです。茶葉ができたら、渋谷茶を飲めたり茶摘みの体験もできるようなワークショップを開いて、“体験できるお土産”になると素敵だなと思います。

消費者・そして生産者に

ーー最後に、芹澤さんが目指す未来について教えてください。

「買う」以外に「作る」「分ける」など、さまざまな選択肢がある世界になればいいなと思います。例えば、江戸時代の人々は各家庭に農園があって、自給自足していましたし、取りすぎちゃった時はおすそ分けしていました。しかし農業が産業となったことで「作る」ことが他人事になり、プロダクトとしての野菜になってしまったんです。自分で育てると、できた野菜の状態に合わせて自分で食べ方を考えて食事をするので、思いがけず新たなレシピが誕生することもあるんです。そうやって、食を通じて人々が繋がり、新しい食文化が生まれることを願っています。そして、みなさんが自身の手で農に触れて頂く事で、農業の偉大さ、尊さを知っていただけたら嬉しいです。

インタビューを終えて

私も芹澤さんと同様に渋谷区で生まれ育ってきて、幼少期はご近所付き合いがあり、親の不在時に預かってもらったり、ご飯を作りすぎた時におすそ分けするなどの交流がありました。けれど成長するにつれてそのような交流が全くなくなり、同じ空間にいてもそれぞれで生活していて、共生している感覚が希薄化しているなと感じています。独居化が進む現代で、他者との繋がりが減ったことにより生まれた孤独感は多くの人が抱える問題ではないかと思います。そんな現代だからこそ、芹澤さんが提案するアーバンファーミングを自宅やオフィス街で実装することで、ご近所さんとコミュニケーションを育むきっかけになって、環境にも人にも心にも良い循環が生まれるのではないかと思います。

印象的だったのは「緑が減る渋谷で植物に触れる機会を作りたい」という言葉で、この言葉は私がアーバンファーミングに興味を持ち始めた中学生の頃からの目標でもあります。正直、地方に比べると都会は植物を育てる上での動線があまり確保されておらず難しいのでは、と感じていたけれど、実は全くそんなことはなくて、案外簡単に始められることなのだと、今回のインタビューを通してたくさんの学びがありました。

自然が持つパワーは偉大です。ストレス社会の中で自然に触れる機会を求める人が増加傾向にあるけれど、日常生活の中に植物と触れる機会を作ってみてはいかがでしょうか?

 

◾️芹澤孝悦

1949年創業、東京・渋谷で”プランター”を発明したセロン工業を母体としたスタートアップ。ご家庭のベランダや、商業施設の屋上、オフィスやコワーキングスペースなど、あらゆる場所でたのしくアーバンファーミング(都市農)を行うための野菜栽培ガイド付きデジタルファーミングプラットフォーム”grow”を展開。環境貢献度の可視化や、地域通貨と連携し、農と食のある街づくり、DXを越えたSXを推進。経済産業省のスタートアップ支援プログラム『J-Startup』選抜スタートアップ

https://plantio.co.jp/

 

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