渋谷区に住んで20年、2児の母である森田さん。大手メーカー、旅行会社、イベント会社に勤務し、結婚を機に退職、「NPO法人代官山ひまわり」を創設し「子育て世代が町の担い手に!」をスローガンに7年間代表を務めました。現在では渋谷区議会議員として活動されています。
筆者と森田さんとの出会いは、すべての女性がWell-beingに自分らしい人生を自分で選択するために活動する「I LADY × Women’s Wellness Action × Life Tuning Days」の3社がコラボレートした【CHOICE FES SHIBUYA】に2022年10月に伺った際、登壇されていた森田さんのお話に興味を持ち、今回取材させていただくことができました!
子育て世代のためのNPO団体設立まで
ーーさっそくですが、森田さんは元々何をされていたんですか? また、どうして渋谷区の議員さんになられようと思ったのですか?
NPOの代表を7年務めていました。私は、子育てをする女性の働き方がもっと多様であるべきだと思っています。働き方はたくさんあるけれど、出産・子育てなどを経て、また少しだけ働きたいという女性に合う働き方がない。子育てをしていて先が見えない中で、誰かとチームを組んで働ける仕組みがあったらいいなと思い、「代官山ひまわり」というNPO団体を立ち上げました。立ち上げた当初の2010年ころは、子どもを産むと仕事を辞めなければといけないという風潮があり「頑張ってきたのに、なぜ女性だけがキャリアを諦めないといけないんだろう」と疑問に思いました。むしろ子育てをしている視点はキャリアになると思い、子育てアドバイザ-資格も取りました。
区議会選出馬にあたり
ーー選挙に出馬されたときのご家族や周囲の方の反応はどうでしたか?
元々は議員志望ではありませんでしたが、夫の後押しで区議会選挙に出馬することにしました。当初は私自身、政治にあまり興味がなく、政治家を身近にも感じていなかったので、立候補することに半年くらい悩みました。でも、NPOの代表を務めながら行政に声が届かないもどかしさを感じていたので出馬することにしました。1回目の出馬は2015年、無所属で立候補し惜しくも落選してしまったのですが、もう1回出馬することにしました。
ーーどうして2度目の出馬を決めたのですか?
落選してから4年後、もう1度出ようと思ったのは、落選した際に、子育てをしている世代の方たちから「残念だったけれど政治が身近に感じられた」といった声がたくさん集まり、子育て中の母である私が区議に立候補したからこそ、皆さんが政治を自分ごととして考えてくれる機会を作ることができたのだなと思いました。なので、もう1度立候補することにしました。また、初めての立候補から4年間、様々な活動を積み上げながら、地域での関係性も広がってきて、子育て世代や女性の視点で政策を進めたいと、以前よりもさらに強く思うようになっていたことも大きな理由でした。
きっかけは「Z世代の性教育」
ーーわたしも関心があることなのですが、Z世代の「性」についてどうお考えですか?
私には現在高校3年生の娘がいるのですが、娘が高校1年生の時、突然「お母さんって若い時どんな人と付き合ってたの?」など、恋愛の話をするようになったんです。その時に、嘘をつくよりも包み隠さず話したいなと思いました。また、娘の中学校の保健体育の先生に、どんな教科書を使っているのか、性教育をどこまで行っているのかお話を聞いた際に、教科書の内容には表現の制限などがかかりすぎていると感じました。学校の教育から変えるのは難しい、だったら民間で始めないと!「性」を隠す今の日本社会、どうしてそんなに隠さないといけないんだろう? という思いを持っています。
そんなタイミングで、2021年のSIW(ソーシャルイノベーションウィーク)で「Z世代の心と身体の性を考える」というトークイベントがありました。
そこでKARADA内科クリニック渋谷院長の田中雅之先生が性感染症について話していたり、国際NGOジョイセフの小野さん、「人生をデザインするために性を学ぼう」をコンセプトに活動するピルコンの染谷さん、さらに渋谷区議会議員文教委員会の一柳直宏さんと神薗まちこさん、一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局次長(当時)の長田新子さんがZ世代の性教育の現状について話していたんです。
実は、この「Z世代のココロとカラダの性を考える」というトークイベントがきっかけで、日々直面する女性特有の健康課題への認知を拡大する必要があると感じ、解決のための行動を促進することを目的にした「Women’s Wellness Action from shibuya」という実行委員会を2022年に設立しました。
女性を取り巻く健康課題
ーー森田さんは女性周りの活動をたくさんされていると思います、具体的にどんな活動をされていますか?
女性の健康課題はたくさんあります。生理から始まり、子宮頸がんや乳がん、更年期といった身体の症状や、子どもを産むか産まないの選択といった問題もあります。
海外では、生理用品の無償配布や課税廃止が実現しているのに、日本のトイレには、消耗品なのに生理用ナプキンが設置されていないといった「生理の貧困」に取り組む女性団体と対談をした時に、とても共感を覚えました。“貧困”とは何だろうと考えた時、生理用品を買えない貧困だけでなく、生理痛や、それに伴い沈んでしまう悲しい気持ちも貧困の1つといえるかもしれません。どうして女性だけがこんな気持ちにならないといけないのか。そもそも生理を隠す社会がおかしいのではないか、性に対する教育があまりなされていないことも問題だと考えるようになりました。
区議会議員になって2年目に、同じ会派の神薗まちこ議員や橋本ゆき議員ともこのような話をする機会が増え、3人で意見が合致しました。
「じゃあ順番に、リレー形式でこの件に関する質問を議会で投げていこう」となりました。最初の頃は「性」について言い過ぎだと言われていましたが、だんだん「フェムテック」という言葉が馴染みはじめ、私の所属する「シブヤを笑顔にする会」では「性教育は大事だ」と認識されるようになってきていると感じます。
隠すのではなく事実を知ることから考える
ーーやはりネットに記載されている情報は膨大で、何を信じていいかわからない学生も多いように感じます
先ほどもお話しましたが、私には18歳の娘がいて、自分の高校時代のことを話す機会もありますが、それは参考情報にしか過ぎず、自分がどんな行動を取るか決めるのはもちろん娘自身です。
若い子が避妊などの性に対して責任を持つようになるまでの間、性の正しい知識がなかったり、断れずに流されてしまったり、「これで良かったのかなあ」と悲しい思いをしてほしくない。
今の世の中には膨大な情報があふれていて、どの情報が正しいのか見極めるのが難しいですよね。「Women’s Wellness Action from shibuya」では、性に対して責任を持つことだけでなく、自分の身体を自分で守れるよう、正しい情報を届けるように日々活動しています。
森田さんにとって渋谷とは? その他の力を注いでいる活動とこれから
ーー今回取材するにあたり、森田さんのことを事前に調べてみると色々な活動をされていることがわかりました。その中でも注力してきた活動はありますか?
渋谷の課題の一つ「落書き」に関しては、落書き消しの活動を区議になる前から行なってきました。今では落書きを消すだけではなく、スペシャルニーズ(障がい)のある人もない人も、大人も子どもも一緒に壁画アート創作に取り組む「インクルーシブアート」活動に発展しています。
また、防犯パトロールの活動もしています。渋谷のセンター街と中央街、駅の周りの商店街の役員のみなさんや警察、渋谷区職員と一緒に、月2回のパトロールに参加させてもらいはじめて3年になります。きっかけは、客引きの強引な声がけで怖い思いをする人がいないように、若い子を守りたいという思いで始めました。
渋谷区には「客引き防止条例」というものがあって、例えばアルコールが提供されるお店が敷地を出て入店誘導をすることや、敷地外に看板を出すことを禁止するルールがあるんです。にも関わらず、いまだに客引きを行っているお店があり、それらを改善するために地域の人たちが協力してパトロールをしています。特に私の中では、若い女の子たちを守りたいという思いが強いです。
これから加速していきたい活動は、女性からの視点を持って、性別に関係なく健康課題に関わる政策を実現させたいと思っています。
ーーそれはどんな政策ですか?
30〜50代のミドル世代に向けた政策は実はあまりありません。ミドル世代での健康状態が60〜70代に影響してくるので、もっと生き生きと暮らすためにもミドル世代への提案をしていきたいです。
今は男性の尿漏れ対策に興味があって、尿漏れは、誰も口にしないけれど男女問わずあります。ちょっとした事かもしれませんが、尿漏れのような、誰にでも共通で起こり得るけれど言いづらいことに向き合う議員でありたいと思っています。そして女性の視点からそのような健康課題を、政策を通して解決できるようにしていきたいです。
また、「渋谷区に行けばナプキンがもらえる!」というくらい区内の至る場所に生理用ナプキンを設置し、誰でも必要な時に手に取ることができる、ホスピタリティのある街にしていくのも1つの夢です。生理用品に限らず、それは尿漏れでも同じです。例えば尿漏れ対策になる吸水パッドを、公共施設のトイレでもらって実際に使ってみる。など、身近な健康課題を改善するために、渋谷からムーブメントを起こせるような、そんな街にしたいと思っています。
さらに、「ゆらぎ世代」と呼ばれる、40代を過ぎた多くの女性は心身に変化を感じ始めます。世の中ではこのことを「更年期障害」と言いますが、「更年期!」という言葉を障がいとして捉えるのではなく、女性特有、男性特有の健康課題をポジティブに行政サービスでサポートしたいと考えています。
森田さんだからできること
ーー最後に伝えたいことはありますか?
実はわたし、高卒です。区議になり「どこの大学を出ているのか?」と問われることもよくありました。でも、私の人生で最終学歴が高卒でも困ったことはなかったです。活動を続けていくうちに、学歴は関係なく、他の区議会議員とは違う環境で生きていたからこそ、私にしか無いものやアイデアがあると気が付きました。私は区民の皆様に少しでも応えていくことが何より大切だと考えています。渋谷区はちがいを力にかえる街。色々な人がいて共創していくことが、渋谷をより良い街にしていくことだと思っています。普通の専業主婦だった私が議員となり、当初考えていた以上に多くの方と関わり活動させていただいていることに日々感謝しています。
明るくて、パワフルな森田さん。1時間40分に及ぶ長い取材に快く応じてくださいました! 「若い女の子を守りたい」「若い子に悲しい思いをしてほしくない」といった思いや、「人と関わる仕事がしたい!」という森田さんの、まっすぐでポジティブなお話をたくさん伺うことができとても有意義な時間でした。
◾️森田ゆき
渋谷区議会議員 福祉保健委員会、交通・公有地問題特別委員会。シブヤを笑顔にする会。NPO法人Loco-working協議会理事。ひまわりガーデン代官山坂実行委員長。渋谷区在住16年。2児の母。大手メーカー、旅行会社、イベント会社に勤務し、結婚を機に退職。渋谷区民となる。第1子出産後、盲導犬育成支援活動や、身体障がい者の社会進出と自立促進をサポート。
第2子出産を機に、「NPO 法人代官山ひまわり」を創設。「子育て世代が街の担い手に!」をスローガンに7年間代表を務めた。現在、代官山ハロウィン、グリーンバード代官山など、多様な人たちと地域をつなげる活動を行う。
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