人を助ける人を助ける仕事 シブヤ大学代表理事 兼 マネージング・ノンプロフィット 代表理事 左京泰明さん

まちのあらゆる場所を教室に、多様な授業を開催している特定非営利活動法人シブヤ大学の創設者であり、代表理事である左京泰明さん。様々なまちづくりプロジェクトやNPOの経営支援などを行う一般社団法人マネージング・ノンプロフィットの代表理事でもあります。
筆者とはかれこれ10年以上の付き合いになりますが、改めて渋谷への思いについて熱く語ってもらいました。

ソーシャルビジネスとの出会い

学生の時から“人のためになる仕事がしたい”と考えていました。所属していた早稲田大学ラグビー部に“ソーシャルリーダーとしてあれ”という教育があります。憧れの先輩でもあり、2003年にイラクで殉職された外務省元外交官の奥克彦さんが講演されたのを聞いたときに、あんな人になりたいと思いました。
なので、学生時代から民間企業よりパブリックセクターの方に興味がありました。ただ、ビジネスのことを知らずに“世の中のために”といっても説得力がないのではと思い、一度はビジネスを学ぼうと2003年に商社に入りました。

その後、当時注目されていたソーシャルビジネスを知りました。MOTTAINAI(もったいない)という言葉を広げたワンガリ・マータイさんや、ムハマド・ユヌスさんが注目され始めた時代ですね。
ビジネスの手法をつかって社会的な課題を解決するというソーシャルビジネスこそ、自分がやりたいことだと思いました。

その中で知ったのが、今の渋谷区長である長谷部健さんなんです。2005年3月に初めて長谷部さんに会って「ソーシャルビジネスをやっていきたい! 何をするのかは決まっていないけど、会社に辞表は出しています」という話をしました(笑)。
「何も決まってないのであれば、自分がやっている活動を手伝ってみれば」って言われて、二つ返事でやらせていただくことになりました。そして、2005年10月に認定NPO法人グリーンバードの副代表になりました。

その時にちょうど、長谷部さんが区議として渋谷区に提案していたのが「シブヤ大学」というプロジェクトだったんです。2004年の渋谷区議会で「渋谷区立シブヤ大学」を提案し、その後、行政主導ではなくてNPOで運営したらどうかという検討が始まった矢先だったんです。私もその検討会に入るようになって、考えれば考えるほど自分でやりたくなって、代表をやらせてもらうことになりました。そして、2006年9月7日に特定非営利活動法人シブヤ大学を設立しました。

誰もが安心して話し合える場所へ

▲シブヤ大学10周年特別講義の様子

シブヤ大学は設立して今年で17年になりますが10周年を迎える2016年に、「20周年の時にはどうなっていたらいいのか」仲間で話し合いました。シブヤ大学は、もともと生涯学習事業からはじまりましたが、年を追うごとに地域の方からの様々な相談や、地域のNPOとの連携など、いわゆるまちづくり事業が増えてきました。そこで、シブヤ大学は改めて生涯学習事業に軸足を置き、まちづくり事業についてはシブヤ大学とは別の団体を立ち上げ、それぞれを成長させながら適宜連携していこうということになりました。
そこで2017年に「非営利組織の経営」をテーマに、マネージング・ノンプロフィットを立ち上げ、シブヤ大学は2020年から大澤悠季学長を中心とした執行体制になって、私は代表理事として関わっています。

 

地域における社会教育や生涯学習には様々な役割があると思いますが、今、重要視しているのは「誰もが安心して話し合える場」をつくるということです。大人世代は、今の若い人たちはSNSを通じて社会についての自由な意見交換を行っていると思っているかもしれませんが、若い人に話を聴くと実はそうではないということが分かってきました。
インターネット上のいろんな意見を持っている人々がいる中で、確たる強い意見を持っていない人は発言しにくいという状況があります。何か間違ったことを言うと炎上してしまうんじゃないか、誰かとの関係が壊れてしまうのではないかという怖さがあるからです。。
一方で、リアルな友達同士の間でも社会についての真面目な話やプライベートなテーマは、その友達との価値観が違うということが明らかになってしまうと、その後の関係に影響してくるので話しにくいという声を聞きます。社会のことやちょっとまじめなこと、悩みなどを安心して話せる場が中々ないんですよね。
シブヤ大学という学びの場は、そういうニーズの受け皿にもなれると思っています。安心して誰かと一緒に学んだり意見を言えたり考えたりすることができる場になればいいなと思います。

▲シブヤ大学の講義の様子

「原宿表参道欅会」という商店街振興組合の方から、なぜ表参道に欅の木が植えられているのかという話を聞いたことがあります。欅は葉が落ちるので管理が大変ですが、原宿はファッションの街、ファッション、すなわち流行は常に変化していくもの。原宿表参道は常に変化とともにあるという意味で、あえて欅を植えているのだと。すごく渋谷らしいなと感じました。
渋谷には若い人たちの新しい活動や価値観に対してポジティブで、受け入れることができる懐の深さがあります。27歳でシブヤ大学を始めた時も、温かく応援してくれる人が多かったですし、そんな土壌が渋谷の大きな魅力だと思います。

渋谷から地域を耕す活動を

▲TEN-SHIPアソシエーションの活動

マネージング・ノンプロフィットのまちづくりの仕事は、現在は地域福祉分野を中心としたNPOに対する経営面からの「運営サポート」、そして、「行政と連携した様々なプロジェクト」に取り組んでいます。

「運営サポート」は、元々シブヤ大学の活動を通じて出会った地域の方々から、こんなことで困っているとか、手伝ってほしいという相談を頂いたことで増えていきました。
例えば、2019年から笹塚・幡ヶ谷エリアで、一人暮らしの高齢者の見守りや公的サービスの枠組みには当てはまらない生活上の困りごとを支援する「TEN-SHIPアソシエーション」の立ち上げ、運営基盤整備のサポートをしています。
きっかけは、長く笹塚の地域包括支援センター長を務められた戸所さんから、行政サービスの中では支援が届かない人に対して、もう一人の家族のように寄り添う活動が必要なんだというお話を聴き、非常に共感したことです。現在は「ささはたまちのお手伝いマネージャー」という活動として、多くのボランティアの方と一緒に、細やかなニーズに応える活動をしています。

 

これらの活動は全て渋谷区内での活動です。
渋谷という街は、歴史的にも文化的な発信力や影響力があります。
シブヤ大学の取り組みが地域密着型の生涯学習のモデルとして、日本全国に広がっていったように、渋谷で現代社会における、多くの地域に共通する課題の解決につながるモデルをつくることができれば、それがヒントとなり、いろんな地域へ自然と広がっていくと思っています。

「行政と連携したプロジェクト」の例でいうと、2017年から事務局を務めている「渋谷おとなりサンデー」事業もすでに長崎市や川崎市に広がっています。
渋谷での取り組みの情報を出来る限りオープンにして、成果はもちろん課題も含めて、それぞれの地域の方々と経験を共有していけることが理想ですね。


近年の教育や福祉などの政策からは、今後より一層、それぞれの地域において、地域に暮らす人々の多様なニーズに応え、課題を解決していくことが期待されていると感じます。そのような中、地域福祉の担い手としてのNPOや市民活動を盛り立てつつ、企業や行政とも連携していきながら、より多くの主体が連携協働しながら地域をつくっていくような流れを加速していきたいと思っています。
渋谷区の地域振興課と協働している「渋谷おとなりサンデー」事業も毎年6月の第1日曜日はおとなりさんと仲良くする日という形で呼びかけ、立場・所属関係なく渋谷の人たちが思い思いの場を企画して開いています。2017年の開始当初はお声がけできた団体が39だったのが、7年で250もの個人や団体にまでつながりが増えました。渋谷おとなりサンデーを通じた団体同士の交流も生まれています。小さな活動を大事に、いろんな地域で自発的に交流が生まれるということを後押ししていきたいです。

 

渋谷には、いわゆる「渋谷」としてイメージされるような世界に向けたプロジェクトがある一方で、そこに暮らす人々の生活上の課題を地道に解決していく、いわば地域を耕すような活動がたくさんあります。地域福祉の担い手として活動しているNPOや市民団体の方々の、献身的な活動は本当に尊敬しているのですが、一方で、財政や組織運営など団体の経営面で課題を抱えていることが少なくないことが分かってきました。

つまり、困っている人を日々助けている人たちを、誰かが助けないといけない。
今はその活動、“人を助ける人を助ける”ことが私の役割だと思っています。
人を助ける人や団体が一つでもいきいきと仕事ができる環境がつくれると、その先のひとたちも幸せになり、地域全体としてのインパクトが期待できると思います。

▲2023年1月27日にインタビューしました

 

◾️左京泰明(さきょう やすあき) 略歴

特定非営利活動法人シブヤ大学 代表理事
一般社団法人マネージング・ノンプロフィット 代表理事

1979年、福岡県中間市出身。早稲田大学卒業後、住友商事株式会社入社。2005年、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスに感銘を受け、非営利分野で起業すべく退社。2006年、「街がまるごとキャンパス」をコンセプトに、特定非営利活動法人シブヤ大学設立。その後、地域づくりを担うNPOの多くが経営面で課題を抱えることに気づき、2017年、NPOの経営力強化を行う、一般社団法人マネージング・ノンプロフィットを設立。地域を社会の縮図と捉え、行政・企業・市民等、セクターを超えた主体と連携しながら、社会課題の解決、地域づくりに取り組んでいる。2020年より、神奈川大学社会教育課程非常勤講師。

特定非営利活動法人シブヤ大学HP:https://www.shibuya-univ.net/
特定非営利活動法人シブヤ大学twitter:@shibuya_univ

一般社団法人マネージング・ノンプロフィットHP:https://mnp.or.jp/

 

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