2022年3月の『国際女性デー』月間にあわせ「女性の健康が世界を変える」をスローガンに、女性が日々直面する女性特有の健康課題への認知を拡大し、解決のための行動を促進するプロジェクトWomen’s Wellness Action from Shibuya (以下WWAs)が発足しました。
女性のココロとカラダの健康を啓発するSNSキャンペーンの実施や、3月6日に行われた「ホワイトリボンラン」と3月20日に開催された「渋谷·表参道 Women’s Run」を連携し、参加者にロゴステッカーの配布や、ロゴ入りチャリティエコバッグ”SHIBUKURO”の販売などを行いました。
今回は実行委員長の一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長 長田新子さんと実行委員の国際協力NGOジョイセフの小野美智代さんに、発足の背景についてそれぞれの立場からのお話を伺うことができました。
人も企業も巻き込んで女性の健康を考えていく
ーー小野さん(トップ写真右)、ジョイセフという団体についてお聞かせいただけますか。
小野さん(以下敬称略):
ジョイセフは女性のセクシュアル·リプロダクティブ·ヘルス/ライツ*、ジェンダー/女性のエンパワーメント等の分野で途上国の支援活動を行うため54年前に立ち上げられました。
*略してSRHR。家族計画、母子保健、HIV/エイズ、思春期保健といった性と生殖に関する健康と権利のこと
ずっと途上国支援を主に行なっていたのですが、東日本大震災後、復興支援で福島の被災地に行ったところ男女の格差に驚いたんです。3世帯同居の家庭も多く、支援金は世帯主の口座に入ります。孫世代の妊婦さんにまでお金が回らないということも多い。そこで産後の女性2,400人に対して義援金を渡すことにしました。5万円という義援金を手にした女性の中には、初めて自分が使えるお金を手にしたと泣いて喜ぶ女性もいました。避難所では女性への配慮はなく、ましてや生理用品の不足や生理中の女性への配慮なんてありません。
日本のジェンダーバランスやギャップ、そしてバイアスは深刻で、ジョイセフの取り組む「女性の健康」の分野で、日本特有の課題が山積みであるとに気づき、途上国だけではなく、日本国内をも視野に入れて活動することになりました。その一環として私たちが2016年に始めた「ホワイトリボンラン」と「渋谷·表参道 Women’s Run」は、同じ3月に開催される女性のための走る大会なので、いつかつなげたいと思っていました。このタイミングで実現できたのは嬉しかったです。
ーー長田さん(トップ写真左)、渋谷未来デザインとWWAs立ち上げの背景を教えていただけますか?
長田さん(以下敬称略):
渋谷未来デザインは2018年にできた一般社団法人です。渋谷区から未来への可能性を実験して実装していく、企業や外部組織と共創していく、とにかく考えたことをアクションに移していくのがミッションだと思っています。
以前から森田ゆき渋谷区議とは「日本の性教育はまだまだこれから。もっとオープンに語られるような場づくりを渋谷でしていきたい」と話していて、いきなり教育委員会に持っていくのは無理があるという共通認識もありました。
そこで昨年の「ソーシャル イノベーション ウィーク(以下SIW)」で『Z世代のココロとカラダの性を考える』というトークイベントを行うことにしたんです。様々なバックグラウンドの方たちが集まり、性にまつわる話をオープンに語るユニークな場でした。
渋谷という街は若い人が集まる場所なので、そのエネルギーでブレイクスルーが出来ると思うんです。みんなが健康について考え、女性特有の課題を知ってもらう、そして企業にも知ってもらうきっかけを作っていきたい。社会を変えていく仕組みを作るために一気に動き出したんです。
まずは知ることから。WWAsを拠点に広がっていきたい
ーーWWAsの活動内容をお聞かせください。
長田:
まず3つの軸があります。
- 個々の女性の「ウェルネス思考」を国内、そして海外へ発信して、心と身体の健康を啓発していく。
- 先進的で楽しいアクティビティを通して賛同を集め、知識を共有する。
- 女性の健康やウェルビーイングのためのユニークな技術、フェムテックなどを紹介していく。
そして寄附や資源を提供してくれるスポンサーを集めるのも活動の一つです。日本にはまだまだ企業が寄付をするという文化が定着していないので、ジョイセフなどに寄付をすることでサポートができるんだというマインドセットが動いていくといいなと考えています。
小野:
昨年11月のSIWでの気づきからこのプロジェクトが始まっています。司会進行をしてくださった新子さん(長田さん)、感染症専門のKARADA内科クリニック渋谷の田中院長、渋谷区の文教育委員会から一柳区議、神薗区議、性の健康啓発を行うNPO法人ピルコンの染矢理事長、そして国際協力NGOジョイセフから私が登壇。本当に多様なメンバーが出会えたのはSIWだからこそ。
そこで出会ったメンバーが森田ゆき区議を含めて何かをしたいという話になって、だったら3月8日の世界女性デーに向けてアクションを起こそうという話になったんです。ただイベントをするのではなく、継続していかれることをしたいと。
今後は11月19日の国際男性デーにも何かできたらいいと思ってます。記念日に絡めることで伝わりやすくなって、メディアもみなさんもスイッチが入りやすいというか(笑)。
また、協賛してくださった企業の社員の方たちへ向けたセミナーやデータのシェアなどを行っていきます。
フェムテックを扱う企業も増えていて、今後はWWAsが拠点になって、企業同士の横のつながりがもっと増えていくような流れができたらいいと考えています。
長田:
フェムテックって若い人向けのものが多いのかと思いきや、更年期の女性向けのものもあって。言葉がまだ浸透していないから、Z世代にはフェムテックを日常的に使っているのに「フェムテックってなに?」という人もいるんですよね。
小野:
そうだよね。本当に知らない人が多い。スマホのケースにピルケースが付いていたり、尿もれに悩む女性に向けた尿もれ吸水ショーツとかいろんな商品があるんですけどね。
ーーこうやってお話を伺っていると本当に知らないことばかりです。
長田:
そうなんです。こうやって会話をしていって、知らなかったことを知ると誰かに伝えたくなるんです。でも、その「場」がない。だからその「場」を作っていくんです。
よく、区民に向けた働きかけをもっとしたらいいと言われるのですが、もっと一緒にできることをしていきたい。個人が自分から伝えていってみんなが参加できるような仕組みを作って。例えば誰か、エバンジェリストのような存在がいて、そこをきっかけに広めていくなんていうのも良いなと思っています。
すでにWWAsに賛同してくれている個人や企業がたくさんいて、課題として認識はされているのでWWAsはそのスタートです。
もう、今一緒にやっているメンバーの気持ちの強さがすごいんです。
小野:
そう!気持ちの強さが本当にすごい!!それぞれが動いて、あっという間に20社ぐらいの企業からのスポンサーがパパッと決まったんです。
長田:
昨年11月に何かしていこうと話し出してから毎週末夜9時からミーティングをして、それぞれ既知の企業などに働きかけて。横のつながりだけでも賛同してくれるスポンサーが沢山あるので、これからどんどん広がって面白いことが起きていくと思います。
男性でも意識の高い人は何かやらなきゃいけないという認識はあるし、企業としてこの問題に取り組んでいくことは大切な指標でもあるので、組織の上の人にもっと色々知ってもらいたいです。
目指すのは熱意と巻き込み力でジェンダーバイアスが減っていく社会
ーーでは最後に小野さん、長田さん、それぞれお互いの印象についてお聞かせください。
小野:
新子(長田)さんは私とは真逆のものを持っているんですよ。
2021年の11月のイベントで初めてお会いして、そのときは司会進行役をされていたんですけど、進行がとにかく上手い!アットホームで、おかげで緊張することもなく「新子の部屋」にゲストで呼ばれたみたいな感じでした。
仕事をしていく中で強靭でブレない、イメージを段階を踏んで実現していく能力がとにかく高い、人を巻き込むのがとにかく上手い!(笑)ということを実感してきています。
初めてご一緒するキャンペーンなのにすごく連携しやすくて、軸がブレない素晴らしいディレクターで信頼しています。
長田:
巻き込むの上手いよね!ってよく言われます。そして巻き込まれた人は大変なことになるっていう(笑)
小野:
それが一緒にいてワクワクするんですよね。
長田:
小野さんはもう熱意がすごい、チャレンジャーで、行動していこうというパワーがとにかくすごい。
何より、国際NGOとして確立しているジョイセフがまだ始まったばかりのWWAsの活動に積極的に参加してくれているのがありがたい。小野さんと話すといつも新しい発見があるんです。そういう、教えてくれる存在が嬉しいんですよね。
今回のキャンペーンに関しては「小野さんがいるからやるよね、実現できるよね」って話題にもなるぐらいエネルギーがすごくあって、人間性がすばらしいんです。
SIW というキッカケがなくてもどこかで仲良くなっていたと思うし、仕事がなくても友だちになっていたと思う。
小野:
(世の中で起きている問題を)知ったら放っておけないじゃないですか!
日本の女性はウェルネスに生きていないのではないか。若い女性の自殺率も高いし。
長田:
やはり熱い人が集まって物事って始まっていくんですよね。
SIWがこういうアクションにつながっていて、議論はもっと増やしていけると思っているのでその場を作って推進して行きます。そうしていくことで政府も気づく結果につながると。
小野:
LGBTQや、女性なら産まなきゃいけないというバイアスもなくしていきたいと思っています。
女子大で講義をするときに、産まない選択もあるんだって話したらそんな選択肢があるなんて知らなかった!という学生が何人もいて。みんな真面目に生きているからこそバイアスとか刷り込みが定着してるんですよね。
長田:
子どもを産んで育てるのは大変。結婚をしないで生きていても肩身が狭い。子どもを産まない、産めないのも苦しい。生きづらさがたくさんありますよね。色んな意味で選択肢が増えて、受け入れられる社会になっていってほしいと思っています。
もっと個人的なお話も伺いたかったのに盛り上がりすぎて時間が足りませんでした。
WWAsはまさにこれからのプロジェクト。筆者も女性として、子を持つ親として積極的に巻き込まれていきたいと感じました。
長田さんがパーソナリティを務める「渋谷のラジオ」でも小野さんと森田渋谷区議をゲストに迎えてWWAsについて話されているので興味のある方はこちらからご視聴ください。
昨年11月にSIWで行われた『Z世代のココロとカラダの性を考える』のアーカイブ映像もYouTubeにてご覧いただけます。
◾️小野美智代 略歴
公益財団法人ジョイセフデザイン戦略室長。国際協力NGOの広報担当として世界の女性の現状を発信。2011年の東日本大震災以降、日本のセクシュアル·リプロダクティブ·ヘルス/ライツ(SRHR)の課題、その多くが根深いジェンダー格差に起因することを痛感し「人権」として誰もが享受すべきSRHRを推進するために、2016年より「ホワイトリボンラン」や「I LADY.」をスタート。静岡県出身·在住。娘2人と夫(別姓目的で事実婚)の4人家族。ローカルSDGsネットワーク理事、静岡県立大学非常勤講師など精力的に活動を行う
◾️長田新子 略歴
一般社団法人渋谷未来デザイン 理事·事務局長 / SIWエクゼクティブプロデューサー
AT&T、ノキアにて通信·企業システムの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル·ジャパン入社。コミュニケーション統括責任者及びマーケティング本部長(CMO)として10年半、エナジードリンクのカテゴリー確立及びブランド·製品を市場に浸透させるべく従事し2017年に退社。2018年より現職。NEW KIDS(株)代表としてマーケティング·PR関連のアドバイザーやマーケターキャリア協会理事としてキャリア支援活動も行う。
◾️国際NPOジョイセフ
◾️一般社団法人 渋谷未来デザイン