障害があるから描ける世界がある ヘラルボニー 代表取締役社長 松田崇弥さん

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知的障害のあるアーティストが描くアート作品を世の中に発信している株式会社ヘラルボニー。立ち上げたのは、代表取締役社長の松田崇弥さんと代表取締役副社長松田文登さんの双子の兄弟。『Forbes JAPAN』誌が選ぶ、世界を変える30歳未満の30人「30 UNDER 30 JAPAN 2019」にも選ばれた大注目のお二人です。今回は双子の弟の崇弥さんにお話を伺いに、渋谷モディ4階にあるイベントスペース「カレンダリウム」を訪れました。

ここは、インクルーシブな取り組みを発信するスペースとしてオープンし、その第1弾のイベントとしてヘラルボニーが運営する「HERALBONY CARAVAN in 渋谷」が2022年6月8日(水)まで期間限定で開催しています。

 

知的障害というもののイメージを変えたい

ーーヘラルボニーを立ち上げたきっかけについて教えてください

 

松田崇弥さん(以下敬称略):

私たち双子の上に4歳年上の兄がいるのですが、自閉症という重度の知的障害があります。

家だと仲良く過ごしているけど、一歩外に出ると、社会からは「障害者」という枠組みの中で、兄が欠落として見なされて馬鹿にされるようなことを感じていました。そういう社会的バイアスや圧力で、可哀想な存在であったり、支援しなくちゃいけない存在、守らないといけない存在になっていくことへの違和感みたいなのがありました。障害のある人に対するイメージを変えていきたいと思っていました。

 

そんなときに転機となったのが24歳の時に母の誘いで訪れた「るんびにい美術館」で障害のある作家が描くアート作品に出会い、「アール・ブリュット」という芸術分野があることを初めて知りました。

その時に、知的障害のある人の特性や才能がアートとなって発露してことを肌で感じてから、私達は『知的障害があるから描ける世界がある』とあえて発信することによって、「障害」というもののイメージ自体を変えていける可能性を感じ、3年後の27歳の時に起業しました。

 

▲渋谷桜丘再開発で行った「全日本仮囲いアートミュージアム」

 

ーー起業してしばらくして渋谷に移ったんですよね?

 

松田:

起業するにあたってビジネスの視点がわからなかった時にたまたま、100人のアントレプレナー募集と書いてあった「100BANCH」の広告を見つけました。その中に新しい働き方などを提唱している横石崇さんのメッセージで「働き方の多様性を考えるプロジェクト募集」とあり、当初は福祉施設の運営も考えていたので、横石さんと話したら拡張するかと思い、迷わず応募しました。
100BANCHに集う人は、スタートアップの人やNPOの人、副業の人などいろんな価値観の人がいて、たくさんのことを学びました。今の事業の根っこは100BANCHでつくられていると思います。
双子の兄の文登がゼネコン出身ということもあって、工事現場の仮囲いを美術館として捉え直す「全日本仮囲いアートミュージアム」という構想がありました。副区長にその構想をプレゼンする機会をもらい、そのご縁で桜丘再開発で60メートル続く、ソーシャル美術館が誕生しました。

「100BANCH」:パナソニックが創業100年を迎えることを機に構想がスタート。「100年先の世界を豊かにするための実験区」 https://100banch.com/

 

福祉に尊敬を生み出す仕組み

ーーこれまでにどのような事業展開をしてきましたか?

 

松田:

障害のある作家が、アート作品をコンスタントに制作し、個展を開催し、アートを販売するというのは納期に縛られたり、負荷がかかってしまいます。そこで作品をデータ化してアーカイブすることで、そのデータを軸にヘラルボニーが企業へ企画提案し、作品が起用された場合はそのライセンスフィーを作家や福祉施設に還元できる仕組みであればビジネスとして循環できるのではないかと思っています。障害のある人達が、どのようにしたら資本主義経済に乗っていけるのだろうかというところを考えています。

最初の1年はライセンス事業だけ始めましたが、アートの魅力が伝わらず、受注をとることは難しかったです。そのため、ブランドの世界観を構築しながらアートプロダクトを手掛け、リアル店舗の展開に注力しました。店舗をショールーム化することでユーザーとアートとの出会いのきっかけとなる接点が生まれ、会社やブランドの認知が浸透していき、BtoBのライセンスビジネスの依頼数も増えていきました。

 

▲アートライフブランド「HERALBONY」のプロダクト

 

ーーアーティストの人たちは、自分が描いた絵がプロダクトになっているのを見てどういった反応をされていますか?

 

松田:

自分のアートがネクタイになっているのを見て、作家さんをはじめ親御さんがすごく喜んでくださっています。元々、自分の子どもの絵を落書きだと思っていたような親御さんも、商品になって百貨店などに並ぶのを見て、息子さんの絵を自宅に飾るようになった人たちもいます。

 

ーーそのような声を聞いて、松田さんはどのように感じますか?

 

松田:

ありがたいことに、仕事を通してたくさんの嬉しい連絡をいただいています。起業してから前だけ向いて走れたのはその影響もあるなと思います。家族として兄を見ていると、障害のある人に対して一人のかけがいのない個人としてのリスペクトが足りないと感じていたので、会社の取り組みを通じて作家さんに対する尊敬を生み出しているのは、すごくやりがいがあることです。

 

ーー二人の活躍を見てお兄さんはどう思ってらっしゃいますか?

 

松田:

岩手で講演などをすると、兄も見にきてくれるのですが自分のことを話してるんだって喜んでいるように見えます。今でも月に一度くらいは兄に会うのですが、会うたびにいろんな発見をもらったり、すごく人間の神秘のようなものを感じたりしています。

 

▲渋谷モディでのHERALBONY CARAVAN in 渋谷

 

ヘラルボニーの商品を通して思想を開拓していきたい

ーー渋谷の街から発信するということをどのようにとらえていますか?

 

松田:

「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」というコピーのように、渋谷は都市経営という視点で見てもすごく面白い街だと思います。渋谷から発信しているということ自体がすごく意味になっています。いろんな人がいて、全てを許容できるオープンさがあり、変にかしこまらなくていいのですごく好きな街です。ヘラルボニーとも相性が良い場所だと思います。

 

ーーでは最後に、どういった方にヘラルボニーの作品を知ってもらいたいですか?またそのために、どのようなことに気をつかっていますか?

 

松田:

ヘラルボニーを知らない人でも、商品に興味を持ってもらえるように、見せ方を大切にしています。まずは商品としての魅力があって、その先に思想を伝えていくという動線を大事にしています。市場を開拓するのではなくて、思想を開拓したい。商品を手に取った人が、考え方をシフトできるようにしたいと思っています。
本当に思想を伝えたい人は、ハイエンドな人たちというよりは、学生時代の友人のような人たちです。僕が中学生の頃、障害を揶揄する同級生がいたのですが、そのような人に『ヘラルボニーかっこいいな!』と心から思ってもらえるような企業・ブランドにしたいと思っていますし、その認識や価値観の変化は彼らが大人になった時に、彼らの子どもへも伝わっていくのではないかと思います。

 

 

◾️松田崇弥 略歴

 小山薫堂が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、双子の松田文登と共にヘラルボニーを設立。異彩を、放て。をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。東京都在住。双子の弟。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。

 

◾️株式会社ヘラルボニー

本店所在地 〒020-0026 岩手県盛岡市開運橋通2−38 4F HERALBONY @HOMEDELUXビル

代表取締役社長 松田崇弥
代表取締役副社長 松田文登

WEB https://www.heralbony.jp/

Instagram @heralbonyofficial

 

◾️HERALBONY CARAVAN in 渋谷」開催概要

開催時期:2022年3月17日(木)~6月8日(水)
開催場所:渋谷モディ4階 カレンダリウム

 

「ヘラルボニーエポスカード」

カードの新規入会や利用額に応じた一定額が知的障害のある作家の創作活動やその普及、福祉団体への寄付として使用されます。

https://heralbony.com/pages/heralbony-epos

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