温故知新、渋谷と共に生きる老舗呉服屋「玉川屋」五代目店主 石井貴彦さん

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渋谷駅ハチ公前から目黒方面に上り道玄坂。
道玄坂を上りきった先、道玄坂上は若者で溢れる渋谷というよりもやや落ち着いたオフィスも多いエリアで、ランチタイムには多くのビジネスマンで賑わいます。

そんな道玄坂上に、立派な看板を掲げた老舗の雰囲気が漂う呉服屋さん「玉川屋(たまがわや)」があります。

道玄坂上にある、老舗呉服屋さん。

「うちは今年で創業137年。私で五代目になります。明治18年に先代が日本橋人形町に呉服屋を創業、その後関東大震災で被災し、親戚を便りこちらにやってきたと聞いています。震災の翌年、大正13年にはここ道玄坂上で再開しました。昭和初期の頃はもう少し手前でやっていたのですが、その後の戦争により建物疎開などもあって、戦後今の場所に戻ることになりました。昭和38年には3階建、60年には今の10階建のビルになりました。」

 

そう話してくださるのは和服姿の似合う五代目店主、石井貴彦さん。

「昔の道玄坂は、今より少し短くて坂が急だったと聞いています。重い荷物を運ぶのに馬の尻を叩いて登っていたそうですよ。時には逃げ出す馬なんかもいて、四代目である私の父は店の前を馬が疾走する姿を何度か見たそうです(笑)。この辺りは料亭も多くて、芸者さんも多かった。なので、着物や簪、和のお店がすごく多かったんです。今では残っているのがうちを含めて数軒になりましたね。」

古きを大切にしながら、今必要なことに取り組む

創業時の着物が普段着だった時代から、今の衣料とは大きく変わってきました。そんな時代の移り変わりと玉川屋はどう向き合ってきたのでしょうか。

「これだけ長いこと家業をやっていますと、良いときと悪いときがあるのは当然です。幸い、うちは大きな波がない方でしたが、時代の流れとともに変わらなければいけないこともあります。うちはECサイトなども早めに立ち上げて、常に今必要なこと、できることを考えています。」

玉川屋では多くの人に着物を慣れ親しんでもらえるよう着物教室はもちろん、着物のコーディネートの相談や受け継いだ着物の仕立て直しなどもされています。さらに、着物好きの方々をどうしたら楽しませられるかを考えて、絞り染め帯揚げ作りなどのワークショップや着物でのお出掛け会などを開催。なかには、お客さんと京都の職人さんとでオンライン上で話し合いの場を設けて、オリジナルの絵柄作りから手がけるお手伝いもしているそう。

「うちがここまでやってこられたのは、常にお客様の新陳代謝があり、長く代々ご愛顧くださる方も、新しく着物ライフをスタートするお客様も共に多いからです。長いお付き合いをするためにも無理にお求め頂く事は絶対にしません。そんなお付き合いは長く続かないですからね。また、祖父の代で売ったお着物も責任を持ってケアしています。着物は長く着られるものです。あとは自分で草木染めした小物作りなどワークショップを開催。『玉川屋さんにいくのが楽しい!』と思ってもらえるよう、お客様一人一人の要望を受け止め、取り入れていくように心がけています。」

この日、五代目の奥様が着ていたのは、おばあさまから三代続いて引き継いだ「結城紬」織りの着物。落ち着いた色味でありながら、花のあしらいが可愛らしく時代も年齢も問わず、長く着られる着物で、着物の楽しみ方が伝わってきます。

老舗呉服屋からの変わっていく渋谷への願い

古くからお店を構える玉川屋さんは今回の渋谷の100年に一度の再開発をどう感じているのか、お伺いしました。

「街がしっかりすること、新しい風が吹き込むことがすごく楽しみです。渋谷に来ると楽しい! そう思ってもらえると良いなと思う反面、渋谷の街が整いすぎないと良いなとも……。渋谷の街には歴史があって、そこが残るような古き良きところと時代の先端が入り混じわるような街であって欲しいです。」

 

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