渋谷には「渋谷をつなげる30人」という、渋谷区の企業・行政・NPO・市民の30名が参加し、連携して「つながり」を深めながら、課題達成のためのビジネス活動を約半年かけて立案・実行する、まちづくりプロジェクトがあります。
これは、渋谷区の総合政策「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」で掲げる20年後の渋谷区未来像を実現するために立ち上がったプロジェクトになり、6年が経ちました。
6年間を振り返り、2期生のメンバーである渋谷区区長室の今井桐衣さん、東急不動産(現在、東急に出向中)の伊藤秀俊さん、渋谷新聞代表であり、渋谷センター街商店街振興組合の鈴木大輔さん、さらに企画段階から関わっている渋谷区副区長の澤田伸さんが集まり、「つなげる30人」プロデューサーの加生健太朗さんが司会進行をしてインタビューを行いました。
「渋谷をつなげる30人」(以下渋30)について行政の立場から澤田副区長と今井さんにお話をお伺いしました(インタビューは2022年4月27日に実施)。
外の世界とつながる人財を育てる
ーーまずは今井さんにこのプロジェクトではどのように関わったのでしょうか?
今井さん(以下敬称略):
当時、私は経営企画課にいて、改定したばかりの「渋谷区基本構想」を周知・推進するセクションにいました。
渋30には渋谷区役所からは2名参加していましたが、そのうちの一人になります。
このプロジェクトでも基本構想に沿ったジャンルで街の課題解決ができないかということをやっていました。
スポーツの事業を行うチームにいたのですが、そこでspoppyという運動会プロジェクトを実行できたのが一番印象に残っています。
ーー次に、澤田副区長に、このプロジェクトを始めることになったきっかけをお聞きしたいと思います。
澤田副区長(以下敬称略):
私は副区長であり、CIO(最高情報責任者)も兼務をしています。民間企業を4社経験して、2015年10月1日に今の職についています。
民間出身の人間が行政経験が全くない中で、自治体のNo.2になるのは23区では初めてで、現段階でもいません。
副区長になった当時、何個かのプロジェクトを推進することになり、一つ目は役所内の生産性を上げるためにDXに取り組みました。
もう一つが、役所の外とつなげることに取り組みました。そうすることで、役所内が活性化すると感じました。
これまでのように行政が民間に委託する、または発注するといういわゆる権限行政では、都市の進展がありません。
渋30は、区の職員たちが外の世界とつながることになります。
そこで、地域課題を解決する議題をいろんな立場の人たちがフラットに意見を言い合って整理していくプロジェクトです。
この仕組みはすごく上手くいくと感じました。
この仕組みが、他の都市にも広がっていっていると聞いていますが、それは素晴らしいことですね。
ーー今井さん、実際に参加されてみていかがでしたでしょうか?
今井:
いろんな立場の人が関わっているこのプロジェクトでは、行政がいろんな立場の人とフラットにつながって、そこに適応できることが必要です。
今までの区役所のプロセスとは違う形で進められて、こんなことができるんだ、また、こんなことをやっていいんだという発見もありました。
この「やっていいんだ」という感覚が大切だと思います。
最初の川を越えるのが大変ですが、みんなにとっていいことなので、やっていいんだと。
その一歩に携われたというのが感動しましたし、自信にもなりました。
なりたい世界からバックキャストして考える
ーー行政、市民、企業がセクターを超えてつながること、また企業の中でも大企業とスタートアップのつながりが発生するような仕組みをつくっているんですね。
澤田:
つまりクロスセクターリーダーを育てるということですね。
この30人の動きに世の中が追いついてきています。
この30人が社会的な意義を起点に、つまりパーパスドリブンの活動をしていますが、企業もようやく、パブリックベネフィット(社会や環境など公共の利益)をどうつくっていくのかという動きになっています。
世の中の流れも今後しばらくはこの流れが続いていくと考えています。
その中で一番変わらないといけないのが自治体なんです。
自治体というパブリックセクターが、この動きのプレーヤーとして機能できるのかどうかが非常に重要なんです。
渋谷区は幸いその環境が整ってきています。なぜかというと自治体の外を見ている職員が増えてきたからです。
ーー自治体から課題をオープンにすることが大事だと思うのですが、どのようにオープンにしていっているのですか?
澤田:
TO BEつまり、なりたい世界からバックキャストしていくことをしています。
これまでは自治体はどちらかというと短期課題の解決型の組織になってしまいがちでした。
例えば、道路を補修することや、商店街を美化すること、それも大事ですが、短期思考だけではだめなんです。
コロナ以降、社会の仕組みが大きく変わっていく中で、自治体が中長期的に、あるべき姿からバックキャストして、経営戦略や、事業戦略に落とし込んでいく必要があります。
それには、地域の合意形成も含めてやっていきます。
それを進めていくにはデジタルの力はとても大事です。
地域に関心のある人だけではなく、本当のサイレントマジョリティーは大多数なので、その人にどのように届けるのかが大事です。
SNSを活用して、伝えていくことができますし、LINEでは約5万人の人とつながっていますので、アンケートでパブリックオピニオンが出せる構造になっています。
ーー最後に、今井さんにお伺いします。自治体職員として今後、この渋谷区でどのように活動していきたいですか?
今井:
渋30のみんなが、区役所の中ではどういうことが課題なのって聞いてくれます。
皆さんにとっては、自治体から参加している自分たちが、貴重な出島のような存在なんだと思うんです。
公務員としていかせるところがあってよかったと思いました。
これまでで合計12人が渋谷区役所から参加しているので、自分たちだけが変わるのではダメだと思うんです。
自分たちの活動を区役所の中でも発信していくことで、周りも慣れてきて、自分もやっていいんだという雰囲気になっています。
区役所の中でも変化が出てきていると思います。
区役所の職員がどんどん外の活動に参加することが大事だと思いますので、これからもどんどん積極的に参加していきたいと思っています。
◾️澤田 伸
1984年 立教大学経済学部修了。消費財メーカーのマーケティング・コミュニケーション部門を経て、1992年より大手広告会社へ転じ、統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)のアカウントプランニングおよびマネジメント業務を統括。2008年より米系アセットマネジメント企業にてナショナルマーケティングディレクター、2012年より共通ポイントサービス企業のマーケティングサービス担当執行役員を経て、2015年10月渋谷区副区長に就任、CIO/CISO兼務(現職)
◾️今井 桐衣
2008年渋谷区へ入区。
住民戸籍課、教育政策課、渋谷区文化総合センター大和田へ配属後、経営企画課に異動。渋谷区基本構想周知事業、産官学民連携事業に携わる。2020年より区長室在籍。