インバウンドマーケティングの最前線 グローバル・デイリーの大坂直史さん

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日本での観光需要が盛り上がりを見せる中、国内外の架け橋として活躍する企業「グローバル・デイリー」。同社はインバウンドプロモーションの最前線でそのノウハウを駆使し、多国籍なチームとともに挑戦を続けています。今回は、取締役を務める大坂直史さんに今までの取り組みと今後のインバウンドについてお話を伺いました。

グローバル・デイリーの成り立ちと取り組み

ーーグローバル・デイリーの成り立ちについて教えてください

当社は、DACグループという大きなグループの一員で、グループには10社ほどの法人が属しています。当社の起源は、DACグループ内の『デイリーインフォメーション』という会社の中に、訪日外国人市場の成長を見据えて設立されたインバウンド事業部にあります。その後、2013年に『グローバル・デイリー』として独立しました。

現在、当社はインバウンドプロモーション広告を主力事業として、外国人旅行者向けのオンライン・オフラインメディアを活用した広告展開や、インフルエンサーを活用したプロモーションを行っています。また、自社で運営する日本情報の多言語発信メディア『JAPANKURU』や、在留外国人を対象にしたレビューマーケティングが可能な『korekoko』などを通じて、訪日外国人および日本在住の外国人にとって有益な情報の発信に取り組んでいます。

ーー職場環境や、グローバル・デイリーならではの特徴はありますか?

当社の職場は非常に多国籍な環境で、アメリカ、中国、韓国、台湾、マレーシア、タイ、ベトナム、香港、イギリスなど、9か国以上の出身者が在籍しています。社員の約6割が外国籍で、各国の文化や商習慣に精通したネイティブスタッフが多いのが特徴です。なお、イギリスには特派員を配置しており、現地の最新情報やトレンドをダイレクトに発信できる体制も整えています。

多くの訪日観光客の増加を背景に、インバウンド市場への関心を持つ日本企業が増えていますが、「どの国をターゲットにするべきか」「どのような施策を実行すべきか」が分からないという課題を抱えています。その課題に応えるために、当社は、創業以来築いてきた海外現地とのネットワークと、現地の商習慣やニーズに精通したネイティブスタッフの対応力を生かしたコンサルティングを提供しています。

ーー海外向けのマーケティングは非常に難しい印象がありますが、その点についていかがですか?

確かに、海外向けのマーケティングは日本国内よりも難易度が高いですね。なぜなら、日本人と海外の消費者の考え方が大きく異なるからです。日本企業が苦戦する理由の一つは、現地の商習慣への対応力です。日本企業は、細部にこだわる商習慣をそのまま海外に持ち込もうとすることが多いのですが、グローバル企業は現地の運営チームに大きく任せる柔軟な姿勢を持っています。これが成功の鍵となる場合も多いですね。

コロナ禍に見つけた新たな糸口

ーー過去の施策で特に喜ばれたものや、大きな成果を上げた事例について教えてください。

一例として、JINS様と取り組んだブルーライトカット眼鏡のプロモーションがあります。この施策では、訪日観光客だけでなく、日本国内に暮らす在留外国人の方々にも対象を広げたことで、従来とは異なるアプローチを試みました。具体的には、割引クーポンを活用したキャンペーンを実施し、結果的に想定を上回る反響を得ることができました。限られた広告予算の中で、販売促進とブランド認知の双方において手応えのある成果が得られた点は、今後のプロモーション施策のヒントにもなっています。

ーー日本在留外国人をターゲットにしたきっかけって何ですか?

コロナ禍で、訪日外国人観光客が激減する中、日本国内に住む在留外国人に着目しました。その事例が大井競馬場で行ったイルミネーションプロモーションです。このプロモーションはコロナ禍以前から始まっていましたが、コロナ禍中に外国人観光客がほぼ来られない状況に直面したことで、新たなターゲットとして日本にいる約380万人の在留外国人に目を向けました。特にベトナム人や中国人が多く、彼らの多くは自国の言語を使って情報を収集しています。このため、日本語のテレビCMや広告だけで彼らにリーチすることは難しいのです。

そこで、私たちは在留外国人への情報提供に注力しました。彼らに届く言語とプラットフォームを選び抜き、情報を発信し続けた結果、数千人規模の集客を実現することができました。この施策が現在の成功基盤を築き、観光市場が回復した今も重要な役割を果たしています。

自分の当たり前が当たり前ではない

ーーここからは、大坂さんについてお話しを伺います。現在に至るまで、どんな経緯で今のお仕事と出会ったのですか?

学生時代は、正直、あまり一生懸命何かを頑張るということがなかったんです。中学ではサッカーを一生懸命やっていましたが、最後の大会直前に大きな怪我をして、気持ちが折れてしまったこともありました。その後、高校や大学でもサッカーは続けましたが、本気で取り組めることはなく、就活も特に深く考えず、色々な人と出会えそうと広告業界に興味を持ち、『ピーアール・デイリー』というDACグループの求人広告の会社に入社しました。

入社後もなかなかやる気が出ず、リーマンショックを機に辞めようと思いました。しかし、当時の上司に「観光チームに移動しろ」と言われたんです。観光に興味があったわけではなく、海外にも行ったことがないくらいでしたが、「何もやらずに辞めるのはカッコ悪い」と説得され、1ヶ月だけ頑張るつもりで移動しました。それがインバウンド事業との最初の出会いです。

▲学生時代の大坂さん

ーーインバウンド事業に携わる中で、考え方は変わりましたか?

海外に行く機会が増え、現地の文化や商習慣に触れる中で、自分の「当たり前」が全然当たり前ではないことに気づきました。また、外国人部下との毎日のやりとりも刺激的でした。日報を書くという日本では普通の文化を「なぜ必要なんですか?」と真剣に問われることが当たり前でしたね。そうした沢山の経験を通じて、多文化を受け入れる面白さを実感しました。

今となっては注目されているインバウンドですが、インバウンドが全く注目されなかった時期が10年ほど続いていました。東日本大震災が起きたときには、外国人観光客が全く来なくなり、スーツケースを引いて西日本を回りながら飛び込み営業を続けて、国内のいろいろな場所について知る機会となりました。こうした経験を通じて、日本全国の観光業がいかに外国人観光客の売上に支えられているかを強く実感しました。それなのに、当時はどこの会社にもインバウンド専任担当者がいない状況でしたし、今でもその現状はあまり変わっていません。大きなマーケットなのに分からない、困ってるっていう中で、当社の取り組みの価値を改めて感じています。

これからのインバウンドについて

ーー日本のインバウンド産業の将来について、どのようにお考えですか?

日本のインバウンド産業は、現在の円安を最大限に活用すべき時期にあります。訪日観光客にとって、日本は「ショッピング天国」であり、質の高い商品やグルメを安価に楽しめる国としての魅力が増しています。飲食店の価格は上昇傾向にあるものの、総合的に見て日本はまだ安く、外国人旅行者にとって“お得感”が強いのが特徴です。

ーー渋谷のインバウンドについて、いかがですか?

渋谷は、常に新しいものが生まれる場所です。以前はスクランブル交差点が渋谷の象徴的な観光スポットでしたが、コロナ禍にオープンした渋谷スカイが登場すると、観光客にとっては転売チケットが出るほどの人気スポットで、今では世界中の人々が集まる日本最大級の観光地の一つですよね。

ただ、渋谷は観光地としてのイメージが強い一方で、『モノを買う』という消費行動の印象が薄いのも事実です。また、観光客向けの宿泊施設が少ないことも課題です。消費が主に夜間に集中する渋谷では、観光客向けのホテルなど宿泊施設の拡充が重要だと思います。

たとえば、先ほどお話ししたJINSでは『渋谷で眼鏡を買う』という特化型プロモーションを行った結果、ブランド認知が大きく向上しました。このように、渋谷が観光地であるだけでなく、ショッピングの街としての価値を発信することが大切だと感じています。

取材を終えてーー

再び増加した訪日観光客と円安の影響も相まって、インバウンドという言葉を耳にする機会が多い中、実際にインバウンド向けのプロモーションや広告を海外に発信し、震災やコロナ禍を乗り越えてきた大坂さんのお話は非常に興味深いものでした。

特に印象に残ったのは、「自分の当たり前は当たり前ではない」という言葉です。海外の方々と仕事をし、多くの困難に直面してきた大坂さんだからこそ語る「当たり前はない」という考え方は、新たな気づきを与えてくれました。海外の方々に限らず、自分と関わるすべての人にとっての当たり前はないということを心に留め、今後はその違いさえも楽しめるようになりたいです。

■株式会社グローバル・デイリー
創業63年を迎えるDACホールディングス(全国8社で構成)のグループ会社。訪日外国人向けの広告・PRを専門とし、2003年よりインバウンド分野に本格参入。自治体や観光施設、商業施設、メーカーなど多様なクライアントと、世界各国のメディアネットワークを活かしたプロモーションを展開。現在は訪日プロモーションにとどまらず、アジア市場を中心としたクロスバウンド型施策も手がける。

【本社】東京都台東区東上野4丁目8−1
【Web】https://www.gldaily.com
【Mail】 info@gldaily.com

■大坂 直史(おおさか なおふみ)取締役
インバウンドという枠にとらわれず、幅広い分野のプロモーションや海外展開支援の現場で培った経験を活かし、営業統括としてグローバル・デイリーの新規事業開発からメディアネットワークの構築まで、多岐にわたる取り組みを推進中。
常に「現場目線」を大切にしながら、企業ごとの課題に寄り添い、最適なソリューションを一緒に考えるスタイルで、社内外から厚い信頼を得ている。

【Mail】ohsaka@gldaily.com

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