廃棄から新たな循環を生み出す 渋谷肥料 坪沼敬広さん

渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトできないか?という問いのもと生まれた「渋谷肥料」。
渋谷の事業ごみの大半を占める生ごみを肥料・堆肥化し様々な商品を生み出すことで、廃棄→再資源化→供給→生産→商品化→流通→体験の循環に新たなモデルを確立しています。
このプロジェクトの仕掛け人は、合同会社渋谷肥料 代表の坪沼敬広さん。
渋谷のラジオ「渋谷つながる部」に出演いただき、公開インタビューを実施しました。

問いを投げかけ形をつくるコンセプトワークという仕事

坪沼さんはクリエイティブとデザインを中心に、商品開発のコンセプトワークなどのお仕事をされています。デザインに触れた最初のきっかけをお聞きしました。

ーー坪沼さん
改めて振り返ってみると小さい頃から絵を描くことがすごく好きで、いつも自由帳いっぱいに描きたいものを描いていました。
中学や高校の頃はサッカーに夢中で、将来はサッカージャーナリストになりたいと思っていました。
大学に進学後も特定の専門分野を絞らずに幅広く勉強していたのですが、モノを作ることにとどまらず、社会に放った際に生まれる現象や変化もデザインしたいと思っていた時にコンセプトワークという考え方に出会いました。

コンセプトって何ですか?とよく聞かれるのですが、私は二つの軸で捉えています。
一つは、クリエーターに対する「問い」です。商品開発では基本的にコンセプトを提案して、クリエイターの皆さんが形にしていくプロセスを辿りますが、その時に大事なのは、作り手のクリエイティビティを引き出すような面白い問いを投げかけることです。解き甲斐のある問いであるほど創造性が高まり、より良いものが生まれることにつながるからです。
ただ、答えの見えにくい問いだけでは目指すゴールが不明確になるので、もう一つ、一緒にやっている仲間や世の中の人たちに対して、ここに向かっていこうというたしかな旗印を掲げることも大切になってきます。

SHIBUYA QWSで立ち上がった2つのプロジェクト

渋谷スクランブルスクエア15階の共創施設「SHIBUYA QWS」で二つのプロジェクトを立ち上げた坪沼さん。それが「渋谷肥料」と「渋谷土産」になります。
このプロジェクトが生まれたきっかけについて聞いてみました。

ーー坪沼さん

SHIBUYA QWSには10代から90代までの幅広い年代の方々が集っていて、どの方も必ず「問い」を持っています。QWSはそうした一つひとつの問いを磨いて可能性の種を生み出し、世の中を変えていこうという場です。
ご紹介をいただいた「渋谷肥料」は、「渋谷を『消費の終着点』から『新しい循環の出発点』にシフトできないか?」という問いを掲げています。
そもそもプロジェクトがスタートしたきっかけが、渋谷スクランブルスクエアのオープン二ヶ月前、2019年9月に開催されたアイデアソンイベントになります。テーマが「渋谷から世界に発信したいアイデア」だったのですが、当時渋谷ではハロウィーンのゴミ問題が話題になっていました。
アイデアソンではイベントを通じてゴミ問題と向き合うソリューションを提案したのですが、終了後より生活者の皆さんの日常に浸透する取り組みが実現できないかと思い、改めて渋谷のゴミ問題を調べ直しました。
すると渋谷のごみのうち7割を占めるのが事業ごみで、その中でも生ごみの量がかなり多いことが分かりました。
こうした事業系の生ごみを単に捨てて燃やしてしまうのではなく、皆が欲しくなるような資源に生まれ変わらせることができたら、渋谷はゴミが捨てられておしまいの「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」になるのではと思いました。
そこで、生ごみを肥料に再生して、そこから新しい商品を生み出すプロジェクトである「渋谷肥料」を立ち上げました。
渋谷は再開発が続いて華やかな一方、ゴミが多いこともそうですし、今の姿についてどこか後ろめたい気持ちも街の中にあるのではと思うことがあります。そうした状況を簡単に諦めるのではなく、新しいソリューションを生み出すことにチャレンジしていきたいです。

▲渋谷の事業系生ごみを再生させた肥料

ーー坪沼さん
渋谷肥料はこれまで、生ごみから肥料を作る先に「サーキュラーキット」、「サーキュラーコスメ」、「サーキュラースイーツ」という三つのアウトプットを生み出してきました。
一つ目の「サーキュラーキット」は渋谷の飲食店などから出た事業系の生ごみを堆肥として再生し、植物のタネや土と組み合わせた栽培キットです。
二つ目の「サーキュラーコスメ」は大都市ならではの”地産地消”を体現したプロダクトです。渋谷の大型複合施設から出た生ごみを同じ施設内で堆肥化し、屋上でハーブを栽培するために活用します。実証実験では栽培したハーブをブレンドした石鹸づくりのワークショップを開催しました。
最後に現在、特に力を入れているのが「サーキュラースイーツ」です。
渋谷スクランブルスクエアから出るゴミの一部は茨城県のリサイクル施設で肥料化されており、現地の大学と連携してサツマイモの栽培に活用されています。
そのサツマイモを再び渋谷で仕入れてスイーツとして商品化する取り組みです。
茨城で採れたサツマイモが渋谷に届いた時、スクランブルスクエアの方々が「おかえりなさい」って言ったんですね。渋谷の皆さんが自分たちと縁のあるサツマイモと受け止めていることが面白いと思いました。
このように廃棄を減らすことにとどまらず、新しいつながりを生み出すために循環の仕組みを生かしています。

▲サーキュラースイーツ「紅はるかのリ・マカロン」

渋谷の街からサーキュラーエコノミーを生み出す

渋谷肥料の取り組みは廃棄から新たな循環を生むサーキュラーエコノミーのモデルです。
このような循環型の事業に取り組みたい企業との連携も生まれていると聞いています。

ーー坪沼さん

最近では、東急不動産様が空調設備のエネルギー削減を目的として取り入れている「室外機芋緑化システム(以下:芋緑化)」のプロジェクトをサポートしています。
サツマイモの葉で室外機を覆うことによって機器周辺の気温を下げ、空調の効率を上げることができるのですが、東急不動産様はテナント様や地域の皆様と収穫体験を実施し、採れたサツマイモから製品を作ることにもチャレンジしています。
私たちも取り組みに関わらせていただいているのですが、実際に収穫体験に参加した方々からは「渋谷で土に触れられるとは思わなかった」といったお声をいただくなどして大変盛り上がりました。
オフィスワーカーの人たちが集う渋谷で、これまでとは異なる日々の新しい楽しみが生まれることにもつながるといいなと思います。

▼収穫したサツマイモを使ったクッキー(写真:Hiroshi Takano)

サツマイモで省エネに!都心のビル屋上で広がる「芋緑化」 │ 東急不動産ホールディングス株式会社
https://www.tokyu-fudosan-hd.co.jp/kankyo/news/09/

~「環境で選ばれる施設」に向けたプロジェクト第3弾~ 屋上菜園活動「Vegetable Smiles(ベジスマ)」で「芋緑化」 脱炭素推進と交流機会創出を両立させた取り組みを拡大|ニュースリリース|東急不動産
https://www.tokyu-land.co.jp/news/2023/000942.html

ーー坪沼さん

私がSHIBUYA QWSで立ち上げたもう一つのプロジェクトである「渋谷土産」も、東急様・東急建設様との連携から新しい渋谷のお土産を生み出しています。
「渋谷土産」は、渋谷の見落とされていた魅力を新しいお土産として形にしていくプロジェクトですが、そのうちの一つである「建築土産」は、渋谷の再開発によって解体される建物の一部を素材にした「渋谷のまちづくりの記憶と記録を次世代に届けるお土産」です。
東急様からもご依頼をいただき、東急建設様のご協力の下、プロジェクトメンバーの中村彩乃と一緒に2020年に閉館した東急百貨店 東横店の解体コンクリートから、組み立て式のマグネットツール「kumi-tsugu」を開発しました。
建築の「なくなる」と「生まれる」の間にある新しい可能性を追求することで、建物を解体するか保存するかという二項対立にとどまらない、人と建築との新しい関わり方を渋谷から生み出していこうという取り組みになります。
再開発で渋谷の風景が変わっていく中で、建物がなくなったとしてもその名残が「建築土産」として手元に届いて、実際に皆さんの生活の中で使われていく…そんな場面が生まれることを目指していきたいです。

▼東急百貨店 東横店の解体コンクリートから生まれた「建築土産 kumi-tsugu」(写真:Hiroshi Takano)

最後にこれらのプロジェクトを通じて、坪沼さんが今後渋谷とどのように関わっていきたいか、渋谷でどのような取り組みをしてみたいか聞いてみました。

ーー坪沼さん

渋谷肥料と渋谷土産の二つのプロジェクトを通じて、渋谷から世の中に対して新しいセオリーを生み出していきたいです。
役に立たないよね、いらないよね、無理だよねと思われているようなことでも、視点を変えると新しい可能性が生まれると思っています。
そのための新しいセオリーを創り続けていくことこそ、私たちが世の中に対して果たせる役割と考えています。
そして渋谷だけにとどまらず、様々な地域にこれらのプロジェクトを展開していきたいです。

■坪沼敬広 略歴
コンセプトデザイナー。クリエイティブ・デザイン・コンセプトメイキングについての理論と方法論を駆使し、プロダクト開発・事業展開・ブランディングなど多方面でクライアントの課題解決に携わる。SHIBUYA QWSで2019年に渋谷肥料、2020年に渋谷土産の2つのプロジェクトを立ち上げ、現在は代表として両者の全体コンセプト設計と各プロダクトのディレクションを手がけている。2021年に合同会社渋谷肥料を設立。

 

■渋谷のラジオ「渋谷つながる部」 https://note.com/shiburadi/n/n1d636b293667

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