2022年2月5日、日曜日の昼下がり、渋谷のファイヤー通りにある建物を地下に降りていくとなんとも不思議な光景が広がっていました。
そこは第2回目『筆ロック』というライブペインティングバトルのイベント会場。
今回はこの、『筆ロック』を主催する田ノ岡高志さんにお話を伺いました。
(聞き手:tannely イトウノリコ)
「アートに垣根はない!」即興で絵を描いてバトル?
ライブペインティングというのは観客の前で絵を描くことですが、それをバトル形式にして行い、勝者がトーナメント方式で次のバトルに進むのが『筆ロック』というイベントです。
普段はYouTube などの広告漫画やイラストを描いているという田ノ岡さん。『筆ロック』を開催しようと思った経緯を聞いてみました。
「僕は昔からダンスをやっているんですが、ストリートダンスやラップにはバトルと言って観客の目の前で即興で対戦をするというカルチャーがあるんです。1対1だったりチーム対決だったり、オーディエンスも囃し立てながら、技や駆け引きを駆使して対戦するんですが、それがすごく熱くて。その感動を絵でも実現したいと思ったのがきっかけです。
絵描きにとって、個展を開催するのはお金がかかるし、コンペに出展するには作品作りの時間が必要になります。もっと気軽に参加できて、自分の告知をしたり『ベスト4まで行けた!』『初回敗退してしまった』って話題にできるシーンがあったらいいなと思ったんです」
DJとMCが盛り上げる会場で、ステージ上に用意されたキャンバスを前に、それぞれ持参した画材を駆使して制限時間内に作品を仕上げる。独創的な衣装の参加者や、踊りながら描くアーティスト、画風も画法もまさに自由。
舞台上ではクレヨン、アクリル絵の具、ポスターカラーなどが色とりどりにキャンバスを埋めていき、筆や指、筆に含ませた絵の具をキャンバスに飛ばしたり、熱い戦いが繰り広げられていました。
▲1on1バトル決勝戦の様子はこちら
真っ白なキャンバスにどんどん色が重ねられていく様はとても興味深く、
「アートに垣根はない!」
と伝える田ノ岡さん。熱い思いが伝わって会場は大盛り上がりでした。
固定観念に囚われない自由なバトル
「今回は2タイプのバトル形式を設けたんです。1回目にもあった1on1はその名の通り、1対1の戦いです。2on2 は参加希望者をくじ引きで2人ずつのペアにして、全部で8チームが頂点を目指して戦いました。MCが引いたお題目に沿って1人目が描き、その上に2人目が絵を重ねていく。持ち時間はそれぞれ3分、トータル6分。
1on1 は持ち時間5分。会場には常にDJが選んだ音楽が流れているので、そこからインスピレーションを得てもいいし、自分の中にあるイメージを描いてもいい、テーマは自由でした」
勝敗は、観客の中から選ばれたジャッジ(審査員)が行います。絵に関する経験や知識の有無などは一切関係なし!判断基準もバラバラ、2つの作品のうちどちらが勝つかはジャッジの主観に依ることになります。固定観念にとらわれない。アートに正解はない、とはまさにこういうことなのかもしれません。
渋谷での開催はアクセスの良さがメリット
「今回渋谷で開催できて本当によかったです。何よりもアクセスがいい!新宿などでも場所は探してみたんですが、このUNDER DEER LOUNGEの雰囲気がとても気に入ってここに決めました」
2020年の春先から始まったコロナウィルス感染症が少し落ち着きを見せていた2021年の10月に第1回目の『筆ロック』が開催されました。
「第1回は神奈川県の鶴見にあるダンススタジオで開催しました。その時は参加アーティストが16人くらい。今回は参加者32人、観客が40人以上なので前回の倍の規模で開催できました。
ちょうどコロナ感染者が増えていて、どうしても直前でキャンセルする方も。それは仕方のないことで、逆にギリギリで参加してくれた方もいてありがたかったです。立地の良さも参加者数に関係していたと思います。
前回はクラウドファンディングで資金を募りましたが、今回は参加費・観戦チケットの他、協賛を募りました。採算度外視の試みで、こういった時勢にもかかわらず想定以上の結果になりました」
1人で描くのとはまるで違う!3回目開催への期待の声も
1on1の優勝者、北川和輝さんは北海道から参加。『筆ロック』について尋ねると
「昨日北海道から着いて、今日は朝から渋谷の街を歩いて色々調べたりしました。ポップカルチャーの発信地だったり、自由な街の雰囲気だったり。渋谷を歩き回って肌で感じたことを通してアート表現の自由さを表現してみました。こういう雰囲気で描くことがないので楽しかったです」
一方、当日のくじ引きでペアが決まった 2on2 優勝者の冨岡理森さん&イシヤマナツさんはお互いがいたからこその作品が完成したと話してくれました。
イシヤマさん「こんな風に絵を描いて戦うのは初めての経験です。その場で描いて、その場で評価をされるのは嬉しかったです。とても楽しかったのでまた次回も参加したいです」
冨岡さん「パートナーが自分の弱点を埋めて、補ってくれたのですごく助かりました。1人では出来上がらない作品になっています。普段はメカなどもっと緻密な絵を描くので、勢いで描くことなんてなくて無計画に描くということが面白いです」
朝9時から集まったという参加者は32名。イベント終了時には何十枚もの絵が会場に飾られていました。
参加したアーティストからは、
「負けるのは悔しいけど、すごく楽しかった」
「普段は1人で描いているのでこういう場はすごく刺激になる。次回も必ず参加します!」
といった、すでに次回のバトルを楽しみにする声を聞くこともできました。
「今後はもっと大きな、例えば体育館みたいな広いところで『筆ロック』ができるようになったらいいなと思ってます」
と語る田ノ岡さん。
『筆ロック』、アートとバトルの融合による可能性がこれからもとても楽しみです。
◾️田ノ岡高志 略歴
1986年生。ライブペインティングバトル『筆ロック』主催。漫画家を目指し上京。月刊スピリッツでデビューする。その後、YouTube漫画/広告漫画のお仕事をいただきながら路上で似顔絵や絵の販売を続ける。講談社ちばてつや賞奨励賞受賞。全日本漫画大賞2位。企画展・個展など活動中。
https://twitter.com/tanochi2020