偏愛とつながりの場。「#木曜日は本曜日」アーカイブ展開催中の「渋谷〇〇書店」管理人 横石崇さん

202110月に渋谷ヒカリエ8階にオープンした「渋谷〇〇書店(しぶやまるまるしょてん)」シェア型書店として30cm四方の本棚を貸し出しており、現在130名のオーナーがいて、棚主(たなぬし)と呼ばれています。各本棚の棚主は渋谷〇〇書店の〇〇に好きな言葉を入れ、それにちなんだ本を並べ、その内容は多種多様でそれぞれの偏愛がうかがえます。

SNSやインターネット上で「あなたへおすすめ」や「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とオススメされることが普通になっている昨今。渋谷〇〇書店の発起人であり管理人でもある &Co.(アンドコー) の代表取締役・ 横石崇さんに、今なぜ本屋なのか、なぜ渋谷なのかをうかがいました。

本屋を彷徨うから出会えるもの

渋谷〇〇書店では2023131日まで「#木曜日は本曜日」のアーカイブ展を開催しています。
#木曜日は本曜日」というのは電子書籍の普及や書籍のネット購入率の増加に影響を受け、減少を続ける都内の本屋に足を運ぶ習慣づくりを目指して東京都書店商業組合が202210月からスタートしたプロジェクト。2000年には都内に2,000件以上あった本屋が2020年には約半数にまで減ってしまっているというデータもあるそうです。

このプロジェクト、毎週木曜日に本屋と本を愛する著名人をゲストに迎え「人生を変えた本」を10冊ピックアップしてもらい、20分程のインタビュー動画が公開されるというもの。動画内では本にまつわるインタビューと組合加盟書店を実際に訪れ、本棚を巡り読んだことのある本の感想や思い出話を話したり、本屋の店員さんと会話する様子なども観られ、まさに本屋に行きたくなる内容! 上白石萌音さん、呂布カルマさん、成田悠輔さん、加藤シゲアキさん、羽田圭介さんといったこだわりの強そうなゲストの「人生を変えた本」というだけでどんな本なのか気になるところ。それらをまとめて手に取れるアーカイブ展はファンにとっては垂涎もの。ファンでなくとも新しい本との出会いがありそうです。

▲王道からマニアックな本までゲストの選書が並ぶ。中には懐かしの本も


横石さんに今回のアーカイブ展開催の経緯を伺いました。


「本が好きなんですが、それ以上に本屋という場所が大好きなんです。本屋は街のカルチャーをつくっていく大事な機能だと思いますが、そんな場所が街からどんどんと消えてなくなっていく。『
#木曜日は本曜日』の話を聞いて、僕らでも何かお手伝いできることはないかと模索してきた結果、ゲストたちの推薦本をアーカイブさせてもらうことができました。おかげさまで、本を通じた交流がたくさん生まれています」

同時になぜ人々が本屋に行かなくなったのかを考えると、インターネットが出てきて、本を買ったり、出会ったりする場所が本屋じゃなくてもできるようになったのが大きな理由です。そこで、横石さんは本屋の大事な機能のひとつである「つながり」に目をつけました。

「渋谷〇〇書店は 『つながり』の本屋として、本好きが集まってできたシェア型書店です。100名以上の棚主と一緒に本屋を運営しており、それぞれの好きな本を置いて販売しています。だから『#木曜日は本曜日』を通じて本屋の新しい形を一緒に模索できたらいいなと。今回のゲストの一人でもある経済学者の成田悠輔さんが『本屋さんは樹海だ』と言っていましたが、ここはまさに樹海のような場所。さまざまな棚を彷徨って、新しい出会いやつながりが生まれてくると嬉しいです」

闇市からヒカリエへ。渋谷〇〇書店のコンセプト

横石さんと渋谷ヒカリエの関係は、オーガナイズしている働き方の祭典Tokyo Work Design Week をスタートした2013年前まで遡ります。

「ヒカリエとは開業時からのおつきあいですが、ヒカリエに書店がほしいとずっと言い続けていました」

そして、横石さんが度々リクエストをしていたところ、コロナ禍になり渋谷ヒカリエの8階の担当者から、現在の場所で何かやらないかと声がかかったそうです。

そこで出てきたアイデアがシェア型書店でした。地方のシャッター商店街で活用されていたシェア型書店の事例を参考に、みんながオーナーになり、お金を出し合い運営費を賄うことで本屋の利益率の低さをカバーできるというアイデアに辿り着いたといいます。

しかし、当初は周囲に構想を話すと反応はまちまち。「シェア型書店なんかしないで横石さんのセレクトショップをやればいいじゃない」と言われることもあったそうです。

更に反応を確かめるべく、クラウドファンディングを利用したところ、あっという間にリターンは完売。予想以上の反響に、渋谷でシェア型書店の成立に確信をもった瞬間だったそうです。現在130棚が完売しており、全てにオーナーがいて、退会者が出てもすぐに埋まるといいます。

また、内装へのこだわりを聞いてみるとそこには渋谷らしいコンセプトがありました。
「もともと、ヒカリエのあるこの土地は、戦後に闇市があったそうです。渋谷という街が生まれてくる背景には、そういったストリートで商いを始めた人たちがいて、ボトムアップで発展してきた歴史があると思っています。そんな闇市がもつバイタリティある雰囲気を表現したくて、屋台やリヤカーを置きました。あえて洗練されすぎない骨太で、仮設的な感じで。そのせいもあって、お客さんからは『このイベントはいつまでやってるんですか?』とよく聞かれますけど(笑)」

▲木や鉄パイプなど素材感が伝わるシンプルで温かな雰囲気の店内。奥には個室風のスペースもあり、じっくりと本と向き合うことができる。棚主の中には編集者や、自費出版した本を置いているが自信がなくて値段をつけていなかった棚主もいて、買いたいという人と出会い自信を得て販売できるようになったケースもあるのだそう。まさに人との繋がりがあってこそ

人と場とのつながりが原動力

多摩美術大学を卒業した横石さん。シェア型書店との関連性を聞いてみると。

「実は僕は絵が下手でして、絵を描かずにすむ試験を受けて美大に入りました。それが芸術学部という、学芸員や批評家を育てたりしている学部でした。そこでは展覧会の企画や作品選定について学ぶのですが、場を編集するということではシェア型書店も同じなのかもしれません。アートが本に置き換わっただけですから」

偏愛というテーマもつながっているという。

「芸術家って変な人が多くて、面白いじゃないですか。でも、大学では『展覧会をつくるなら、作家を見るんじゃなくて作品で選べ』って教えられるんですよね。でもそれって不思議じゃないですか。似たような作品ばかりあっても面白くなくて、結局はつくるプロセスやその作家のこだわりといった偏愛性にこそオリジナリティが出てくると思うんですよね。だから僕にとって偏愛というのは人生をかけたテーマなのかもしれません」

▲取材に同行してくれた渋谷新聞高校生ライターの中川茉莉花さんに取材の感想を聞いてみました。「横石さんのお話を聞いて、『本屋をやりたい』という夢を実現させていること、その本屋にこだわりと愛情を持っていることが素敵だなと感じました。未来の渋谷に本屋がたくさんあり続けるように、服や音楽だけではなく、本が渋谷のカルチャーとして残り続けるように、わたしも出来ることをしていきたいと思いました」

偏愛も愛も受け入れる”うつわ”づくり

更に横石さんのルーツについて聞いてみると、渋谷との関わりが見えてきました。

「実家は陶芸一族の末裔なんですよね。でも、僕は家業を継がなかったので、実際のうつわをつくってはいませんが、書店をはじめ目に見えないうつわをつくっているのかもしれません。そこに様々な人やアイデア、偏愛が集まってくると面白いなって。

あと、渋谷という街自体も駅を中心に、すり鉢状の形をしていますよね。だから渋谷もある種のうつわだと思っていて、そのうつわづくり=街づくりにもっと積極的に参加していきたいと思います。

2月には渋谷西武に渋谷〇〇書店の分室 がオープンします。ヒカリエと西武をまたぐ試みで、10代、20代の若いクリエイターが棚主になれる本屋さんができます。さまざまな世代の人たちと、新しい本屋さんや新しい渋谷をつくっていくのが楽しみで仕方ありません」

最後に横石さんにとっての本屋とは、をうかがうと。

「うーん、やっぱり『愛』ですかね。文化ってそもそも感動やさまざまな感情でなりたっているわけですし、そんな目には見えないものを大切にできる場所がもっと町中にあるといいですよね。本屋さんが増えたら世の中はもっと平和になるんじゃないでしょうか。それは声を大にして言いたい(笑)」


横石さんは年間
300冊読むというほどの愛読家。常に何かの問いと向き合っているからこそ「この人なら何か面白いことやってくれるに違いない」と頼りにされるのも納得がいきます。そしてその期待に応えるために全力で取り組み、自身にできることを模索し、常に偏愛やつながりとの追いかけっこをしているのだなと、今後のプロジェクトのお話もぜひ聞いてみたくなりました。

 

 

◾️横石崇 略歴

&Co.代表取締役/プロジェクト・プロデューサー Tokyo Work Design Weekオーガナイザー、法政大学 兼任講師。企画、場づくりのプロフェッショナル。

多摩美術大学卒業。広告会社・人材会社を経て、2016年に&Co.(アンドコー)を設立。ブランド開発やコミュニケーション戦略、社会変革を中心としたプロジェクト・プロデューサー。働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」は10年目を迎え、国内外で3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。法政大学兼任講師。代官山ロータリークラブ会員。渋谷区発の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、シェア型本屋「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。米国ビジネス誌「FAST COMPANY」をはじめ国内外でアワード受賞。著書に『自己紹介2.0』(KADOKAWA)、『これからの僕らの働き方』(早川書房)がある。

 

◾️渋谷〇〇書店

東京都渋谷区渋谷2-21-1渋谷ヒカリエ8
営業時間:12:00-18:00/不定休/年末年始は12/28-1/3はお休みとなります。
必ずSNSで営業日をご確認ください。

WEB https://www.hikarie8.com/books/about.shtml
Twitter @Shibuya_Books

 

◾️#木曜日は本曜日」アーカイブ展@「渋谷〇〇書店」

期間:202315日(木)〜131日(火)
#木曜日は本曜日 限定しおり」を店頭配布 *枚数に制限あり
同時開催:都内対象書店にて各ゲストの選書本10冊の展示・販売が決定!
都内6つの書店にて、各ゲストの10冊分全てを展示・販売予定しております。
アーカイブ展に展示されていないゲストの選書本をご覧いただけます。
【対象書店】
教文館(中央区)/中野屋書店(品川区)/恭文堂(目黒区)/小川書店(港区)/黒田書店(日野市)/一二三堂(大田区)

WEB https://honyoubi.com

 

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