日本の現代アートに新しい風を吹き込みたいという思いで活動をしている現代美術集団「omnis」代表 金子透さん。
現代美術家としてフランスに7年間滞在していた金子さんと、その美意識に共感した若手作家とで結成されたのが「omnis」です。2021年に続き5回目の展覧会「EVOLVING イメージの解体 リアリティへの挑戦」が渋谷ヒカリエで行われました。
「美術の話になると止まらなくなってしまうんですよね」
と、語る金子さんの美術に対する熱い思いを聞くことができました。
自然美をリスペクトする現代美術集団「omnis」
ーー「omnis」についてお聞かせください。
我々は自然の美しさをリスペクトする結果として、その緊張感のある美に作品が少しでも近づくことを目指す集団です。
自然美とは、無限に近い情報量がありいつ見ても飽きることのないもの。反対に美術作品は自然美に対してあくまでも虚構であり、情報量の少ない作品は消耗品となりいずれ消えていきます。いつまでも飽きることなく感動を与えられる緊張感のある作品が出来ればというのが我々「omnis」のコンセプトです。
我々の作品をいいなと思ってもらえる方が少しでも増えれば幸いに思います。
ーー渋谷ヒカリエで5回目の開催だそうですが何かテーマはありますか?
日本文化に見出されるミニマルな感性を基にフランス、イタリアを中心としたヨーロッパにおける美意識を融合したもの、すなわちシンプルでありながら豊穣である作品を目指しています。
「EVOLVING展」のテーマは、題名のように、掘り下げて展開することで質と精神性の高い作品を制作していくこと、各自のイメージを捉えていく過程の中で自然美の中にある緊張感をリスペクトしながら我々にとってのリアリティを獲得すること、言葉では捉えられないものの美しさをミニマルに表現することです。
渋谷ヒカリエで開催することで、渋谷における現代美術に少しでも貢献できたらと思っています。
ーー開催されるごとに作品の変化などはありますか?
自分自身の美術に対する表現の変化に応じて変わっていきます。変わらないことは自然美をリスペクトしながら、どうしたら自分のイメージを具現化できるのかを追求するということです。
言葉にならないものを捉えたい
ーー金子さんが考える美術とはなんでしょうか?
美術の多々ある大切な役割の一つは、言葉に置き換えることのできないものを捉えることであると考えています。温度は自然科学で数値化できますが、温かさは主観によるもので証明ができません。だからといって、感覚だけで作品を作っているというわけでもありません。曖昧なもの、言葉にあらわせないもの、我々が感じるものをしっかりと咀嚼することが美術の意義であると私は考えます。
我々は、その言葉にならないものを、ツールとしてのしっかりとした技術で支えられた自由で多様な表現手段によって緊張感をもって捉える作品を作りたいと考えています。
また、どんなに上手く描かれた風景画も、絵より実物の方が美しいことは言うまでもありません。あくまで絵画は虚構なので、自然美をリスペクトし、そういう部分を上手く描こうと見せないものが美術だと思いながら制作しています。
ーー「表現」とはなんだと思いますか?
表現とは人の前で全裸になることです。これを美術で例えると、自分を全てさらけ出すことです。
江戸時代の禅僧・良寛の書が私は好きです。若いころから本職の書道家より達筆であった彼の晩年の境地「大愚」は上手く描こうという邪心から解放された清々しさ、品格がある美しい書です。
また、フランスからの帰国後、プロではない85歳の女性が描いた2つのりんごの絵に惹かれました。プロのような技術力のある絵ではないのですが、その女性の顔や人格が見える静かで温かい絵でした。「技術を品評してどうするの?」と言われているように感じ、ありのままが一番と思わせてくれましたね。
高い技術力は当然必要ですが、その技術を忘れたところの深い集中から生まれるもの、上手い技術を感じさせないものが表現だと思います。
ーーインスピレーションを受けるための行動をしますか?
当然です。作品のイメージを貯めるというのはインプットするということです。インプットが多いからアウトプットが豊かになるのだと思います。インプットしたものをダイレクトに表現するのではなく、ワインのようにインプットした素材が頭で発酵した時に初めてイメージになる。発酵するのに時間がかかるように作品を制作するにも時間がかかるんです。描けなくなったり、イメージが湧かない時は旅行に行ったりしています。
ーー実際にフランスで本物をみて衝撃を受けたと伺いましたが、私もフランスに行きたくなりました!
日本にも素晴らしいものはもちろんありますが、フランス、イタリアを中心にヨーロッパには素敵な場所がたくさんありますのでぜひ行ってみてください(笑)
フランスの、特に中世の建築は本当に美しいです。
◾️金子透 略歴
1955年 神奈川県生まれ。
1978年 武蔵野美術大学造形学部油絵学科 卒業
1980年 フランス国立美術学校 留学(~’82)
1982年 Atelier 17(銅版画の前衛的な研究所)にてヘイターに師事(~’83)
1994年 Academie de la Grand Choumiere(仏)
◾️イベント開催概要
omnis「EVOLVING イメージの解体 リアリティへの挑戦」
会期:2022年3月21日(月) – 3月27日(日)
場所:渋谷ヒカリエ8階 8/CUBE
料金:入場無料
主催:omnis, アールエイアーツ株式会社
次回開催予定
場所:渋谷ヒカリエ8階 8/CUBE
会期:2023年 3月20日(月)〜3月27日(月)
Instagram @omnis.jp