ゼロイチが生まれる場所へ VALLOON STUDIO SHIBUYA

シェア・送る

神南1丁目にあるVALLOON STUDIO SHIBUYAで8月11日まで行われているグループ展「01」。VALLOON STUDIO SHIBUYAの渋谷という街との関わり方。そして、湘南美術学院で出会った8人が作り出す、各々の01(ゼロイチ)への思いについて、お話を聞かせていただきました。

アーティストの側によりそう

ーーVALLOON STUDIO SHIBUYAについて教えてください

VALLOON STUDIO SHIBUYAは、有限会社金沢アトリエが運営するギャラリーです。金沢アトリエは、神奈川県で50年続く総合美術予備校「湘南美術学院」を運営しており、美術大学受験のための予備校です。ただ、大学受験はあくまで通過点のため、卒業後の生徒たちへの支援、また予備校講師の傍ら作家活動をしている方も多いので、継続的にアーティストを支援していくという想いのもとオープンしたのが、このギャラリーです。大学生や大学卒業後に作家活動を続ける際、場所がない、ギャラリーレンタルにお金がかかるなどの問題があります。このギャラリーは、基本的には展示だけでなく、アートに関するイベントや、そのアーティストがどういうことを考えて制作しているのかが分かるようなワークショップを積極的に行い、アーティストの考えや制作過程を見せる場としても利用されています。現在、このスタジオは運営2年目となります。

ーー駅からも近いですね

そうですね。渋谷駅や原宿駅からアクセス可能な位置にあります。ここで展示している作家は、20代の若手が多く、美大生やまだ広く知られていないけど面白い作品を制作する作家が多いです。アートって結構ハードル高いイメージがあるじゃないですか。特別な才能が必要と思われがちですが、いろんな人がアーティストの視点を持っていて、それをちゃんと育てていくことで誰でもアーティストになれる可能性があるんだよっていうのを伝える場所として運営しています。なので、いわゆる絵画や彫刻みたいなTHE アーティストだけでなく、例えば、本屋を営む人が特定の理念で本を選ぶイベントを行うなど、多様なアーティストを紹介しています。

ーーホームページの言葉「人生の選択肢に、アーティストを。」が素敵で、印象的でした。

よかったです。アートのハードルを下げ、親しみやすくすることを目指しています。AIが発達していく中で、アーティストの0から考える力や観察力、どうやって1にするかを考える思考力が今後重要になると考え、例えば、デッサンをすることでモノの見方を変えるというような企業に向けたアートを活用した研修プログラムの提供なども行なっています。
会社としても、「VALLOON事業部」という新しい部署をつくり、今までアートに触れることがあまりなかった方に向けての新たな取り組みをすすめていて、「VALLOON」は価値という意味の「Value」と気球の「Balloon」を組み合わせ、価値を膨らませるという意味を込めています。

渋谷とアート

ーーホームページに、渋谷は日本屈指のクリエイティブシティと書かれているんですけど、特にどんな点がそういう渋谷の魅力としてあると思いますか?

渋谷は多文化が交差する場所であり、そもそも「交差」という言葉が渋谷のキーワードだと思っていて、スクランブル交差点がその象徴です。渋谷には多くの外国人観光客が訪れ、さまざまな文化や言語が飛び交います。本来ギャラリーって銀座とか日本橋とかの辺りにすごい多いんですよ。渋谷はギャラリーが多い町ではないんですけど、「価値を膨らませる」ための新しい挑戦としてやっていくんだったら、若い人も多いし、アートのハードルを下げていくみたいな点でも、渋谷にギャラリーを設けることには大きな価値があります。

ーー交差っていいですね

そうですね。それは結構キーワードにしていて、うちのイベントでも、まだ1回しかできてないですが、「交差点」というイベントを開催しています。アーティストと企業の方など、アートの文脈外の方々を招き、ある種、異文化交流の場を設けたりしています。それも渋谷という場所だからこそ新しい面白い繋がりが生まれていくと考えています。

ーーアートのハードルを下げるって具体的にはどんなことをしているのですか?

やっぱり見るだけだと、なんか難しそうだなって思われちゃいがちじゃないですか。なので作品の裏側の説明をし、共感を得られるようにしています。
来場者には、作品の背景や作家の考えを口頭でもお伝えしていて、たまに持って帰れるプリントとしてお配りしてることもありますね。 来場したお客さんの引き出しを1個増やして、何かを持ち帰れる場所を目指しています。美術予備校の運営を母体として、美術教育を行なってきた会社なので、今後はその辺もさらに考えていきたいです。

ーー今回の展示について

今回展示してる作家は全員デザイン系で、湘南美術学院のデザイン科出身です。 予備校を卒業してそのままグラフィック系の専攻に進学した人もいれば、そうではなく版画やファインアートなど多様な学科に進学した作家のさまざまな作品が並ぶ展示になっております。

テーマ「01」

ーー今回のテーマについて関原優奈さん、平沼空乃さん、小出璃絵さんにお聞きしました。

平沼:テーマ決めるってなった時に、みんな結構違う道に行ったり、作品の系統も様々なので1つ具体的なものを決めるよりは、広く捉えられるのがいいかなってことで、話し合って、今回の「01」というタイトルになりました。
小出:人によって、初めて0からの展示だって解釈だったり、自分で新しく作ってみるみたいな解釈だったり、 0と1の差について言及したり、いろんな解釈ができるという意味で「01」という名前をつけました。

ーーこれはみなさんテーマが「01」って決まってから作品作ったんですか?

小出:そうですね。部分的に元から作ってて、それを自分の味として出しましたみたいな人もいますけど。
平沼:「01」を私は具体的に捉えて、0と1から連想して作ったんですけど。そうじゃなくて、これが私の1歩なんだ。みたいな風に捉えて、自由に作ってる人もいるしって感じです。
関原:それぞれが各々のテーマで作っていった感じです。なんせ8人ですからね。まとまりようがなくて。(笑)
平沼:なんか個人的に私が思ってることになっちゃうけど、この8人は予備校時代に、基本的には一緒に受験勉強していた仲間たちなので、それこそ「0」、自分の根幹となる部分、今の自分に繋がってる部分を一緒に築いてきた8人かなという風にも捉えています。

「01」に各々が込めた思い

小野寺圭佑

今回の「01」では、誰かにとっての第一歩を応援したい。そんな思いを込めて制作しました。
最初に01と聞いて思い浮かんできたのは、物事の始まりや創造、第一歩などといった、ありふれていて、かつかなりザックリとした言葉でした。
このイメージをどう作品にしようかと悩んでいたところ、自分の中の第一歩ではなく誰かの第一歩のために作品は作れないだろうか、そう思いつきました。
何をするにも、何になるにも、誰だってはじめの第一歩を踏み出す瞬間があります。その瞬間を、そっと背中を押して応援してあげたい。そんな気持ちでこの「初」を制作しました。
今回応援しようと決めたのはお酒で、初めて飲むお酒を嫌な思い出ではなく、いい思い出にしてほしいといった気持ちを込めてお酒のパッケージラベルを制作しました。

 

清水陽心

今回新しく作ったのが立体系とこの絵です。この絵は新しいんですけど、0と1なのでドーナツを「0」に見立てて、「1」個買うところみたいなイメージです。 元々、カートゥーンアニメとかの、背景が写実的な感じで、登場人物がマットな感じで、っていうレイヤー感みたいなのがすごく好きなので、全部そういう感じでキャラクターに枠線つけたりとかして描いています。
立体系は「01」ってコンセプトで、0から1を作り出すみたいな考えで、18個作りました。なにも考えずに、とりあえず手を動かして粘土をこねてみて、 0の状態で手探りで作って、色塗りもその都度その都度考えながら、その時に全部テーマを決めて考えたので、統一性はないんですけど。だからこそ、なんか自分の好きなものとか、ちょっとしたこだわりとかが結構わかって気に入ってます。自分的に、作ってて意外とコンセプトからとかよりも手動かしてからの方が合ってるかもって思いました。

 

烏ノ晃

基本的に散歩が好きで、散歩する時と、0から1を生み出して作品を作る時は同じ考えでいます。散歩する時とかもこれとこれ組み合わせたら面白いなとか、リプランニング的に頭の中で構成して作っています。あとはシンプルに僕、自分の絵が大好きなのと、自分自身のことが好きなので、自分が好きな作品を鑑賞者にも楽しんで見てもらいたい、好きになってもらいたいという思いで作品制作を行ってます。 
やっぱり西洋絵画とかその時期って結構宗教だったり、社会的な風刺とか込めた意味があるとは思うんですけど、現代の絵の良さって、顧客と作者、アーティストが繋がれるという良さがあります。それを大事な視点にしたいなっていう風に思って製作してるので、今回はそれをテーマにして作っています。

 

小出璃絵

アニメーションと制作物を作っています。「01」って聞いて、1に対して答えるっていうよりも、自分が今回初めての展示だったので、0から1歩踏み出して、自分のやりたいことやるぜ!という思いを2方向に向けてやってみたって感じです。あと、悪魔のモチーフが好きで、自分が好きな悪魔っぽい雰囲気を持つ作品が作りたいなと思って、アニメーションを制作しました。
制作物も、自分の悪魔を主題にした創作群があって、そこに登場するキャラクターを作ってみました。コウモリがモチーフのこのキャラクターは鞄を持ってるんですけど、コウモリって架空ができるじゃないですか。色々あって記憶を失っちゃってるんですけど、荷物運ぶなんでも屋さんみたいなことをして自分のルーツを探しに行くという創作の主人公です。アニメーションは割と初めてみたいなところがあるんで、頑張って0から1をしているって感じです。まだ未完成で、序章なんですけど、鋭意制作中ということで放映しています。

 

平沼空乃

私は自分の作るものの信念は、日常の面白いこととか不思議なものを作品にしていけたらなというところにあります。上の方は今回の0、1に合わせて考えたんですけど、その日常で0と1という数字について考えた時に、原点という意味では0も1も同じ意味を持っているけれど、あるとなしじゃ全然違う、という点をを2面で表現したものを作りました。
下の方は元々課題で制作していたものなんです。今美大にいるのですが、自分が小さい頃に身内に美術関連の人が全然いなかったので、人と比べてセンスがあまりないなって思うことが多くありました。自分は色の勉強とかを論理的に学んで習得したので、そういうのをもっと経験として学べてたらよかったのになっていうのを考えていて。色を学べるおもちゃを作って、小さい頃から経験として色を学ぶっていうのができたらいいなと思って制作しました。自分が学んで0が1になるというところが今回のテーマに合ってるかなと思ってこれで出させていただきました。

 

関原優奈

私は01というテーマを聞いた時に、作品作りは大体0から1を生み出す感覚で、そんな0から1を生み出す時は何を指標にしてるかなって考えました。やっぱり好きなものだと一番やる気が出るし、絵も好きだから始めたし、美大に入ったのも絵が好きだからだし。そういう好きっていう感じがやっぱ0から1を生み出すときに一番働くんじゃないかなと思いました。 なので今回は、私が好きな魚の鱗をひたすら作って展示することになりました。本当にそれぐらいしかコンセプトはないんですけど、徹夜でひたすら手を動かして、粘土でつくったパーツを一個ずつつけています。本当は作品に触れるようにしたかったんですけど、直接触るとやっぱ痛んできちゃうので、この作品を写真に撮ってレジンで上に一個一個つけて触れられるようにしました。めっちゃ大変な作業でしたけど、何事もパッションで乗り切るタイプなので、今回もそれで乗り切りました。

 

高野至恩

右の絵は入試の時に自分の作品を提出するみたいなのがあって、その時に書いたやつです。なのでこれだけ2023年なんですけど、個人的に結構思い入れがある作品ではあります。
左の6点は、今版画科で銅版画をやってるんですけど、課題が前期に6つ出て、その時には元々この展示をやることが決まってたので、その展示で飾れる絵を作ろうと思って作りました。技法とかの指定が色々あったんで、できるだけその技法の魅力ができるような絵を作りたいなっていう風に意識しました。こだわりすぎないっていうか、 結構いろんな絵というか、とっちらかっていて、ひとまとめになってない感じはあると思うんですけど、それは自分のその時の興味をあんまり抑圧しないようにしたっていう感じです。

取材を終えて

同年代のアーティストの方がこうやって活躍しているのをみると、諦めかけているものへのやる気がぐんぐんと出てきます。ぜひ、VALLOON STUDIO SHIBUYAにまで足を運び、作品を鑑賞してほしいです。素敵な作品ばかりで、時間を忘れて楽しむことができます。
やっぱり多くの人にアートをしてほしいです、本当に。そのためにも書き途中の脚本、ちゃんと完成させます。夏中に、今年中に、、、。
最後に
「心だけ、前を向いてもうまれない 天井を見て、祈っていても」

◾️取材対象者の略歴

◾️VALLOON STUDIO SHIBUYA
アーティストに資格はいらない。「アーティストになりたい」という気持ちさえ灯っていれば、誰だって志していい。「VALLOON STUDIO SHIBUYA」はアーティストを志す人たちのためのオルタナティブなプラットフォームです。美大受験対策にとどまらない、より本質的な美術教育を。インプットとアウトプットを繰り返しながら、クリエイティビティを膨らませていける環境を。日本屈指のクリエイティブシティ「渋谷」から、アーティストを目指してみませんか。
HP: https://valloon.co.jp/studio/
住所:〒150-0041 東京都渋谷区神南1-14-1
営業時間:12:00〜20:00 ※休廊日 火曜・水曜

◾️グループ展「01」

同じ美術予備校で競い合い、美大に通い始めて一年が経った8人で行う展示です。
各々が多摩美や武蔵美、そしてさまざまな学科へ進学し一年学び、再び集まって作品を作ります。
そのため、イラストを描く人や立体を作る人、映像を作る人、空間で表現をする人など、さまざまな種類の作品を見ることができると思います。
「01」という数字を目にして、何を思い浮かべますか?
0と1という数字は無限の可能性を秘めています。連続とも、反対とも、同じものとも言えるような…
誕生であり、成長であり、時にはゴールのような…
創造する行為そのものを「01」で表現するならば、制作者である私たちのあとをついて離れないのがこの数字でもあります。
考え方も好きなものもさまざまな私たち8人。
幅広い意味を持つ「01」を各々が制作を通して見つめ直します。
同じ予備校という出発地点から、さまざまな方向へと進んでいった8人それぞれの美術への向き合い方と表現の仕方を見ていただきたいです。
そしてこれからの新たな活躍も見ていただくために、さまざまな方々に私たち8人を知っていただきたいです。
開催期間:2024年8月3日(土) – 8月11日(日)
営業時間:12:00 – 20:00
※休廊日:火曜、水曜

◾️清水陽心

2004年 滋賀県出身
2023年 多摩美術大学芸術学部グラフィックデザイン学科入学
イラストとアニメーションが好きで制作しています。iPadを使ったデジタルイラストとアクリルガッシュを使ったアナログイラスト、どっちもしています。粘土を使って、自分の作ったキャラクターも制作しています。描くものはポップなものが好きです。

◾️平沼空乃

2004年 神奈川県出身
2023年 多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科在学中
日常に寄り添った不思議なこと、面白いことを探して、イラストレーションや立体作品を制作している。

◾️烏ノ晃

多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース2年在籍。
アクリルガッシュ、色鉛筆、鉛筆などを使用し、自分の世界観を表現

◾️高野至恩

多摩美術大学版画専攻在学中。
視野と好奇心を抑圧しないように心がけて制作しています。銅版画が主です。森博嗣と夢野久作が好きです。

◾️関原優奈

多摩美術大学グラフィックデザイン学科2年在学中。
小さな単位をたくさん集めた時に発生する大きな魅力を大切に制作している。

◾️小野寺圭佑

2004年 神奈川県出身
2023年 武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科入学。現在2年生。
日常の風景を油絵で表現し、清潔感のある美しいデザインを目指して制作しています。

◾️戸塚直美

2004年 東京都出身。
多摩美術大学 グラフィックデザイン学科。
ポップな色遣いと世界観を少女のイラストを通して表現している。

◾️小出璃絵

2005年 神奈川県出身
2023年 多摩美術大学グラフィックデザイン学科入学
自分の好きなほの暗い雰囲気を模索しながら、作品を制作している

シェア・送る