コミュニケーションコストゼロのまち渋谷へ。希望が実現できるまちを目指す 東急株式会社(東急不動産(株)から出向) 伊藤秀俊さん

(取材当時東急不動産から出向)

ミッションはコミュニケーションコストゼロのまち・渋谷を創ること。

KPIは「実行数」、世の中にとって良いと思ったことはまずやってみる。言葉にすれども実際に行動に移す人は少ないので、実行し続ければ希望は必ず実現します。

そう話すのは、渋谷の再開発を中心に東急グループとスタートアップの事業連携や社会課題解決型プロジェクトなど幅広い活動をされている東急株式会社(東急不動産から出向)の伊藤秀俊さん。コミュニティを大切にし、既に400件以上の共創を実現している伊藤さんに、渋谷の再開発やスタートアップと企業や自治体との共創についてインタビューをしました。

大切にしている言葉は希望

ーー伊藤さんについて教えてください
「私のビジョンは『志を持つ誰もがそれぞれが想う明日への希望を語り、希望を実現できるまちを共に創る』です。スタートアップの経営者と、それを支えるVC(ベンチャーキャピタル)やアクセラレーターなど志を持っている方々と共に渋谷のまちを創っていきたい。私の役割はディベロッパーとして舞台を創り、舞台を必要としている方へ繋げること、その繋ぎのコミュニケーションコストがゼロなまちを創る、これが私のミッションです」

「“渋谷をつなげる30人”がきっかけで渋谷の社会課題解決にも関わっていますが、社会課題を解決すると言うと、課題に蓋をしよう、とか、無理してでも良くしなきゃという動きになりがちじゃないですか。私は渋谷をつなげる30人で学んだ『課題を課題では無くすること』を大事にしています。関係する人それぞれが腹落ちし、それぞれの希望が叶う環境を創ることが活動の原点です」

ーー具体的にどんなことをやっていますか?
「実行と発信の繰り返しです。コミュニティが求める場づくりを共創し集積地を創ります。そこでイベントを開催し集まった方々と共に新たな事業を創出します。事業からリターンを得るために投資をし、投資により生まれた新たなコミュニティと共にまた新たな集積地を創ります。このサイクルを実行し続け、発信し続けます。他力本願といわれることもありますが、他力本願こそが誉め言葉かも」

「実行できる人が集まって、実行に向けた座組みが構築され、まずやってみるという仕掛けが渋谷でできています。自分の強みと仲間の強みをそれぞれ尊重し合いシェアし合うと、web3でいうDAO(ダオ)になるよねということで、今はDAOを活用した地方創生にもチャレンジしています。各地域の志ある方々と渋谷の方々を繋ぎ、それぞれの社会課題を課題で無くする実証実験です」

「渋谷では現在、再開発が進んでいるのですが、被せるような形で色んなインキュベーション施設を創ってきました。ただ各施設同士は直接コミュニケーションがとれていません。なぜならコミュニティはクローズド(閉鎖環境)だからこそ価値があるものなので。でもそうすると横の繋がりが乏しく世界が狭くなりがちです。だったら私がハブとなり繋げばいいじゃんと思って行動しています」

ーーモチベーションはどこから生まれるのですか?
「自分のミッションだと分かった瞬間にモチベーションとかの話ではなくなってくるんですよね。モチベーションがないから今日はやめようとか、今日はモチベーション高めて頑張ろう!みたいな発想はもう無いです。実行することが平常運転みたいな」

「周りが動くので自分も動かざるを得ない環境になっています。動く人と常に一緒にいるので気が付いたら私も動いているイメージです」

まちづくりのために人を繋ぐ

ーー伊藤さんにとって良いまちづくりとは?
「活動を始めた当初は、『人!もの!お金!』を獲得できるまちをデザインしたいと思っていましたが、今は『人!人!人!』だなと。この言葉の中には『敬意』や『共感』、『Give、Give、Give』といった行動原則も含まれていて、あ、この人はTakerだなぁという人と最初から関わらない環境づくりも重要です。なので『志ある』という前を向くココロが結構大事ですね」

「そのココロをまちづくりにどう繋げていくか?私のミッションは舞台を創ることなので、実行する人が活躍できる場所を創り、そこに集う方々へ機会提供することが手段となります。ただ場所を創るだけでは意味がないので、コミュニティが求める場を共に創っていくこと、そしてまちの中でそのコミュニティを他のコミュニティに繋いでいくことを大事にしています」

「そのためには偶発性を意図的に創り出す設計『計画的偶発性』が必要です。セレンディピティとも呼ばれるそれは、偶然という不確かな要素が強いように聞こえますが、実際は共感/共創を生み出しそうな人同士が偶然出会うように事前に仕掛け、お互いが本当に必要とする人や事象に自然に巡り合えるよう設計しちゃいます。マッチングで重要なのは『ミスマッチを起こさないこと』、ただやみくもに行動するのではなく、ソーシングされた環境のもと最短距離で必要としている人同士を繋げるよう心がけています。それはリアル空間のが実現性が高いです。オンラインでもできなくはないですが、リアル空間のが意識せずに目に入ってくる情報が圧倒的に多いので。オンラインは保温機能、オフラインはドカンと打ち上げ花火みたいな使い分けも大切にしています」

ーー渋谷への愛はいかがですか?
「渋谷の魅力とか分からないですね(笑)雑然として騒がしいまちだなと思います。私は引きこもりをこよなく愛すタイプなので(笑)社会人になってから渋谷に関わった人間としては、特段渋谷のために何かをするという感じではないかもしれません。とはいえ20年通っているので、他のまちが凄いことをしていると『なんで渋谷じゃないの!』ってなります。なのでシティプライドというか愛は持っていると思います。あ、もちろん渋谷の人のことは大好きです」

ーー「渋谷をつなげる30人(以下:渋30)」にも関わっていますよね
「コレクティブインパクトとも呼ばれていますが、住民・企業・行政が同じベクトルで社会課題を解決していこうっていうプログラムが渋30です。渋谷区はもともと社会課題を言語化して発信しているのでこれをどう解決していこうかということなんですけど、課題に解決策を無理やり上書きして蓋をするのではなく、課題を課題で無くすことの方が面白いよね、と渋30で学びました」

「渋30の面白いところが、デモデー(最終日)をスタートラインとしてプロジェクト実行を約束することなんですよ。無理だよ!と思うかもしれないですけど同期は30人いるし、もっと辿れば助けてくれる先輩方が沢山いる。今年9期で来年10期なんですけど、発起人の方が言ってたのは『10期やったら30人×10期=300人のイノベーターが集まる、そうすると渋谷区がもっと発展するよね』と。で、もっとすごいのはその300人が更に次の30人を繋げると9,000人になるってこと。だからだと思うのですが何か課題があったときに渋30コミュニティへぽんっと投げるとすぐ反応があり解決へ導いてくれるんです」

「私が渋30で実行したのは『渋谷を綺麗に』するプロジェクト。転機となったのは『“渋谷”を綺麗に』から『“自分のまち”を綺麗に』と自分事化できたこと。そのきっかけとなったのは『落書きされた人』と『落書きしてた人』を同じ場所に呼んでワークショップを開いた時です。ワークショップでは紆余曲折ありましたが、落書きする人はアートを描く人に変換され、落書きされた人は白紙のキャンバスを提供する人に双方腹落ちしたんです。最後に双方が握手する姿を見てもう後戻りはできないな、と。こういう取り組みが課題を課題じゃ無くすることですよね」

ーー渋谷のこと、好きになっちゃってますね(笑)?
「好きですよ。渋谷で活躍する人と一緒に各地域に行ってプロジェクトを実行したいですね。各地域に移住するのではなく、普段は渋谷で活動し、越境人材として月に2,3日とか各地域に行ってプロジェクトを実行したい、というかちょっとづづですがもうやり始めています。渋30などの官民連携は再現性が高いんです。でも各地域は人手不足で困っている。渋谷にはプロジェクトやりたいっていう人材が沢山いるし、今は自律分散型組織による活動が容易なのでDAOによる地方創生にチャレンジしています」

「持続化していくことは課題ですね。自分は渋谷が拠点ですが、秋田県にかほ市や長崎県長崎市、広島県三原市など各地域のことを渋谷より好きになるんです。正に第二の故郷です。そしていよいよ今年は本当の故郷『愛知県豊田市』で渋30と同じ手法を使ったプロジェクトが生まれそうな予感で、ちょっと関わらせて貰ってます。どんな立場になってもこの流れを実行し続け発信し続けていく『志』という前を向くココロでチャレンジしていきます」

1時間半にも及ぶインタビュー、伊藤さんが目指すまちづくりをはじめとしたさまざまな共創事業についてたっぷりお話を聴くことができました。まさに渋谷区の総合政策「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」の体現に尽力している伊藤さん。とても楽しく、これからの渋谷が楽しみになるお話をありがとうございました!

▪️伊藤秀俊
1974年生まれ 2017年からスタートアップ共創構築と社会課題解決を会社のミッションとして実行し始めました。 「だれしもが希望を語り、希望を実現できるまちを共に創る」ことを目指しています。

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