サステナブルなホスピタリティから始まるおいしい共生プロジェクトFARMER YOU 田尾 あゆみさん

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日本全国でホテル、商業施設、カフェ、レストラン、オフィス、レジデンスなど様々なホスピタリティを提供するトランジット・ジェネラルオフィス(以下トランジット)。そこから立ち上がった一次産業者や地方が抱える環境課題を題材とした企画「FARMER YOU」プロジェクト。
2024年に法人化してスタートした株式会社FARMER YOUの代表取締役社長・田尾あゆみさんにお話を伺いました。

五島列島の海の近くで過ごした少女時代

「大学ではアメリカに留学してホテル経営学を学んでいました。
両親の出身が長崎県の五島列島ということもあって、夏休みは五島列島にあるおばあちゃんの家で1ヶ月過ごすという小学生・中学生時代を送っていました。そこでは物々交換だったり、自分で釣ったものを自分で食べるといった自然と循環した生活が残っていました。
そんなこともあって、大学進学の際に自然に関わる勉強がしたいと思って、海洋哺乳類の生態や波の原理を研究する海洋学に進むか、ホテルマネジメントに進むかで迷っていたんです。けど自分は研究向きじゃないなって高校の先生に言われて、ホテルマネジメントの方に進みました。当時はホスピタリティビジネスを学べる大学が日本にあまりなくて、アメリカの大学に留学しました。どうしても海外に行きたいと思っていたのもホテルマネジメントに進んだ動機かもしれません」

▲対馬の海

「卒業して帰国するタイミングで調べていたのが、沖縄で開発予定だったホテル。それを手がけていたのがトランジットだったので採用に応募しました。
英語が喋れるだろうということで、はじめは東京にあるラグジュアリーカフェの運営スタッフとして入社しました。
ホテルをつくりたくて入社したのですが、リーマンショックの影響もあってホテルの計画はなくなってしまいました。ただ、飲食の現場に入ってみたら結果としてとても楽しかったんですよね。

実は一度トランジットを退職して大手の飲食チェーン内部の物流会社に転職したのですが、ご縁があってまた戻ってくることに。次は本部で衛生管理や、複数店舗を見るマネージャーのサポート役をしていました。その後、新規開業店舗の担当になって色んな店舗の立ち上げや、関西支社立ち上げの担当などもしました。
ちょうど会社としても成長していくタイミングに入社できたのは良かったと思います」

渋谷のカフェ店舗の改善企画からスタートした「FARMER YOU」プロジェクト

▲渋谷駅東口地下広場「UPLIGHT COFFEE」に併設する「PUFFZ」

「関西から戻ってきて、新規開業店舗の担当をしていたんですが、結婚、その後年子の2人の子どもを出産しました。二度の産休の後、戻ってきた時に担当したのが渋谷の駅ナカにある『PUFFZ』(パフズ)。ちょうどコロナ禍での開業直後でしたので、かなり苦戦をしました。
元々様々な企画をすることが好きだったので、自然や生物多様性をテーマにした企画をしようと思っていた時に、出会ったのがマダガスカルのバニラ。
マダガスカル育ちのバニラビーンズを扱っている〈Co•En Corporation〉の武末さんが直接お店に売り込みにきました。マダガスカルの生物多様性を守る農法『アグロフォレストリー(森林農法)』の話を聞き、一緒に広げていく企画をしました。そこでできたのが『マダガスカルバニラを使用した”究極のシューアイス”』。マダガスカル大使館の公認企画として展開しました。
またバニラアイスクリームを作る際に煮出したバニラさやを乾燥させたものをつかったバニラビール『MADAGASCAR VANILLA MILKSHAKE IPA』も開発しました。
この企画がきっかけで、こういったサステナブルな企画を行う『FARMER YOU』プロジェクトを立ち上げました」

▲マダガスカルバニラを使用した”究極のシューアイス”

「その後、様々な理由から市場に出回らない魚である低利用魚である伊勢志摩近海のウツボを使ったパエリアや、対馬のバリ(アイゴ)を活用したフィッシュバーガーなどのメニュー開発を行っています。
海のことは大好きでしたし、こうやって食からのアプローチで海の環境問題に関われているのは嬉しいです」

▲低利用魚の活用「バリカツバーガー」

正々堂々と良いことを謳ってビジネスをしよう

「このプロジェクトで大前提にしているのが、ビジネスとして持続可能じゃないと意味がないよねっていうこと。正々堂々と良いことを謳ってビジネスをしようというのを合言葉にしています。1個630円のシューアイスは高いと思うかもしれませんが、その背景にあるものをわかって納得してくれます。店頭では環境のことをあまり前面には出さないんですが、気になった人が情報を追いかけてくれています。

『FARMER YOU』という言葉には、作り手(FARMER)​​と消費者(YOU)が同列で、どちらもなきゃ成り立たないという思いが込められています。
良いものを仕入れてきちんとつくったものを、正当な価格で販売することで、作り手にも利益が生まれる仕組みです。私たちは生産者を”支援”しているのではないということ。Co-En の武末さんと共通していたのが、生産者である現地に対して武末さんが伝えている『良いバニラを作ってくれたら、真っ当な価格で仕入れて、出口として日本で販売する』ということ。以後の企画も、そう言った意味で生産者との対等な関係を大切にしています」

▲マダガスカルにあるアグロフォレストリーの農園(photo by Co-En Corporation)

「一番気をつけているのは、『おいしい』ということを自分で勧められるかどうか。ただただおいしいということが先にきて、その後にストーリーが続いていきます。お客さんも何の情報もなくて、おいしいということで買ってくれて後で社会課題のことを知ってもらうというような流れができています」

多様性の街から余白のある発信をしていく

「今後は食以外のところでも、課題産業やその素材を生かしたプロダクトを通して関係人口を増やしていくことをやっていっていきたいと思っています。

4月27日には、千葉県鴨川市に「SOIL to SOUL FARMPARK@鴨川」という公園がオープンします。耕作放棄地だったところを公園であり農園である場所に変えるプロジェクトです。この辺りは耕作放棄地がたくさんあるのに、子どもたちが安全に遊べる公園が少ない。じゃぁ公園をつくって子どもも大人も集まって、自然の里山に触れ合えるような場にしていこうと地元の沢山の面白い大人が集まって公園運営の為の一般社団法人を立ち上げました」

▲建設途中のSOIL to SOUL FARMPARK

「渋谷はいろんな価値観を持っている人たちが集まる場所だと思います。渋谷駅周辺だけでも、センター街やヒカリエ、神泉などエリアによって全然違う雰囲気。そこが面白いなって思います。その中で渋谷駅ナカにある「PUFFZ」は情報発信をテーマにしているお店です。
ここ「PUFFZ」では今年もまた6月1日から「マダガスカルバニラのシューアイス」の販売をする予定になっています。渋谷はいつも変化している、しかも最速で変化している街だとも思います。そう言った意味でも、毎年「PUFFZ」から始めていきたいと思っています。

FARMER YOUで目指しているのは多様性。FARMER YOUが打ち出すサステナブルな取り組みもあえて統一性や一貫性がないようにしています。何が正しい、間違っているというのではなくて、これもいいよねっていう余白をつくりたいなと思っています」

 

ーーインタビューを終えて
筆者の活動ともつながる点が多く、田尾さんに会えるのを楽しみに取材に行きました。
環境問題を、おいしく、楽しく伝えていくという田尾さんの理念に共感しました。田尾さんが環境活動に取り組むようになったきっかけ、その思いの根っこに触れることができてとても楽しい時間でした。

 

◾️田尾 あゆみ
2008年 TRANSIT GENERAL OFFICE入社。ラグジュアリーブランドカフェのサービススタッフとしてキャリアをスタートさせ、本部へ異動。
新規飲食店の開業担当として東京スカイツリー展望フロア内カフェ、梅田阪急百貨店喫茶、INTERSECT BY LEXUS、Mercedes-Benz Connection、メゾンブランドレストランや虎ノ門ヒルズ ステーションタワー内T-MARKET等数々のクライアント運営受託店舗の開業担当として長く携わる。2度の育休産休を経て、2021年にFARMER YOU PROJECTを社内にて発足。2024年2月株式会社FARMER YOU設立、代表取締役就任。

◾️PUFFZ(パフズ)
東京都渋谷区渋谷2-23-16 東口地下広場B2(渋谷駅 B7出口 直結)
03-6324-2739
9:00〜21:00
無休
公式サイト

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