渋谷と世界のスタートアップをサポートする「Shibuya Startup Support」 佐藤 凱さん

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みなさん、スタートアップ(起業)に興味はありますか?
僕は中学2年生になった2022年の夏に起業体験イベント「Startup Weekend」に参加し、そこから起業に興味を持ち、その後も起業体験イベントなどに参加しています。
そして、自分の住んでいる渋谷で、起業活動を区が支援しているということを知り、とても興味が湧いたため、今回、渋谷区産業観光文化部グローバル拠点都市推進室で起業家をサポートしている佐藤凱(さとうがい)さんに、お話をうかがいました。

▲Shibuya Startup Support

渋谷区が起業を後押しするSSS

ーー「Shibuya Startup Support」について教えてください

「Shibuya Startup Support(以下、SSS)」を分かりやすく言うと、すでに起業をして会社を立ち上げた人や、起業を考えている方を、支援する包括的な仕組みを作るための部署であり、システムになります。

ちょっとわかりづらいですが、「SSS」という名前は、海外向けに渋谷区のスタートアップ施策を発信するときに使っているブランドネームのようなものです。概念として、渋谷区がスタートアップをサポートすることを、包括しているのが、「渋谷スタートアップサポート」という形になります。

▲渋谷区 産業観光文化部 グローバル拠点都市推進室 グローバル拠点都市推進主査 係員の佐藤凱さん

ーーなるほど。「SSS」という団体などがあるわけではないんですね。

そうなんです。そして、SSSで主にやっていることは3つ。
1つめが、起業家自身や、起業した後の環境の整備。 
2つめが、スタートアップをサポートするシステムの国際化。
そして、3つめが、実証実験の支援です。

ーーSSSはどのようにしてできたのですか?

それまでは、商店街や中小企業の支援をしている産業観光課という部署の中にある創業支援の仕組みの1つで、課として独立していなかったんですね。

渋谷区としてどのようにスタートアップ支援をやろうという話になったかというと、渋谷は、起業家の方たちにとっては、とても魅力的な場所で、起業する方も多いし、逆にそれを支援する方も多い。さらに、投資をする方もすごく集まっているようなフィールドで、日本の中ではかなり魅力的な場所として映っていたと思うんです。

けれども、それは我々渋谷区が公共として、何かそこに対して支援をしたり、入り込んでいったりというものではない。いわゆる「ビットバレー」と呼ばれている大きな企業の方々が、渋谷区に街としての魅力を感じ、1990年代の後半から2000年代の前半にかけて渋谷で起業して大きくなってできたエコシステム(生態系)と言われる環境なんです。

その中で、 渋谷区としても、常々スタートアップの支援をしたいと考えていました。

ーー何かきっかけがあったのですか?

はい。2019年に、内閣府が世界に対する「スタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」を打ち出し、2020年に4都市を選定しました。

日本各地のエリアに、起業しやすい環境をつくることによって、起業し成長したところがまた、次の起業を支援する。また、それに影響された方が起業するという生態系のような形で、そのサイクルを生み出す。特に、世界に対して発信できる拠点をつくろうということで、都市の指定をしていたんですね。

そこに東京圏も入っていて、渋谷区もその東京圏の一員として、一気にスタートアップの支援に力を入れていこうとなりました。そこがスタートですが、内閣府がやってるからという理由ではなく、もともと「起業家の支援や、起業家のためのエコシステムをつくる」ことを目標にしていたので、そこに外的な要因が組み合わさって、一気に舵を切ったという流れです。

SSSでの活動とその思い

ーー佐藤さんは、どんな思いをもって、SSSの活動に取り組んでいるのでしょうか。

そうですね。まず1つは、挑戦できるようなコミュニティにしていきたいですね。。

日本以外の国もそうなのかもしれませんが、起業しても調整が難しく失敗してしまうケースが沢山あります。私たちが支援しているスタートアップだって、正直なところ言えば、支援している9割以上が、5年10年のスパンで見た時になかなか生き残ることができないという厳しい環境にあります。でも、その中で、挑戦していく人たちを応援する社会の基盤をつくりたいという思いが、私たちとしては強くあります。それが基礎にあった上で、国際化もしたほうが良い。多様な人種が入ってくることによって、多様なアイデアが生まれるような環境になると思っています。

「ちがいを ちからに 変える街」である渋谷区としても、国際化をして、外国の方々のエコシステムをつくっていきたい。そして、実証実験の事業もその1つですが、何度も何度もトライアンドエラーで試していく環境づくりを進めていきたいというのが、この活動をしていて、一番、思いとしてはありますね。

▲思いを熱く語ってくれる佐藤さん

ーー海外の方には、具体的にどんなサポートをしているのですか?

ビザの発行を行っていますが、日本に外国人の方で入って来たばかりの方の課題として、不動産の契約とかがすごく難しいということがあります。そこで、私たちが持っているスタートアップ向けの拠点では、そのビザを持っている方は、1年間は無料で使っていただけるようにしています。

もちろん、日本人の方も利用できて、起業家のイベントを開催するほか、コミュニティができる場を設けて、そこで交流も生まれています。

ーー佐藤さんは、起業についてどう思っていますか? 「起業は怖い」とか、「とっつきにくい」と言われることがあるのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

そうですね……。日本人だけに限らず、起業はリスクのあることで、会社を大きくしても、ガンガン働いて全部注いでも、失敗する確率が高いといった、怖さを感じる所はあると思うんですね。

ただ思うのは、私は起業家ではないのでポジションが違うところからの言葉になってしまうんですが、逆に挑戦しない人だらけになってしまうと、結局社会は変わっていかない。「決められたルールの中でやるよりも、自分でルールを作って、自分のやりたいことに対して全力で 実現したい」と誰かが考えたときに、踏み出しやすい環境を作っておくということがすごく大事なことかなというふうに思っています。

ーーそういう環境があると、起業をやってみようかな……と考える人も増えそうですね。佐藤さんは、どういうところから起業に興味を持ったのですか?

この部署に来るまでは、起業という世界があるっていうことも知ってはいたんですけれども、ほど遠い世界にいました。いま、起業家の方々と関わるようになって、すごく面白いなと思ったのは、やっぱり起業家の方は「この人についていきたい」と思わせる魅力があることです。

生不思議なんでうまく言語化できないのですが、、なんかとても面白いなと思うんです。この人と一緒に仕事したいよねって思わせるだけの魅力が、起業家の方はすごくあるなと思っています。

そのカリスマ性がある方々がアイデアを考えて、その面白いアイデアを実現するために会社をつくってるっていうふうに考えると、それはとても面白い世界だなと思っています。

「以前は、税金関係の仕事をしていました」

ーーちなみに、以前は起業と全然関係のない部署ということでしたが、どんなお仕事をされていたのですか?

税金の徴収をしていましたね。起業してうまくいかなかった人の対応なども、その時はしました。

ーーすごく立場が変わって、面白いですね!

今やっている仕事とはまったく別物ですね。

今回は起業のお話ですが、

行政職員を目指している方には、ぜひ税金を徴収する仕事について話したいですね。

税金の徴収は仕組みの話というより、スタンスの話なんですよね。

民間のものと比べても、行政の場合は比較にならない強制力があるので、対応もシビアになります。払わない人がいるのは、払っている人たちからしたらやっぱり納得いかないですし、我々としても税金を払ってない人がいる状況は解消していのですが、生活的にギリギリである場合、そのラインをどうするかという判断が求められます。

「なんで、税金が払えないんですか」というのは簡単なんですけれど、その人たちにも一人一人人生があって、お金があるけれど払わない人もいますし、もうどうしようもない状態の人もいます。これはお金というリアルのものを扱う部署にいたからこそ、経験できることだと思いますね。行政の職員になりたい方は、そういうことを知っておいてもらいたいです。

▲税金の徴収について、実体験をもとに丁寧に説明してくれました

今後の活動方針について

ーー実際に、年間どれぐらいの方がSSSのサポートを受けにくるのですか?

通算で、応募だけで言うと370件超えてるんですけれど、ビザを出している方は今36人くらいですね。 ビザの問い合わせ自体は、年間500件を超えています。

ーー起業に対して関心がある人の支援を主にしてると思うのですが、そもそも起業に関心を持ってもらうようなことはしてますか?

例えば「シブヤ・スタートアップ・ユニバーシティ」という、起業してない方でも入れる起業家育成プログラムを実施しています。起業したばかりで、さらに計画プランをブラッシュアップしている方も対象にしています。

▲2023年に実施された「シブヤ・スタートアップ・ユニバーシティ2023」

そのほかには、女性起業家の支援も、2022年から進めています。女性の起業家は、そもそも投資を受けにくいという課題がありますので。

私は男性ですが、男性の視点では出すことができないサービスってが世の中にも山ほどあり、当然そこには女性ならではの視点があってしかるべきだと思っています。ですので、女性の方が実現したいサービスがあれば、ぜひ起業していただきたいと考えています。

バックアップしてくれる存在が見つからない、あるいは心理的にチャレンジが難しいと考えて、なかなか一歩踏み出せない女性の方に向けて、「難しく感じる必要はない」と思えるよう、起業前の方もふくめた女性起業家の支援はずっと続けていく予定です。

ーー学生に対してはアプローチをしていますか? 例えば、起業体験イベントなどがあれば参加してみたいです。

学生さんへのアプローチは、まさに私たちの課題の1つです。

一般的には、大学生ぐらいからキャリアの選択肢として、初めてスタートアップというものを考える方が多いですよね。でも、実際にどんな風に起業していくか……といったことは、なかなか想像しづらいと思います。

そこで、中学生や高校生、もっと早く、小学生の高学年くらいから「起業という選択肢がある」ということを知ってもらうことは、とても大事なことだなと思っています。

でも、まだ私たちがなかなかそこまでリーチできていない部分でもあります。さきほど紹介した「シブヤ・スタートアップ・ユニバーシティ」などの育成プログラムは年齢の制限はなく、大学生や高校生の方も参加しています。また、女性起業家のプログラムでも女子高生を対象にしたものも実施しています。
SSSではないですが、渋谷新聞でも紹介されている「まなぶや」は、東京青年会議所 渋谷区委員会からはじまった起業体験プログラムで、まさに中学生や高校生が参加できるものになっています。

こんなふうに、どんな方でも挑戦できる場や環境が渋谷にはある。渋谷に来れば何かを試す時にそれを助けてくれる人がいて、バックアップを受けられる。「渋谷なら挑戦しやすい」というエコシステムができてくることが、一番素晴らしいことだと思っています。

もちろん、今でも渋谷という街はそうなっていますが、まだ足りないところもありますので、そこをSSSでもつくっていきたいですね。

ーーありがとうございました。楽しみにしています!

佐藤さんのお話を聞いて、起業家の人たちにとって、渋谷区はとても活動しやすい街なんだと改めて思いました。

起業をすることはハイリスクではありますが、自分のアイデアについて、チームで考えて新しいことを創造したり実現させたりしようとすることは、非常に楽しいことであると思います。

今回の取材を通して、すごく心に残ったのは、起業家の方々が一人もいなかったら世界は成り立たないということです。だからこそ、起業に挑戦する人を応援できる社会にしたいと思っている、佐藤さんの考え方や実際の活動に感動を覚えました。

とてもいい経験ができたと思います。佐藤さん、ありがとうございました。

■佐藤凱 略歴

渋谷区 産業観光文化部 グローバル拠点都市推進室 グローバル拠点都市推進主査 係員
2017年渋谷区入区。税徴収事務を経て、2020年4月より産業観光課に配属され、国際戦略推進担当に兼務で参加。WeWork、横浜市、Luup等との協定締結に従事。
2021年4月よりグローバル拠点都市推進室に配属。

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