失うものがなかったから挑戦できた アイカサ 丸川照司さん

アイカサは、駅や街中で傘を借り、使用後は最寄りのスポットで返却できる傘のシェアリングサービス。世界一の傘消費大国である日本における、傘の大量生産・大量廃棄問題の解決策として注目されています。そんなアイカサを立ち上げたのは渋谷で活動する20代の若い起業家です。今回はアイカサ創業者、株式会社 Nature Innovation Group 代表取締役・丸川照司さんにお話を伺います。

勘違いから始まったアイカサ

幼少期を台湾やシンガポールで過ごし、10歳から日本で暮らし始めた丸川さん。高校卒業後、理系の大学に進みましたが、そこでの勉強にはあまりこだわりが持てなかったといいます。

「周りに進路の相談をできる人がいなくて、あまり深く考えずに得意だった化学を選びました。そもそも大学に進学したこと自体、とりあえず選択を先延ばしにするという意味合いが強かったですね」

やりたいことが見つからないまま始まった大学生活。そんな中、児童福祉の分野に強い興味を抱くようになります。

「子どものころ、いわゆる家庭環境があまり良くなかったんです。なので、同じような環境の子にもっといい環境を用意してあげたいと考えるようになりました。また、その頃から学校の中よりも外で学びたいという思いが強くなり、学校外で児童福祉に関する講演会などにも参加するようになりました」

当時は「大学か、バイトか、講演会かの日々」というほど講演会に頻繁に足を運んだ丸川さん。次第に興味は児童福祉だけでなく、社会課題全般に広がっていきました。その後大学を中退し、マレーシアに留学。環境問題などの社会課題について学びました。
そして、そのマレーシアでシェアリングサービスを体験したことがアイカサ誕生のきっかけとなったといいます。

「マレーシアはUberなどさまざまなシェアリングサービスが普及していて、私も利用者として単純に、便利でかっこいいなと感じていました。ただそれだけではなく、環境問題などの社会課題という面から見ても、シェアリングサービスにはいろんなメリットがあります」

現在「2030年使い捨て傘ゼロ」を掲げ環境問題にも取り組んでいる丸川さん。では、そもそもなぜ“傘”のシェアリングサービスを始めようと思ったのでしょうか?

「当時日本で自転車のシェアリングサービスが話題になっていて、自分も何かやってみたいと考えたんです。そして思いついたのが傘でした。傘をシェアする社会を作れれば大きなインパクトを残せるし、何より傘を置くだけなら自分でもできそうっていう。今思えば全然そんなことなくて、ただの勘違いだったんですけどね(笑)」

 

▲駅や街中のビルなどに設置されているアイカサスポット。アプリを使うことで簡単に傘を借りて、最寄りのスポットで返却することができます

こうして傘のシェアリングサービスを始めるため、丸川さんは再び大学を中退し、アイカサを立ち上げます。社会経験が乏しい中での起業。どんな苦労があったのか伺うと。

「もちろん失敗はたくさんしました。でも、むしろ普通の会社員が数年かけてする経験を早く味わえたと考えれば、結果的には良かったのかなと思います。学生で起業して、失敗しても失うものがないという環境が、思い切って挑戦する後押しになりましたね」

「渋谷で始めたのは正解だった」

現在、14都道府県にまで拡大しているアイカサ。そのスタートの地は渋谷でした。

「私自身、もともと渋谷には全く縁がなかったんです。なので何となく決めたのではなく、渋谷を拠点に“選んだ”という感じでしたね」

0から選んで決めた渋谷の場所。そこには2つの背景があったと丸川さんは言います。1つは渋谷が有名で大きな街であること。競争が激しく、土地代も高いこの街で成功事例を作ることができれば他の場所にも広げやすいと考えたそうです。2つ目は渋谷の多種多様な人々の存在。学生・サラリーマン・外国人などさまざまな人が集うこの街で活動することで、アイカサがどんな人に届くのか、サンプルを得やすかったといいます。

「思い返してみるとアイカサの場合、渋谷で始めたことは正解だったと思います。ベンチャー企業やビジネス関連のイベントも多いですし、渋谷という街の一体感の強さもビジネスを広げやすかった要因の一つでした」


アイカサの目指すゴール

丸川さんとお話しして感じた印象は「全然ギラギラしてないな」ということでした。若手起業家と聞くと、とにかく成功しようとギラギラしているイメージがありましたが、丸川さんは真逆。むしろ落ち着いていて、謙虚な方という印象を抱きました。
そこで最後にこんな質問を投げかけてみました。

「起業家としてご自身に点数をつけるなら何点ですか?」

すると、

「事業を通じて仕組みを作り、自分の思いを実現するというのは私にすごく向いていると思います。でも結果を出さなければ意味がないので、半分は空白で、50点といったところですかね」

また、将来の夢については。

「世の中にはさまざまな社会課題があって、その中にはアイカサのようなビジネスを使って解決できるものもあれば、児童福祉のようにビジネスでは解決しづらい問題もあります。なので、今の事業をもっともっと拡大して10年後には、いや、もっと先になるかもしれませんが、そういった解決しづらい社会課題にお金を使えるようになりたいです」

丸川さんの芯の強さや内に秘める思いの大きさを知ることができました。

 

◾️丸川照司さん プロフィール

株式会社Nature Innovation Group代表取締役。シンガポールなど東南アジアで育ち、中国語と英語を話せるトリリンガル。18歳の時にソーシャルビジネスに興味を持ち、社会のためになるビジネスをしたいと社会起業家を志す。その後マレーシアの大学へ留学中に中国のシェア経済に魅了され、大学を中退。2018年に傘のシェアリングサービス「アイカサ」をスタート。
Twitter:@1109_sm

 

◾️アイカサ
Web:https://www.i-kasa.com/
Twitter:@ikasa1111

 

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