2023年2月、小中一貫教育を実施する渋谷区立渋谷本町学園で第8学年(中学2年生)が2022年の春から取り組んできた「シブヤ科」の集大成となる発表会を行いました。
総合的な学習の時間を利用して行われるシブヤ科は、年間20時間をかけて行われる課題解決型学習のこと。自分たちが生活する地域や渋谷区への興味・関心をもち、誇りや愛着、シティ・プライドを育てる探究学習は渋谷で活躍する大人がファシリテーターとなり、いわゆる学校の授業とは違うアプローチで行われ、『未来の渋谷区の創り手』となれる人材の育成を目指しています。
今年の8年生のテーマは「街づくり」。さらにそのテーマを6つに細分化し、地理、産業、イベント、遊び、未来、歴史に着目し、それぞれに関連するデータを分析・活用して課題の抽出と解決案を提案しました。
1学年2クラス、計60名ほどの生徒たちが興味のあるテーマを選び5〜6人毎のチームに別れ、5分ほどの課題発表を行いました。東京都議会議員の龍円あいりさんを始め、地域に関わる大人も発表の見学に訪れました。
それぞれ個性あふれる11チームの発表をまとめました。
チーム名からあふれる個性に注目!!
“カツ丼”
地理をテーマにした“カツ丼”は1番手の発表でした。笑いの巻き起こるノリのいい発表をした彼らが着目したのは、外国人旅行者が日本滞在中に感じたコミュニケーションの壁を著したデータと地図のわかりにくさ。
わかりにくい地図記号ではなく一目でわかるピクトグラムを採用し、言語ごとにQRコードを読み込むことで各言語でのわかりやすい地図を表示することができるようになるというアイデア。アメリカ人旅行者がカツ丼屋さんへ行きたいのに、地図が読めずに迷子になってしまったというシーンから始まった寸劇は、QRコードを読み込むとわかりやすい地図を見ることができて、無事カツ丼を食べられるというユーモアあふれる展開に会場は笑いに包まれました。
“PIECE”
“PIECE”が着目したのはお祭りなどのイベントで発生するゴミの問題。ゴミのポイ捨て対策としてゴミ箱を設置をて提案。さらに、お祭りの終了後にはゴミ拾いイベントを開催します。
お祭りでは地域から集めた服などを販売するフリーマーケットも開催し、服を持ってきた人にはくじを渡す。食べ物を販売する際の容器を食べ物にすることでごみの削減を図る、といったサステナブルな取り組みも行います。人形劇を動画にした発表も、シンプルながらアイデアがうまく盛り込まれて楽しめるものでした。9月に開催されるお祭りでゴミ拾いを実施しようと、すでに実現への第一歩を見据えています。
“END”
Enjoy、Necessary、Dream の頭文字をチーム名に付けた「遊び」がテーマのこのチーム。本町周辺ではボール遊びが禁止された公園や遊び場が多く、球技のできる遊び場を作ることを1番の課題に据え、高齢者や小さい子どもも楽しめる施設を計画しました。本町公園の前に現存する空き地に新しい施設を建設するためには現在住んでいる住人の方に立ち退きをお願いしないといけない。そんな背景とともに再生された動画の最後には記者会見が行われ、リアリティのある設定が笑いと関心を呼びました。さらに完成図のイラストも配布され、イメージが伝わる発表でした。
“Wi-Fi park”
チーム名の通りシンプルに公園にWi-Fiを導入するというアイデア。かと思いきや、遊具に設置したQRコードを読み取って与えられるミッションをクリアしながらパスワードを集めるといいます。ミッションの内容は高齢者でもできるものを設定し(「鉄棒に◯秒ぶら下がる」など)、近隣の公園を巡って集めることで散歩のきっかけにも。QRコードの活用や2023年11月から導入された渋谷区の地域通貨ハチペイの利用、高齢者へのデジタルデバイド対策まで考慮されていました。
“six”
「初台駅周辺にバルーンハウスをおいちゃおう!」から始まったこちらのチームは子育て世代の利用が多い初台駅と、その周辺の活性化を図る計画を発表。仕事や子育て、日々の生活に追われている大人のために、広場に安心して子どもを遊ばせられるバルーンハウスを置き、その周りにキッチンカーやテーブルを配置します。子どもを遊ばせながら親は自分の時間を持つことができる様子が、カラフルな模型を通してイメージできました。
“shine”
「本町をジャックしよう!」から始まったプレゼンは、2022年に開催されたマイルロードレース北渋マイルによって街が活性化されたことにヒントを得ました。それは、TV番組としても人気の高い「逃走中」をリアルにやろうという内容。景品には地元企業から協賛を得たり、不動通り商店街の商品券を配布するなど、地域の活性化につながりそう。使用されていない時間帯の学校体育館を利用してダンスやスカッシュをするといった時間と場所の有効活用も考えられていました。
“フューチャーラボ”
サステナブルを意識した映画館について発表したこのチームは、サステナブルや車椅子などのアクセシビリティに配慮しているのはもちろんのこと、映画館を作る場所がないという問題に対し「移動映画館」という提案に至りました。映画館を訪れて購入したストローが紙製だったり、ポップコーンの容器は再利用可能な容器(渋谷区のキャラクター、アイリッスンのイラスト入り!)、上映する映画は子育て世代が若い頃に楽しんだ1980年代のものをメインジャンルとして想定していました。
“SH history 探検団”
渋谷区内にある渋谷の歴史を伝える施設は実際に行くのが面倒だというところに着目。本町の公園や不動通り商店街に看板を設置し、年齢を問わず歴史について知ることのできる仕組みを考えました。日常の中にあることで、区の歴史が身近に感じられることに期待しています。キノコをモチーフにするというちょっとした遊び心もありました。
“MiLike”
“未来”と“like”をくっつけたチーム名の通り「未来を好きになれるように」大人と子どもそれぞれが楽しめるスポーツカフェを作りたいと“MiLike”。2022年のFIFAワールドカップの際にも渋谷の駅前にあるスクランブル交差点に人が集まりすぎて交通規制や事故が起きた事実を背景に、水道道路沿いの空き家を活用して、スポーツカフェをつくる提案をしました。
子ども向けには、明るい空間と子どもの好きなポテトやたこ焼きといった気軽に食べられるものを提供し、一方の大人向けの空間では落ち着いた内装でお酒も提供する。大人が行くような暗い店は子どもは嫌いだという思いもあるといいます。
“ちりちりず”
区内の観光施設の分布図やエリア別の人の動きを示すデータを元に、人が集まらない場所の活用を提案しました。東京オリンピックを機に本町内を通っていた和泉川に蓋をし、暗渠化した道に沿って人々が散歩をしたり昔遊びを楽しむ仕組みを設置します。アプリと連動し、散歩した距離や速さを記録をし、それによってポイントをもらい“おみくじ”を引けるなど、人が集まる工夫も。“暗”渠を人が集まる“明”渠にしたいと提案しました。
“Place”
本町エリアには雨が降ってしまうと遊ぶ場所が少ないことに着目。そして数少ない屋内遊び場は当然混んでしまう。そこで首都高速道路の高架下にある空き地に遊び場を建てることで、土地の有効活用と地域の治安改善が見込めます。運動スペースだけでなく、ゆっくりしたり自由に過ごしたりできることを兼ね備えた建物は猫をモチーフにして利用者に親近感を感じてもらう計画だそうです。
調べて考えるからこそ広がる発想と可能性
全11チームとも、「街づくり」をテーマに課題を見つけ出し、解決に向けた提案はオリジナリティに溢れていました。自分たちのことだけでなく、幼児や高齢者への配慮、障がいの有無や国籍に関係なく、ターゲットとする利用者の多様性は「シブヤらしさ」かもしれません。発表の方法にも創意工夫が感じられ、 劇や動画、模型の作成やイラスト、3Dモデリングといったテクノロジーも使いこなした「どう伝えるか」のバリエーションの豊かさは頼もしく感じられました。
子どもたちに伴走したファシリテーターの須田直樹さんと鈴木大輔さんの2人が今回こだわったのはデータの分析と活用、そして発表時にプロトタイプを活用することだったと言います。発表後に都議会議員の龍円あいりさんは「やり方次第で実現が可能なアイデアがたくさんあり、子どもならではの発想が溢れていました」と感想を述べました。
発表後に話を聞くことができた“ちりちりず”のメンバーは
「最初は心霊スポットについて調べるところから始まったアイデアでした」
「発想がどんどん浮かんで来て楽しかった」
「アイデアを広げる過程で、スタンプラリーをしたらどうかという話になったけど、せっかくならもっと昔からあるものにしようとなって、ポイントを貯めたらおみくじを引けるようにした」
「変わったところを調べるのが好きで、調べていくことで新しい発見がある。これからも他の場所も調べてみたいと思っています」
と、今後のリサーチにも前向き。全てのチームに話を聞きたかったのですが、時間が足りなかったことが心残りです。
ちなみに、生徒や外部からの見学者による投票の結果、一番得票数が多かったのは地図とアクセシビリティに着目したチーム“カツ丼”だったそうです!
発表会当日、渋谷新聞での職業体験の一環としてシブヤ科の取材に同行した、渋谷区立上原中学校1年生5人もプレゼンテーションのバリエーションの豊富さに驚いていました。来年度から「渋谷みらい科」と名称が変わる予定のシブヤ科で、何を取り扱うのか今から楽しみです。
◾️渋谷区立渋谷本町学園
WEB: https://shibuya.schoolweb.ne.jp/swas/index.php?id=1310248