渋谷スクランブルスクエア15階にあるSHIBUYA QWSは「渋谷から世界へ問いかける 可能性の交差点」をコンセプトにした、渋谷に集い、活動するグループのための拠点です。共創施設をうたうSHIBUYA QWSでは「よそおう」ことの未来を考えるイベント「Art Thinking Week 2022〜よそおうのこれから〜」を2022年8月28日(日)まで開催しています。
Art Thinking Week の仕掛け人である、若宮和男さんに、このイベントやアートにかける思いを、高校生ライター金光七緒がインタビューしました。
「よそおう」こと、未来を考えること
ーー今年のArt Thinking Week で「よそおう」というテーマを取り上げようと思ったきっかけや理由を教えてください
若宮さん(以下 敬称略):
今回のイベントでは「よそおう」に3つの意味合いを重ねていて、化粧の「粧」でメイクをすることの「粧う」、衣装の「装」でファッションの「装う」、そして、扮装の「扮」で自分ではない者に扮する英語で言うPretend(真似る・演じる)の「扮う」、が含まれています。
コロナ禍でオフラインで会う機会が減ったことで、バーチャル上においても自分を着飾り「よそおう」ことが増えてきたと感じています。
また、ジェンダーにおける社会的慣習や圧力による「よそおう」ことの認識が、この数年で大きく変わりはじめています。
メタバース内では、VR(仮想現実)の中で自分となるアバター(仮想空間における自分の分身)を、本人の見た目や性別に関係なく自由に作成できるだけでなく、”人間”という種族さえ超えることができます。僕は最近、VRに入る時は身長10㎝くらいの金平糖になっていて、他の人を見上げるという視界が面白いんです。
ここ10年で「よそおう」ことのあり方や意味が大きく変わっていると思っていて、「よそおう」という事を考えてみると社会的な圧力や役割を“着せられ”ている部分や、ファッションとかメイクがメインではあるんですが、「そもそも『よそおう』ってどういうことなんだろう?」「『よそおう』ことは自分からしていることなのか?」など、人と社会との関係性を問い直すイベントにしたいと考えました。
ーー今回のチケット販売の仕組みで、子ども(学生)の料金を無料にする「ペイフォワードチケット」があるというのが印象的でした。
これは、「よそおう」について考えて欲しい人、イベントに参加して欲しい人のターゲットを広くとっているということですか?
若宮:
「〜よそおうのこれから〜」という今回のイベントは「よそおう」ことのちょっと先の未来を話そう、みたいなことなんです。
僕はいろんな企業のアドバイザーなどもやっていて、企業にはイノベーション推進室などといった、新しいこと・未来のことを考える人たちがいます。企業に限らずなのですが、未来の話をする時に大人だけで話している事があんまり好きじゃないんです。未来のことを考えるのに、その未来の主役になっていく人たちが不在のまま物事が決まっていくのはよくないなと思っています。
なので「〜よそおうのこれから〜」をやるのであれば、大人だけではなく、いろいろな世代の方に参加してほしい。特に未来の主役になる人たちに参加してほしいと思っています。
また、ただ無料にするのではなく、イベントの価値やアーティストに対するリスペクトを無くさないために、代金はいただくけれど、子どもたちが参加しやすいように余裕のある大人たちで未来に対してお金をつないでいくPay Forwardを用いています。
「よそおう」の2つの方向性
ーー若宮さんがアートを深く考えるきっかけは何でしたか?
若宮:
明確なきっかけは、2回目に通った大学で美術芸術学を学んだことです。美術芸術学は、アートの哲学的意味や、そもそも無くても死なないのに人間がアートという行為をずっと行ってきた理由や、人間にとってアートが何かという研究をする学問です。その研究をしているときに、やっぱりアートって面白いなと感じたことがきっかけです。
昔から音楽や映画などを鑑賞することが好きでしたが、やはり研究をしたことが1番のきっかけですね。
ーーその中でも印象に残っているアート論はありますか?
若宮:
ニーチェは、美しくて輝くものをアートとしたアポロン的芸術よりも、人間の生の混沌としたディオニソス的芸術の方が根源的だという考え方をしています。僕も、ただ美しいものよりも、むしろドロドロとした生命の捉え難さや怖さを引きずり出すアートの方が好きです。
ーーそういったアートへの関心も今回のイベントで「よそおうこと」を題材にしたことに繋がっているんですか?
若宮:
そうですね。今回の「〜よそおうのこれから〜」も、ファッションやメイクをテーマにしたアート展というと「美しいもの」を飾るのかなと思うかも知れませんが、そうではなく、もっと深いところに踏み込んで、なぜ人は「よそおう」のだろうという根本的な問いを提示しています。
僕は「よそおう」ことには人に見せるために本当の自分を隠すという機能と、自分の本質を表現する、もしくは個体としての自分すら超えたものになろうとしていくような機能という、一見反対に思える2つの方向性があるのが面白いと考えています。
アートって、飾ったら綺麗でしょ、だけではなくて、既存の価値観や常識を掻き回したりするものだと思うんです。
僕の考えるアート思考も、常識的な価値観の奥深いところの問い、みたいなゾーンに行ってみるという事なので、正解がないとか、常識の枠組みを超える、という意味で今回の「よそおう」も繋がっています。
渋谷はカオスになって欲しい
▲開催されているワークショップの一つ、澤奈緒さんによるアート仮装ワークショップ「自分のなりたいものに化身しよう」
ーー渋谷にはこれからどんな街になって欲しいですか?
若宮:
僕は「カオス」になって欲しいと思っています。
1990年代くらいまでは渋谷はカオスなところで、いわゆるアンダーグラウンドカルチャーみたいなものが色々とあり、よその街だと爪弾きにされてしまうような人が混在している街でした。
今は、都市開発が行われている裏で、ホームレスの方などが居場所を制限されて、見えないものにされているということなどが、渋谷だけでなくさまざまな場所で起こっているんです。
渋谷って綺麗なだけでなく、色々な人が一緒にわちゃわちゃしている街なので、綺麗になりすぎないでほしいっていうのがあります。
アート思考では「歪さ(いびつさ)」という言葉を使うんですけど、革新的な新しい価値観って、はみ出したもの、歪なものに見えるんです。僕の根っこにある異質性や多様性っていうのは歪なものに見えるけど、その歪なものを、同じ考えでは無いから、生理的に受け入れられないから、と排除するだけだと、一つの価値観しか受け入れられず、偏った思想のある狂った全体主義になっていってしまいます。だから、歪なものも排除せずに、もっとぐちゃぐちゃした感じになって欲しいなって思っています。
ーー今回のイベントを渋谷で開催することの意義やこだわりはなんですか?
若宮:
渋谷での開催の意義やこだわりでいうと、渋谷にはすでに認められている価値観とか常識だけではなくて、カオスから何かが生まれるところになってほしい。「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」をスローガンに掲げる街でそういうことを仕掛けるというのも意義の一つです。
「よそおう」ということでいうと、今は薄れてしまっているけれど、渋谷はファッションや音楽のトレンドを牽引してきた街だから、ここで「よそおう」ということを問い直すのは面白いかなと。
指導や助言をするメンターをやっていてご縁があったSHIBUYA QWSのコンセプトが「渋谷から世界へ問いかける 可能性の交差点」なので、問いっていうのが大きなテーマになっている。
「混ぜる」とか「結び目を作る」というのが僕のアート思考にあって、アートはアート界、大学やアカデミア界隈はまた別、スタートアップ業界はスタートアップ業界というような括り事で固まりになっていたりして、それぞれの間に壁があるのはつまらない。それを繋いでいくという意味で、あえて美術館やギャラリーでやるのではなくて、QWSのようなワーキングスペースという、ビジネスに関わりの深い、アートとの接点が少ない人が多く行き来しているところで開催する。
わざわざ美術館に行かずに、日頃仕事をしている場所に急にアート作品がやってきて興味を持ってもらう、みたいなことを仕掛けたかったんです。
今回のイベントも僕がリスペクトしているアーティストの皆さんに参加していただいていて、手前味噌ですがなかなかすごいメンツだと思っています。そんな方々の作品を美術に慣れ親しんでいない人も集う場で展示することを意識しました。
「よそおうのこれから」開幕!
▲オープニングトークの様子 Photo by YukikoKoshima
8月20日(土)に行われたオープニングトークでは、若宮さんと参加アーティストの皆さんが展示の紹介だけでなく、それぞれの「よそおう」についての考えも披露。その時の様子はこちらからご覧いただけます。
▲ヴィヴィアン佐藤さんによる自分を解放するための「殺しのヘッドドレス」を作るワークショップも開催 Photo by YukikoKoshima
多様な価値観に触れたことで、日常に溢れている行為に対する見方が大きく変わりました!
どの展示、ワークショップ、トークイベントをとっても、「よそおう」というものから連想される全く違う分野を切り取っています。
洋服やメイクに関する展示に限らず、バーチャルの場での「よそおう」に視点を向けているのは、新しいものに出会ったような感覚でとても印象的でした。
洋服やアクセサリーなどの衣装を見に纏うこと、また、それらを纏わないことも含む全てが「よそおう」なのだと気付かされる展示を通し、若宮さんのアートに対する熱い思いを感じられるインタビューでした!
個性的な参加アーティスト10名の情報はこちらから
https://note.com/kazz0/n/n975b0b1e6967
◾️若宮 和男 略歴
起業家、uni’que Founder/CEO、アート思考キュレーター、福岡女子大学客員教授、一級建築士
建築士としてキャリアをスタート後、アート研究者を経てIT業界に転身、ドコモやDeNAにて多数の新規事業を立ち上げ、2017年「全員複業」で女性主体の事業をつくるスタートアップとしてuni’que創業。東洋経済「すごいベンチャー100」選出。女性の起業に特化したインキュベーション事業『Your』から多数の事業を創出。資生堂など数々の企業の外部ブレーンを務める他、ビジネスに限らず、アートや教育など領域を超えて活動。ダイバーシティやコミュニティ関連でも取材多数。著書に『ハウ・トゥ・アート・シンキング』『アート思考ドリル』。福岡女子大学客員教授、長野県立大学客員准教授。
◾️Art Thinking Week「よそおうのこれから」
会期:8/20(土)〜8/28(日)12:00〜21:00(最終日8/28は18:00より一部展示撤収)
場所:SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE 15階 SHIBUYA QWS
WEB https://atw2022.stores.jp/