
渋谷教育学園渋谷高等学校に通う現役高校生チーム「しぶず」が挑戦しているのは、金融知力普及協会主催のリアル起業体験プログラム「リアビズ」。書類選考80組から8組に選ばれた彼らは、30万円の融資を受け、渋谷の名所をデザインした「てぬぐい」の企画・販売に取り組んでいます。
リアビズは、高校生が自分たちで商品を考え、実際に販売し、お金やキャリアに関する学びを得ることを目的としたプログラムです 。今年度は全国の高校から80組のチームが模擬企業を結成し、プログラムに挑戦していました。うち8組の書類選考を通過したグループには30万円の活動資金(融資)が与えられ、プログラム期間の約3か月にわたって商品の販売に挑戦します。プログラムの終了期限(金銭のやり取りは2025年11月27日まで)には、最終的な収支報告と黒字になった分から融資の返済が伴います。
しぶずは、このプログラムのために結成された模擬企業であり、「社長」や「経理」といった役割分担のもとで活動しています。渋谷への熱い想いと、海外経験に裏打ちされたグローバルな視点を持つ彼らが、実際にビジネスを動かす中で得たリアルな学びと、その情熱の源泉に迫ります。
始まりは「悔しさ」から。高校生が見つけた、日常に溶け込むお土産
ーー まずは「しぶず」チーム結成のきっかけについて教えてください。
宮澤昂佑さん(社長、以下宮澤): 以前、僕と津谷が参加したビジコンで準決勝敗退したことが大きなきっかけです。誰かに評価されるのが嫌になった。「自分で動いて価値を届けに行きたい」という強い思いが生まれ、リアビズに挑戦することを決めました。30万円の融資を受けて、お金が動くリアルの経営を体験したかったんです。
津谷凛司さん(宣伝・渉外、以下津谷): メンバーは宮澤が社長、僕が宣伝・渉外、佐伯が仕入・SNS、大庭が経理・企画という役割です。全員で力を合わせて、活動しています。

ーー なぜ数ある商品の中から、日本の伝統文化である「てぬぐい」を選ばれたのでしょうか?
大庭さん(経理・企画、以下大庭): 渋谷の学校に通っているので、まず渋谷の特徴から考えました。海外の人がたくさん来るという点で、観光客がターゲットになりました。その上で、旅行が好きという共通点から、「お土産は買って終わりになりがち」という課題に気づいたんです。
ーー確かに、メジャーなお土産であるお菓子などは食べて終わり、ですもんね。
佐伯さん(仕入・SNS、以下佐伯):マグネットなども飾っておくだけですよね。 僕たちは日々使える、思い出が日常に溶け込むような、形あるお土産を提供したいと考えました。そこから、大庭のひらめきで「てぬぐい」が採用されました。
ーー「渋谷を一生の思い出に」という企業理念も、その「日常に溶け込む思い出」に繋がっているのですね。
宮澤: はい。僕を含めメンバーは海外での生活経験があり、外から渋谷を見ています。渋谷は日本らしさと多種多様な文化が入り混じっている面白い場所です。だからこそ、この街で自分たちが発信するものに価値があると感じています。
津谷:乗り換えや待ち合わせ、異文化との繋がりなど、この街は多様な文化と出会える「繋がり」の場として一強だと思います 。だからこそ、この街で自分たちが発信するものに価値があると感じています。
47人へのインタビューと「6245回の断り」

ーー獲得した融資30万円を基に、商品開発を進められたわけですが、具体的なプロセスについて教えてください。
佐伯: 30万円のうち、約20万円は商品の仕入に充てました。デザインは、渋谷のランドマークをリストアップした後、美術部員の協力を得て作成。実際に47人の外国人の方に路上でインタビューして、どのデザインが好きか投票を行いました。最も人気があった「スクランブル交差点をカラフルに描いたデザイン」を採用しています。
ーー 多くのてぬぐい会社との交渉もされたそうですね。
佐伯: 10社ほどを比較し、見積もりを取りました。その過程で、自分の手に商品が届くまでに、どれだけ多くの人が関わっていて、お金が動いているのかを肌で感じました。仕入一つとっても、ビジネスのリアルな部分に触れることができました。

ーー そして、最も苦労されたのが「販売場所探し」だったと伺っています。
大庭: 本当に大変でした。40か所に依頼をして、返信はたった3か所です。警察署で路上販売の可否を聞いたり、私有地を探したりする中で、たまたま渋谷センター商店街振興組合の看板を見つけ、連絡したのが今回の出店に繋がりました。
津谷: 最終的に断られた回数を数えたら、なんと6245回にもなりました。未成年とは契約できない、保護者や顧問の許可がないとダメ、など厳しい現実に直面しました。
ーーその中で、高校生として交渉する際に意識したことは何でしょうか?
大庭: 「高校生だからと侮られないように、きちんとした形で接する」ことです。メール一つとっても、丁寧な言葉遣いを心がけ、誠実に回答する。この姿勢が、信頼を勝ち取る上で最も重要だと学びました。

てぬぐい販売からの学びと、今後の展開
ーー対面販売にこだわるのは、ネット販売にはないどんな価値を求めているからですか?
宮澤: 「渋谷の高校生と話して、そのお店でてぬぐいを買った」というストーリーごと持ち帰ってほしかったからです。現地の高校生と話す機会は、観光客にとってもレアな経験だと思うんです。
大庭: 実際にお客様と接して、道案内をしたり、サービスで一つお渡ししたりと、交流が生まれました。「利益」に固執するよりも、まず「渋谷を楽しんでもらいたい」という理念に忠実にお客様と接する喜びを知りました。

ーー最後に、この挑戦を終えた後の目標や、同世代の高校生に伝えたいメッセージをお願いします。
宮澤: 僕は、「世の中とか、周りとかくそくらえだから、自分のやりたいこと、自分が正しいと思う方向に全振りしてみてほしい」と伝えたいです。環境を言い訳にせず、とりあえずやってみることが大事だと思います。
津谷: 僕は「断られた先に成功がある」です。挑戦する労力をなるべく小さくすることで、失敗とか断りをちっちゃいダメージにしよう、と。とにかく一歩踏み出すことがすべてにつながります。
佐伯: ためらうぐらいだったら挑戦してみてほしいです。できない理由を考えるのではなく、どうしたらできるかを考えてみてほしい。
大庭: 渋谷には良い環境、良い人たちがそろっています。僕たちも大変なことはありましたが、最終的に「ただ一つ楽しかった」と言えます。とにかく一歩目を出してほしいです。
■しぶず(渋渋高校生)関連情報
団体インスタグラム:https://www.instagram.com/shibu_tenu/
てぬぐいオンライン販売ページ:https://shibuz.base.shop/
■宮澤昂佑さん 略歴:2008年生まれ。渋谷教育学園渋谷高等学校2年:高校生企業しぶず社長、英語ディベート部、硬式テニス部部長、経理担当と第11回キャリア甲子園準決勝敗退。しぶずの中核としてチームを引っ張り、サポートする
■津谷凛司さん 略歴:2008年生まれ。渋谷教育学園渋谷高等学校2年。高校生企業しぶずでは経理を担当。第11回キャリア甲子園準決勝で敗退した悔しさから、高校生起業コンテスト「リアビズ」を通じて社長としぶずを立ち上げた。
■大庭春近さん 略歴:2008年生まれ。渋谷教育学園渋谷高等学校2年、広報を担当。4歳からクラシックバレエを始め、同級生と共に初めてのビジネスグランプリ「リアビズ」出場。
■佐伯亮治さん 略歴:2008年生まれ。渋谷教育学園渋谷高等学校2年。高校生企業しぶずでは仕入を担当。男子バスケットボール部・軽音学部所属。細かい作業が得意という自分の強みを活かし、インスタグラムでの発信などで貢献。











