2022年の春休みのタイミングで行われた Social Kids Action Project(以下SKAP)。
2017年から行われているこのプログラムは渋谷区在住の小学校4年生~6年生の児童が渋谷の街でフィールドワークを行い、街の課題と向き合い解決策を長谷部渋谷区長や渋谷区内の企業、地元商店街会長といった大人へプレゼンテーションをするという取り組みです。
SKAPを立ち上げた植野真由子さんにお話をうかがいました。
小学生だからこその素直な視点が斬新
春休みの4日間を利用して開催された今回のSKAPの参加者は9名でした。まず1日目に渋谷の街についてゲストスピーカーから話を聞きます。2日目に街へ出て神南エリアの店舗や施設を訪れてどんな課題があるかをインタビューし、3日目には渋谷を訪れている街の人に渋谷の印象を突撃インタビュー。1日ごとにヒアリングした内容から渋谷の街の課題を考え、最終日には9人それぞれの提案を大人に向けてプレゼンテーションしました。長谷部区長を始め集まった大人に向けて行われた子どもたちの発表は堂々としたもの。
自分から考え、行動することで社会の問題を自分のこととして捉える。そこにある子どもならではの自由な発想に大人はハッとさせられました。
渋谷区の子ども青少年課の職員の方や東急不動産の方をはじめとした大人がプログラムのサポートに入りますが、参加した大人からは「街の声をじかに聞くことをできてよかった」「子どもと触れ合うことが勉強になる」「子どもの積極的な態度を見習いたい」「感性が豊か」といった答えが返ってきます。子どもの視点や素直な考え方は大人にもいい影響を与えているそうです。
「今回はすごくレベルが高くて、子どもも積極的ですし、親御さんも意識の高い方が多かったです。男の子6人、女の子3人と男の子が多かったからなのか、とても元気でにぎやかな感じでした。お互いを褒め合うのが上手なのも印象的でした。昨年は女の子の方が多くて、真面目な雰囲気だったんですよ。毎回子どもたちの特徴が違うのも面白いんです」
単発では終わらない経験の場を自ら作ることに
子どもたちから“まーちゃん”と呼ばれて親しまれている植野さんご自身は、上は中学生、下は保育園へ通う4人の女の子の母でもあります。子どもと関わるために産休・育休の間に保育士の資格を取得するほど子どもとの関わりに興味のあった植野さん。子育てをする中で積極的に最初のお子さんとさまざまなワークショップに参加をする中で、1回で終わってしまうワークショップばかりなのが物足りなく感じ、今の仕事にいたったそうです。
「もともと企業に勤めていたのですが、子どもとの時間を大切にするために働き方を考えた結果、退職するという選択にいたりました。
前職でも子ども向けワークショップの開発をしていたこともあって、1回で終わらない、一過性の盛り上がりで終わらない継続的に取り組むワークショップを、街づくり・地域の開発という視点から行うことを考えました。2016年12月に退職をしたのですが、年が明けた1月にはSKAPのトライアルを開催していました。それ以来、渋谷区の子ども体験コーディネーターとして仕事をしています。
毎年おこなっている表参道のケヤキの『落ち葉拾い大会』は2017年に長女が提案をした『交流しようよ!イベントで』というプロジェクトの一環で行っているイベントなんです。それを次女が引き継いで取り組んでいて、現在は堆肥づくりに内容が移ってきています。四女の通う神宮前あおぞらこども園で落ち葉を使って堆肥づくりをして、できた堆肥で宮崎県の農家からいただいたさつまいもの苗を育てたり、キャットストリートの花壇に使用したりして活動が広がってきています。子どもが一生懸命説明をすると、それを聞いた大人が面白そうだと集まってきて一緒に活動してくれるんです」
子どもが自分の街を作っていくという体験
当日プレゼンをおこなった様子からすると全員がすぐにでも実現するためのアクションに乗り出しそうな勢いだったが、実際のところはどうなのかを聞いてみると
「最終日のプレゼンテーションが終わってすぐは子どもたちも盛り上がっています。この中から実際に企業や自治体へ連絡をすることができるのは数人、形になるまでできるのは一部です。あとはタイミングが数年後にやってくるというパターンもあります。
プロジェクトで知り合ったお子さんたちは基本的に全員覚えています。数年前の参加者でもプレゼン内容と関わりのあるニュースや企画があると親御さんにご連絡しているんです。
今回はすでに日程調整をしようというプロジェクトもあるし、とにかくやる気がすごい! でも、あとは子どもたちの忙しさ次第。塾や習い事など、今の子はとても忙しいので」
リピーターも多い参加者にはどんな特徴があるのかを伺うと、積極的で優秀なお子さんが多いと話してくれました。中には親に参加させられたような子もいるけれど、そんな子をうまく巻き込んでいくのも植野さんたち大人の腕の見せどころ。初日は消極的な子どもも2日目あたりからは積極的になるそうです。
「保護者と一緒に会場までやって来た子どもたちはそこで保護者と別れてもらっています。『うちの子、自分から発表したり資料を作ったりするのができるかわからないんですけど』と保護者の方から連絡があった子が、プロジェクトが始まったらものすごく積極的に発表したりということはよくあります。親が思っているよりみんなしっかりしていたりヤンチャだったりします。今回も直前まで室内を走り回っていた子、が親御さんが入室した途端に猫かぶっていい子になったりしてかわいいんですよ(笑)」
もともと地元でプロジェクトをすることにこだわっていた植野さん。その思いは 2011年の東日本大震災を受けて、さらに強くなりました。自宅から歩ける距離、地域密着にこだわっているそうです。
「港区や世田谷区、静岡県の焼津からもSKAPをやってほしいと打診はされていますが、渋谷区にこだわっています。プログラムの特性上、終了後のフォローが大切で、1人ではそんなにできないし近くにいないと難しい。なので、ノウハウをシェアして、SKAPがどんどん広がっていってくれたらいいと思っています」
子どもたちが自分の住む街の課題を知り、どう解決するかを考える。実現するためにどうするのか、大人にも伝わるように言語化する姿はとても頼もしく、発表に参加した大人からは「一緒にやろう!」「ぜひ周りの友だちも巻き込んでほしい」といった声かけもありました。
ゴミ拾いを促す仕組みやスケボーの騒音問題を解決するためのパーク設置、子どもの居場所を確保する場づくりなど、区として取り組んでいる課題への提案もあったので、今後実現されるものがあるかもしれないと思うと街づくりに親近感が湧いてきます。
◾️植野真由子 略歴
Kids Experience Designer
慶応義塾大学卒。前職トヨタ自動車㈱を退職後、2017年に「Social Kids Action Project」を、2018年に「こどもあそびまっぷ」を立ち上げる。渋谷区子ども体験コーディネーターとしても活動中。4児の母。