【介護×イマーシブ】家族謎解き体験『ただいまタイムループ』を体験  脚本家小御門優一郎さんに聞いてきた!!

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▲小御門優一郎さん(写真左)

今回は、経済産業省 OPEN CARE PROJECT 主催のイマ―シブ体験コンテンツ『ただいまタイムループ』を体験。脚本家の小御門優一郎さんにインタビューしてきました。

渋谷駅から歩くことおよそ10分。駅周辺の人混みから解放され、閑静な住宅街のとある一軒家に到着しました。その佇まいはまるで実家のようで、妙な安心感があります。

それもそのはず、この『ただいまタイムループ』では自分自身が久しぶりに実家に帰ってきたとして、イマ―シブ体験ができるらしいのです。

そもそもイマーシブ体験とは?

イマーシブ体験とは、「イマーシブ(Immersive)」が日本語では「没入」と訳されるように、参加者がコンテンツや空間の中に深く入り込み、まるでその一部になったように感じられる体験のことです。

従来の一方向的な体験と異なり、参加者が「観客」ではなく「当事者」として物語や体験に深く関与できます。近年では『イマーシブ・フォート東京』や『Unseen you』などの体験施設がつくられています。

そんな中、『ただいまタイムループ』では、実際の家を使用して疑似家族の体験をすることができるようなので早速いってきます!

体験スタート

「ただいまー」

ガラガラと玄関を開けて、実家に帰ってきました。すると、奥からエプロンをつけたお母さんが顔を覗かせます。

母「あーおかえり!久しぶり。ありがとねわざわざ。お姉ちゃんも帰ってきてるから、荷物置いたら居間おいでね」

わたしはまず子供部屋に案内されました。4畳ほどの部屋にはベッドと机が置かれていて、その机には辞書やノート、地球儀など学生時代に使っていたであろう物の数々でない記憶が蘇ってくるようでした。

▲子供部屋によくあるカーテン

しばらく子供部屋で、無い記憶を巡らせていると、目の前のクローゼットのカーテンから何やら光と音が……!

▲あれ、なんだか音が……

____キュイ――――ン

!?!?!?

???「時間航行、正常に完了。2024年11月12日10時32分に到着。了解、状況を開始します」

機械的な音と共に誰かの声が聞こえたと思うと、カーテンが開いて中から人が……!

▲未来人が飛び出してきた!

未来人「しーっ!落ち着いてください!大きい声とか、出さないで!えーと、私は、決して怪しいものではございません!」

話を聞くと、どうやらこの方は未来人で、私たち家族に将来訪れるある悲劇を回避させるために未来からやってきたそう。しかも今日はお母さんの誕生日で、久しぶりに家族がそろう日みたいです。

未来人に勧められて、私はひとまず居間に行くことにしました。

▲実家の廊下!

▲実家の台所!!

実家エネルギーをたっぷり浴びながら居間に到着すると、お父さんとお母さん、お姉ちゃんがコタツで待っていました。緊張しながらも、家族の会話に話を合わせていきます。「今日は泊ってくの?」と聞かれても、動揺して「うん、、そ、そうだね」とおどおど。

しかしそんなぎこちないわたしを、家族は優しくフォローしてくれて、夕食まで一度解散ということになりました。

再び子供部屋へ

子供部屋に戻ると未来人が待っていました。

そして、どんな未来を回避しようとしているのか教えてくれました。

未来人「お母さんは、今からそう遠くない未来、認知症を発症されます。初めて診察を受けたときには、かなり症状は進んでいました。心配かけまいと、ご自身でフォローされていたんですね……。そこから、お母さんの介護が始まるのですが、そこで問題になるのが『お金』にまつわることです」

未来人曰く、お母さんは「口座の暗証番号」と「印鑑と通帳の保管場所」を思い出せなくなったために、介護のためのお金を引き出せなくなり家族関係はどんどんギクシャクした関係になってしまうそうなのです。お金のせいでこんな未来になるなんて悲しすぎますよね。しかし、今は変えられます。必要な情報が揃っていれば、未来は変えられるはずです。

そこで、未来人がミッションカードとエンディングノートを渡してくれました。

▲ミッションカード

(エンディングノートとは……人生の締めくくりの方針や必要な情報を事前に記しておくノートのこと)
エンディングノートには『口座の暗証番号』と『通帳と印鑑の保管場所』を記入する欄があるため、お母さんにこれを見せ、書いてもらうことが出来たらミッション完了です!
早速台所に移動し、お母さんに話しに行きましょう!

キッチンではお母さんが夕飯の準備をしていました。
エンディングノートを見せてみますが反応はいまいちです。
「遺言書みたいなもの?」「年寄扱いされるみたいで気分が良くないけど……」とお母さんは渋ります。
しかし私も食い下がって伝えました。「いつ病気になったりするかわからないから、将来のために準備しておいたほうが絶対に良いよ」

そうして書いてもらったエンディングノートを見ると、
「暗証番号」→「1番思い出深い土地」
「印鑑、通帳の隠し場所」→「家で1番安心できる場所の下」
用心深いお母さんは、家族になら伝わるように暗号化した文章を記入してくれました。しかしそれでは私は分かりません。家族のことをぜんぜん知らないのですから……!

困った私は、居間でゴルフ道具の手入れをしているお父さんに話を聞きに行くことにしました。ひとまずエンディングノートのことは隠し、1番思い出深い場所について質問してみました。

父「そうだなあ、『1番思い出深い場所』なら広島じゃないか。家族で行ったろ。厳島神社行って、平和記念公園行ってさ。覚えてるか? 」
お父さんは昔を思い出し、優しい目で遠くを見つめながら語ってくれました。

要約すると、
・もう1つ広島だと思う理由がある
・結婚前にも2人で広島旅行をした
・前日にポケベルで『10940』と送り、東京駅に集合した
・お母さんはポケベルの語呂合わせを丸暗記していた
・『家で1番安心できる場所』は分からない

▲居間で会話するお父さんとお姉ちゃん

お父さんのおかげで暗証番号のヒントを十分に得ることができました。

1番思い出深い場所が広島だとすると、そこから4桁の数字に変換しなければなりません。そこで、ポケベルの数字語呂合わせがヒントになるのではないでしょうか!語呂合わせを丸暗記していたお母さんなら、広島の語呂合わせを今でも覚えていておかしくないはずです。

私は「広島 語呂合わせ ポケベル」と検索してみました。検索結果は「1640」
4桁の数字!!

これで『口座の暗証番号』はクリアです!
暗証番号が分かったところで、次は『家で1番安心できる場所の下』を調べていきます。

お父さんは分からないということだったので、次はお姉ちゃんに聞くことにしました。
居間でリモートワーク中のお姉ちゃんに話しかけます。お姉ちゃんにはエンディングノートを見せて、介護の必要性を伝えつつ聞いてみます。

姉「んー、どこだろ。まあ、お母さんが安心できる場所はわかんないけど、もしかしたら『米びつ』かもね。たしかお母さんって大事なものはそこに隠してた気がする」

なるほど!お姉ちゃん、ありがとうございます。

私は教えてもらった通り台所に向かい、米びつを見つけました。幸いなことにお母さんはいません。
果たして、米びつの中に通帳と実印は入っているのでしょうか。

そして、『ただいまタイムループ』の本当の意味とは何なのでしょうか……
この物語の真相は、ぜひご自分で確認してください!

脚本家 小御門優一郎さんへインタビュー

ーー今回の脚本ではどのような点を意識されましたか?

今回テーマがセンシティブですし、実際の介護経験がある方もいらっしゃるかもしれないので、そこをきつい体験になりすぎないようにというのは意識しました。私は普段舞台とかをやっているとドラマチックにしたいし、役者さんも演技やるんだったらしっかりやりたいというので、とあるシーンで責める演技があるんですが、実際に責められる側に立ってみると臨場感が思ったよりも凄かったんです。なのでそこは、「怒りよりも困惑の方を強くしましょう」と役者さんに伝えて体験負荷みたいなものを調整しながら作っていきました。

ーーイマーシブ体験はお客さんの行動によって台詞や物語の進行が変化していきますが、執筆するうえで普段書かれている脚本との違いはありましたか?

体験的なもので言うと、SCRAPさんのリアル脱出ゲームで脚本を書かせていただいたりとか、ノーミーツで生配信演劇をやった時にも見てる方のチャット上のリアクションを拾いながら台詞を変えたり、その場所で起こるものを取り入れるみたいなことはやってきていたので、その点は今回の脚本でも生きたのかなと思っています。

また、これまでもラジオ局の中やサンリオピューロランドでワンカットで演劇を配信する作品を書いたので、移動するそれぞれの人物のタイムラインを組んで、このときに移動すればこうやってすれ違えるからいけるよな、みたいな、会場を利用して物語を組むという経験も生きたのかなと思っています。イマ―シブをつくるのはある種初めてといえるかもしれないですが、これまでの経験が少しずつ生きたので全く初めての脚本という訳ではありませんでした。

「介護×イマ―シブ」で伝える

そもそも「OPEN CARE PROJECT」とは、経済産業省が2023年3月に発足させたプロジェクト。このプロジェクトは介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ転換することを目的として活動しています。日本は高齢化の進行に伴い、国全体で仕事をしながら家族介護を行う人の数が増加し、2030年には家族介護者のうち約4割(約318万人)が仕事と介護の両立が必要となっていくそうです。

そのため仕事と介護を両立する支援を進めるのですが、いくつかの課題に直面します。その中でも重要な課題が社会の介護リテラシーの低さです。当事者になるまで介護の実態に触れる機会が限られ職場などで介護の話題が出しづらいことや、TVなどのメディア露出において、「仕事と介護」に関する報道量は「仕事と育児」と比べ約3分の1であることが例にあげられます。

「介護」という話題をすることがそもそも限られている現代社会。その社会の中で、介護当事者や介護専門職だけでなく、より多様な主体が積極的に発信・対話していく必要性があるとOPEN CARE PROJECTは考えました。

そんなOPEN CARE PROJECTの一環として開催された「ただいまタイムループ」は、私たち非当事者が疑似家族への没入体験=疑似的な介護当事者になることを通して、家庭内で介護について会話するきっかけを提供するイマ―シブ体験コンテンツでした。
私も家に帰ったら介護の話を家族としてみようと思います。

本日は体験させていただき、本当にありがとうございました!!

◾️小御門優一郎 略歴
脚本家・演出家。1993年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。ストーリーレーベル『ノーミーツ』主宰。『それでも笑えれば』で第65回岸田國士戯曲賞ノミネート。『あの夜を覚えてる』で62ndACCグランプリ。

◾️イベント概要 
『家族謎解き体験 ただいまタイムループ』
主催:経済産業省 OPEN CARE PROJECT
開催期間:2024年11月13日(水)〜2024年11月17日(日)
開催場所:並木橋オールドハウス 〒150-0011 東京都渋谷区東1-26-32
所要時間:40-50分間/1組
申込方法:事前予約制(※展示コーナーは予約不要)

参加費用:無料

WEB:家族謎解き体験 ただいまタイムループ

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