VALLOON STUDIO SHIBUYA「引っ越したからあそびにきてね」【イベントレポート】

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神南1丁目にあるVALLOON STUDIO SHIBUYAにて2024年9月15日(日) – 10月13日(日)で開催されたグループ展「引っ越したからあそびにきてね」を取材させていただきました! 引っ越した友達の家のようにギャラリーへ気軽に寄ってほしいという思いで、アーティストのルームシェアをテーマに展示を行っています。

「アートを生活の一部に」寺内木香さん

ーーこの展示をやることになったきっかけはなんですか?

普段はいわゆるギャラリーさんで展示をさせていただいているんですけど、 そういった場所ってどうしても入りにくいイメージがあって。もっと雑貨屋に入るように、ラフに入ってほしいという思いがずっとありました。ちょっと置物見たくて入ったけど、隣にあった指輪が可愛くてつい買っちゃった、みたいな見方で、自分の作品とかいろんな人の作品を見る機会ができたらいいなと思って始めた企画になります。そこで色々な話し合いを経て、自分のアートってどこにあるのかなという話になった時に、生活から地続きになっているものではないかなっていう話になっていって。じゃあ、作家がルームシェアしている設定は面白いんじゃないかって言って、今回のテーマになりました。

ーー展示に込めた思いを聞かせてください

楽しい生活の一部が、この展示会で表現できたらいいなって思っています。私にとってそれは食事で、みんなで食卓を囲むようなことがあるといいなと思って食事をメインに作りました。 ルームシェアらしいものとして作ったのは、こちらのカトラリーセットです。 私がルームシェアをするにあたって、一緒に住む人にあげたものっていう設定にしています。一つ一つちょっとずつ違っていて、自分はパスタが好きなので、本物のパスタを原型にして金属に置き換えていたりとか。中村さん用のものは、ぬいぐるみの作品作っている方なので、そのぬいぐるみの子が持って優しいようなデザインにしたりとか。つぶつぶの石の指輪を作っていらっしゃるついたにさんに向けて、つぶつぶの感じと、絵画の持つ可愛いけど物質感があるようなイメージのものとか。カワベさんのは、染色布を使った作家さんなので、布を縛ったような表現をしたりとかしました。それが1番ルームシェアっぽいかなと思って作りました。そのカトラリーに、皆さんの作品を混ぜていただいて可愛い机になったかなって思います。

ーーあそびにきてねって気軽にきていいんですか?

引っ越した友達の家に遊びに来るっていうラフな気持ちで楽しめるものとなっているものにしたいっていうのがやりたかったことなんで、かしこまらずにお家に遊びに来てもらうような感覚で来てほしいです。ラフだけど、作品数がめちゃくちゃ多いっていうのは特徴としてあるかもしれないです。ラフだけど見応えはすごくあるみたいな。もし都合良かったら見に来てくれると嬉しいです。

「安心できる素材で生活を」カワベ ミオさん

ーー今回の展示に込めてる思いはありますか?

私は布がすごく好きで、布や衣服、服飾品をモチーフにしたり、作品の媒体として使ったりすることが多いです。新作だけではないんですけれど、今回に向けて色々追加しています。例えば、普段からいっぱい作っているバッグですね。今回初めて作ったものは、エアプランツみたいに部屋の中にディスプレイとして置いておく植物みたいな用途と、普通にバッグとしても使えるっていう用途を両方持たせられたかなっていうので、結構気に入っていています。
この展示をする上で、お家の中にグリーン多めに配置したいね、みたいな話をみんなでしていて、じゃあ植物みたいなグリーンのバッグ作りますねって言って作ることになりました。エアプランツにしたかったので、空間に浮かせたいなと思って、持ち手もクリアにして、あんまり重たくならないようにしつつ、本体は割と柔らかい素材なんですけど、中に芯を入れてカチッとさせて、植物の蔦みたいな柔らかい表情との対比を表現しました。

ーーなんで布が好きなんですか?

母と祖母が家庭科系の教員をやっていたんです。なので布を作ったり、被服の授業で扱うことが多くて、必然的に家にもそういう素材がありました。あと幼少期、リカちゃん人形とかのお人形の洋服を祖母が手作りしてくれたりとかしていました。そういう経験から、布ってほんとに可愛いなって思うようになって。安心するし、柔らかい素材だから、全然抵抗がないし、作る側としても安全性もすごい高い。作りたいなって思ってぱっと作れるところも気に入っています。あと、色もすごくカラフルにできたり、素材もいろんなバリエーションが出るので、すごく気に入っていて、愛着を持ってずっと使い続けています。

「いろんなものを好きなように」つえたにみささん

ーーこの展示に向けて意識したテーマはありますか?

最初にお話をいただく前から、油絵も描きつつ、指輪などのアクセサリー類で生計を立てるぐらいいっぱい作って、その指輪で初めてギャラリーに来る人か呼び込みながら、自分の絵を見てもらっていて。見に来てくれる人も、ちょっとリーズナブルな1点物の指輪を買えるついでに絵を見ていって、ギャラリーってタダで入れるのに楽しいなみたいな感じの、敷居の低さみたいなものを組みたいなっていうのが、自分の展示でもよくあって。そういうのを見てくださってた寺内さんがお話をくださったので、 今回展示するにあたって、あんまり絵に固執しなくても、いろんなものを展示してもいいんだなっていうことが最初からわかっていました。お部屋の展示ということで、油絵はお風呂場とか洗面台とか食器棚とか、リビングから寝室にかけてみたいな絵を、過去作から新作まで展示しています。 ピザの絵とかは小物みたいな感じなんですが、ピザの顔を1個加工されちゃって可愛くなってるピザみたいな感じにしています。くすって気づいた人が笑えるようなポイントとかを各所に散りばめるのが好きなので、そういうものも作ったりとかして居心地のいい展示になるように作品を持ってきました。

ーーいろんな作品を作られてるんですね

油絵を元々していて、そこからコロナ禍に家で釜を買って陶芸をしたりしています。あとはお洋服、エビフライの衣みたいなものを作ったりとか、指輪を作ったりとか、雑誌を作ったりとか色々してます。が、一応中心には絵があって、絵を描くためのモチーフみたいな感じで色々作れたらいいなと思ってやってます。
作品がバラバラすぎて、油絵家としてポートフォリオを提出すると、油絵以外をやりすぎて遊んでんの?と思われるのがちょっと癪だったので、定期的に自分で雑誌型の作品集を作っています。載ってるのは全部私の作品だけなんです。一冊に3年分の作品が載っていて、付録も指輪を1000個手作りして、本物の雑誌のように厚みをだしたりとか。過去のものは陶器の作品を付録につけていて、全部1点物っていうのにこだわっています。指輪も子供でも取りやすい価格で、全部全部種類が違うように419個ぐらい作りました。 好きなデザインでもサイズがあわなかったら残念!みたいな一期一会を楽しんでもらえたらと思います。
今回の展示は、皆さん色々なことをしている方々で、やっぱりそこが最初のテーマというか、誘ってくださった部分であり、今回の展示の良さだと思います。私も元々カワベさんの作品とかは3つぐらいバッグ持っていて、一緒に展示できる!みたいな感じで嬉しかったです。

「自分の作品で自分を救う」中村枝里子

ーー今回に向けて意識したことや、どういう展示にしたいという思いなどありますか?

私はぬいぐるみの作品や、陶器の植物の作品などを作っています。元々大学の時は焼き物の作品を作っていて、カビた食パン、腐ったバナナとか。自分の作品を作るってなった時に、 学校で作品を作って帰ってくると、汚い自分の部屋が広がっていて。学校で綺麗なものとかかっこいいもの作ろうとしてるけど、帰ってきたらこんなで、そのギャップに違和感を感じていました。じゃあ、ちょっと自分のこの隠したいところをテーマに作品を作ってみようと思ってこういうのを作っていました。そこで、自分の作品の中に必ず出てくるのは、枯れたサボテンとか、枯れた植物です。私は植物を必ず枯らしてしまうから。それがだんだん、サボテンとか具体的な植物じゃなくて、自分の中にある植物像みたいな、何とも言えないようなものを作るようになっていって、自分の中で作品の変化がありました。
大学院を卒業したのが去年で、社会人になってから展示をするのは今回が初めてでした。大学にいる頃からザ・展示みたいなのが、自分の作品出すにあたってはしっくりこないなって思っていて。でも今回の作家さんは皆さんがどんな作品を作ってるか知ってたんで、このメンバーだったら、来る人も居心地のいいような展示ができるだろうなと思っていました。

ーーぬいぐるみも制作されているんですね

ぬいぐるみと、陶器の作品、全然違うものを作ってんなと、見た目では思うかもしれないんですけど、自分の中では流れがあります。
おじいちゃんが介護施設に入るってなった時に、施設のお部屋に飾れるような作品を送ろうとしたら、割れ物は危険なのでダメですって施設に言われて。自分の作品って環境が変わると危険なものなんだと思って、陶器で作品を作ることからちょっと離れていた期間がありました。そんな中、家族は家でおばあちゃんの介護とかしていて、相談が家族にできなかったんです。みんなも大変だから、自分が弱音はけないと思って。その時に、陶器じゃなくて柔らかいもので、自分の話を聞いてくれるわけでもないけど、ただそばにいるだけの、存在を作りたいと思いました。そんな思いでできたのが、モニョっていうぬいぐるみです。表情もなんとも言えない、笑ってるでもなんでもないみたいなのを目指して作っています。今思えばその子のおかげで、自分は自分を保ってたんだと思います。今は販売という形で連れてきていいて、最初に施設で言われた壊れるみたいな問題はぬいぐるみだとなくて。逆に生活に溶け込んでもらえるっていうか、使っていくうちに汚れたりとかして、その人のなんか生活に入ってってる証拠だなと感じます。たまに様子をお客さんから送ってきてもらったりして、こういう作品作ってよかったなって思いました。

取材を終えて

普通のグループ展とは違い、皆さんの作品がいろんな場所に散りばめられていて、色々な発見がありました。どの方向を見ても素敵な作品ばかりで、本当に友達の家に遊びに行ったかのような安心感も感じられます。アートの敷居が低くなるきっかけにぴったりな展示です。

最後に
「共通の言語だったはずのもの 形を変えてあそびにいくね」

 

◾️寺内木香
・2023年 東京藝術大学大学院美術学科工芸専攻 修了

内にあるイメージや記憶がディフォルメされ、都市や自然物、持ち物などが鋳金という技法で絡み合い、変化していく作品を制作している。

◾️カワベ ミオ
・1998 年 神奈川県生まれ
・2024年 東京藝術大学 大学院美術研究科修士課程 工芸専攻 染織研究分野 修了

主に衣服を表現媒体とし、人の感情や環境にまつわるモチーフやテーマで繊維素材を用いて作品を制作している。 また布を縫い縮めて立体的なひだを作り出すスモッキングなどの技法を用いてオリジナルのバッグなどを制作している。

◾️つえたにみさ
・鹿児島県指宿市出身
・2023年 東京藝術大学院美術研究科修士課程油画専攻第四研究室 修了

さまざまな物質的な表現を用いて平面と立体の境界線を手探りしながら、制作しています。
ありきたりな日常風景や生活空間に作品やアイディアを溶け込ませることによって生まれる違和感や緊張感、非日常感などが新しい素材を用いるきっかけとなり、油彩や水彩などの絵の具での表現方法だけでなく、陶芸、衣服、雑誌創刊、版画、アクセサリー、調理、タフティングなど、日々、絵画のためのモチーフを作ることをマイペースに続けています。

◾️中村枝里子
・1997年 神奈川県横浜市出身
・2023年 東京藝術大学大学院美術学部彫刻専攻 卒業

個人の心情や家族との関係などをテーマに陶や布〜ぬいぐるみ等を用いた立体〜映像作品を制作。

◾️VALLOON STUDIO SHIBUYA
VALLOON STUDIO SHIBUYAは、有限会社金沢アトリエが運営するギャラリーです。金沢アトリエは、神奈川県で50年続く総合美術予備校「湘南美術学院」を運営しており、美術大学受験のための予備校です。ただ、大学受験はあくまで通過点のため、卒業後の生徒たちへの支援、また予備校講師の傍ら作家活動をしている方も多いので、継続的にアーティストを支援していくという想いのもとオープンしたのが、このギャラリーです。大学生や大学卒業後に作家活動を続ける際、場所がない、ギャラリーレンタルにお金がかかるなどの問題があります。このギャラリーは、基本的には展示だけでなく、アートに関するイベントや、そのアーティストがどういうことを考えて制作しているのかが分かるようなワークショップを積極的に行い、アーティストの考えや制作過程を見せる場としても利用されています。
HP: https://valloon.co.jp/studio/
住所:〒150-0041 東京都渋谷区神南1-14-1
営業時間:12:00〜20:00 ※休廊日 火曜・水曜

 
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