2021年11月10日にスタートした渋谷新聞。
そんな渋谷新聞の1周年を記念し、「ソーシャルデザイン」をテーマにした都市フェスティバル『SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA(ソーシャルイノベーションウィーク渋谷)』の一環として、2022年11月10日に記念イベントを開催しました。
題して「若者が聞く、渋谷の未来」。
長谷部健渋谷区長に高校生ライターの目線から、渋谷の未来について伺いました。
(聞き手 写真前列左から:金光七緒、鏡理吾、奥永雨実)
学校を新たなコミュニティに
理吾:
僕は以前教育に関するNPO法人の方への取材を通じて、教育にはさまざまな課題があることを知りました。渋谷区では教育に関して、どのような課題があるんですか?
長谷部区長:
さまざまなものがありますね。
1つはいじめ問題。これは減ってきていますがまだまだ根深いです。
特に最近はSNSの普及により、いじめ自体が外からは見えにくくなっています。
テクノロジーも駆使しながら、一人一人にしっかり対応していくのが大切です。
他には部活動の問題もあります。
実は渋谷区の区立中学では、サッカー部・野球部が1校で1チーム組むことができず、大会には8校のうち3校ずつしか出れていないんです。私立に行く人が多いこともあり、区内で部活動がうまく成り立たなくなってきているんですね。
これに対しては、昨年渋谷ユナイテッドという一般社団法人を立ち上げて、学校だけでなく地域の誰もが参加できるような部活動を作ろうと動いています。
このようにさまざまなものがありますが、今教育で1番大きなトピックなのが学校の建て替えです。
渋谷は戦後、焼け野原になったところから急激に人口が増え、その時に多くの施設が建てられました。学校もその当時作られ、今後老朽化で建て替えを迎えるものが多くなってきます。もちろん、そのまま建て替えるだけでもいいんですが、せっかくならこれからの時代に合った新しい学校ができればいいですよね。そこで考えているのが、「地域に開かれた学校」です。
「地域に開かれた」というのは、体育館やプール、図書室、それから教室なども含めて、地域に開放できるものをなるべく開放するということ。
区の図書館や区民会館なども老朽化を迎えているものがあるので、学校に併設させて、地域の人が集まれる新しいコミュニティを作ろうと考えています。
性的搾取の被害を防ぐために
雨実:
私は先日、性被害に対する支援を行っている団体の方に取材をし、10代女性の受ける性的搾取が問題になっていると知りました。
区長の目線から、そういった性的搾取の問題はどう感じていますか?
長谷部区長:
僕にも娘が3人いますし、そういった問題は本当に許せないと思います。
渋谷区としては、性被害を相談できる公的機関を設けるなどしてサポートを行っています。ですが、行政だけではどうしても手の届き切らないところがあるのも現実です。
例えば、性被害を受けている子は大人への不信感があったり、自分に自信がなかったり、公的機関に相談すること自体のハードルが高い場合もあるんですね。そういった場合には、民間の団体をさまざまな面で支援するなどして対処しています。
それから、若い人には危機意識というものも敏感に持ってほしいと思います。同時に、皆さんがそのような意識を持てるよう、学校教育などを通じて働きかけていくことが重要であると感じています。
雨実:
渋谷の街であからさまに声をかけているような買春者は、区長から見て分かりますか?
長谷部区長:
それはなかなか難しいですかね……。
もちろん僕に見分ける能力がないってことだけじゃなく、警察でしっかり対策しても、なかなか事前に防ぐというのは難しいです。ただ、だからといって諦めるのではなく、地道に対策していかなければいけないと思います。
「ちがいを ちからに 変える街。」
七緒:
今渋谷では100年に1度の再開発が進み、街がどんどん綺麗になっていますが、一方で「昔のわちゃわちゃした雰囲気がなくなってほしくない」という声を取材で聞くこともあります。
昔の渋谷と、これからの新しい渋谷とのバランスはどのように取るのが良いと思いますか?
長谷部区長:
やはり渋谷は、文化を常に発信し続けているというのが1つのアイデンティティです。
再開発が進んでも、ITなどを中心として新たな文化が作られていくというのは変わることはないと思います。
ですが、ファッションやアートの分野は昔と比べると勢いがないかな、という印象は少しありますね。例えば、昔は「竹の子族」や「ロカビリー族」という人が、歩行者天国を中心に新しいスタイルを作り上げました。その後も「アメカジ」や「ギャルコギャル」といったように、渋谷は路上でトレンドが作られてきたという歴史があります。
こういうストリート文化を、開発によって絶やしてしまうのではなく、これからも守っていきたいと思います。
七緒:
ストリート文化を守るためには何が必要だと思いますか?
長谷部区長:
一番は、歩きやすく、そして歩いていて楽しい道です。
今後、宮益坂や道玄坂では歩道を広げ、歩行者天国を導入しようと考えています。
それから、歩いていて楽しいという意味では、裏路地も一つのポイントです。大通りよりも、奥まった路地の方が新たな発見があって楽しいということはありますよね。
趣のある裏路地を守るため、「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」なども活用しながら、小さなビルから文化が生まれる街というのも目指しています。
雨実:
渋谷区のライバルはどこなんですか?
長谷部区長:
ライバルというとなかなか難しいですけど……。
私が目指しているのは、世界に通用する国際都市で、「ロンドン・パリ・ニューヨーク・渋谷」という言葉を区長になってからずっと言ってきました。
区の職員を始め、周りも初めは少し大袈裟じゃないかという空気だったのが、最近は意識が変わってきたなというのを感じます。例えば会議で、以前は「〇〇区ではこんなことをやっています」だったのが、今は「ロンドンではこんなことやってます」という風に提案してくるようになって、そういった意味では区の職員の視線が上がってきたのかなと思います。
雨実:
日本じゃなくて世界を見ているってことですね?
長谷部区長:
もちろん、足元を見る必要もあります。
長く暮らしていても楽しめる街であるということは大事ですよね。
だけど、渋谷から世界に飛び立ちたいという人は応援したいし、日本中・世界中からたくさんの人にこの街に入ってきてもらいたいです。
僕は小さい頃から渋谷に住んでいますが、この街は本当にずっと変化し続けています。
日本中・世界中から集まった人たちがお互いの価値や文化を認め合い、新たに発信していく。このサイクルこそが渋谷という街の魅力だと思うし、守っていかなければいけないと思います。
七緒:
今日話してくださったように渋谷には良い面から悪い面まで、いろんな側面があると思います。区長はこれからどんな渋谷を作っていきたいですか?
長谷部区長:
渋谷は大きな街ということもあり、外の人から偏見を持たれたり、悪く言われたりということは少なくない。
でも、この街を好きな人がいれば、嫌いな人もいるというのは当たり前だし、そこは気にしすぎることではないと思います。
むしろ、僕はこれまで積み上げてきた渋谷区の良さというものにもっと目を向けるべきだと思います。それを表したのが、『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』というスローガンです。
常に変化し、文化を発信し続けるというこの街の魅力を、区長として伸ばしていきたいです。
***
ネガティブな話題でも、未来を前向きに語る長谷部区長の姿が印象的でした。
新しい渋谷を作るため、僕には何ができるのか。
ワクワクしっぱなしの楽しい30分間でした!
◾️長谷部健 略歴
1972年3月神宮前に生まれる。
(株)博報堂を退職後、ごみ問題に関するNPO法人green birdを設立。
原宿・表参道から始まり、全国90か所(海外含む)でゴミのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施。2003年に渋谷区議会議員に初当選、以降、3期連続当選。
2015年渋谷区長に当選、現在2期目。
webサイト:hasebeken.net