東京の光と音の中で。琉凪さんが「大人」になった場所、渋谷MAPS

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「昔から、東京の光や音に、なぜか心を奪われていました」

渋谷MAPSオープン当初から数年店長を務めた玉井琉凪(るな)さんは、笑顔でそう語る。長野県伊那市で育った彼の家の周りには、マックとココスがぽつんと並ぶだけ。学生時代は、もっぱらその二店舗で時間を過ごしていたそうだ。

しかし、そんな日常は一変した。憧れの東京・渋谷のど真ん中で、毎日忙しくも充実した時間を過ごしているのだ。そんな琉凪さんに、人生や東京、そして渋谷MAPSへの思いを聞いた。

一人の女性が変えた、琉凪さんの価値観

「接客が、好きですね」

人と関わることが昔から好きだった琉凪さん。人見知りもせず、自分から積極的にコミュニケーションを取る。ただ、一つだけ苦手だったことがあるという。

「昔は、女の子と話すのがニガテでした」

目を合わせるだけで緊張し、何を話せばいいのか分からない日々。そんな中、中学校を転校することになった。家の近くには、同じクラスの女の子が住んでいた。自然と同じ方向に帰るようになり、二人は一緒に下校する仲に。

「私、話題を振るのがニガテだから、玉田が話を振ってほしい」

その一言が、琉凪さんにとって大きなきっかけになった。男同士で話すときは勢いとノリが大事だが、女性との会話は違った。相手が今どんな気持ちで、何を求めているのか。どんなジャンルの話をしたいのか。言葉を選び、会話を丁寧に組み立てる。琉凪さんは、一人の女性をきっかけに「会話」を学び、よりコミュニケーションに長けていった。

“遠慮しない”から得られる支持

「どんな人に対しても、同じように接するようにしています」

琉凪さんは、渋谷MAPSで働く以前から接客業に携わる。アパレルや飲食、そして、バー。単純作業だけでは味わえない、人とのやり取りの楽しさが、彼を夢中にさせた。お客さまの反応に応じて臨機応変に対応する。マニュアルに沿うだけではなく、自分で考え行動する自由さが心地よかった。

彼の接客は、オフェンススタイルだ。自分のことをガンガン話していく。好きなエンタメの話や日常の出来事、恋愛相談まで。そして、気になったことはすぐ質問する。普段聞きづらいような内容も、遠慮しないで聞く。”話を振る”ことに抵抗がなくなった今、コミュニケーションにおいて琉凪さんに怖いものはなかった。この人にはあの話をしないでおこう、そういった思考をゼロにした。

言葉遣いも攻めている。TPOはわきまえるが、基本相手に敬語を使わない。敬語だと、お客さまとの距離を感じてしまう。それを避けるため、彼は自然体で接する。業務的なことをしない。お客さまには遠慮しない。自身の経験から得た、独自の接客スタイルを徹底した。

そんな魅力に惹きつけられ、渋谷MAPSには自然と客足が増えていった。渋谷MAPSの前の勤務先であるバーでのお客さまも、琉凪さんに会いにやってくる。裏表のない彼のしたたかさ、そしてフランクな振る舞いに、安心感を抱くのだろう。

渋谷MAPSとの出会い、成長

「めちゃくちゃ成長できる場所だと思ってます」

渋谷MAPSという場所について、そう語る琉凪さん。

客として足を運んでいた別のバーで、さまざまな繋がりを期待して働いた。予想通り、さまざまな職種の方々が、その場所へやってきた。バーでの雇用形態は、アルバイト。フリーターとして働き続けるなか、一人のお客さまが、渋谷MAPSの店長候補を探していると言う。琉凪さんは迷わず、店長になることを決めた。

「子供から大人にしてくれた場所です」

渋谷MAPSでの雇用形態は、正社員だ。これをきっかけに、琉凪さんに芽生えたのは「責任感」。今まではただひたすら、目の前のお客さまに心地よくなってもらうことに必死だった。正社員として、店長として。目の前の一人を楽しませるだけでなく、「この場所そのもの」をどう魅せるかを考えるようになった。琉凪さんにとっての『バー』という場所は、渋谷MAPSをきっかけに“接客の場”から“背負う場所”へと変わったのだ。

来店者ありきの渋谷MAPS

「わざわざ自分の店を選んで来てくれるって、相当すごいことだと思うんです」

渋谷MAPSは、センター街の中に存在している。センター街を通るだけで、数多くの魅力的な店が点在している。そんな中で、この場所を選んできてくれる人がいる。

「やってて良かったなって」

ここに来たい。そう思ってもらえる接客ができているのかもしれない。その喜びが琉凪さんの自信に繋がり、原動力になる。センター街の雑踏を抜け、この場所を選んでくれる人たち。彼らがいてこそ、琉凪さん率いる渋谷MAPSは生き生きと輝いた。

憧れの東京にて、琉凪さんの今

「学生時代からエンタメが好きで、特に映画を観ていて」

長野にいた学生時代。琉凪さんは、自宅から1時間かけて映画を観に行った。そこで観た映画の舞台は、大体が東京だった。都会のネオンや、長野にはない賑やかさ。映画をきっかけに、東京に対しての憧れがどんどん強くなっていった。

その想いをより強くさせた映画が、“君の名は。”だという。田舎に住む女子高生と東京の男子高校生が、体が入れ替わる不思議な体験を通して運命的に結びつく物語だ。田舎と東京を結んでいるこの物語、まるで琉凪さんの生き方に重なる部分があった。

「今は渋谷で、新しい発見をすることがすごく楽しいです」

アートを基調とした店舗やクラシカルな雑貨屋。少し歩けば、静かで落ち着いた「奥渋」の道が広がる。渋谷にはまだまだ面白い場所がある。街をゆっくり歩き、新しい発見をする楽しさが、彼の日常を彩っている。

「渋谷にはなんでもあって。学生時代からここに住んでたら良かったのになと思う」

琉凪さんはふと、そう言葉を落とした。だが、本当にそうだろうか。学生時代を長野県伊那市という街で過ごしてきた琉凪さんだからこそ、東京の魅力を深く感じ取ることができるのではないだろうか。琉凪さんは現在、現場を離れ、渋谷MAPSを裏側から支えている。どんなに環境が変わっても、東京の光や音は、琉凪さんを明るく照らし続けることだろう。

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