8月の猛暑の中、今年の4月に開校したeスポーツ高等学院のあるシブヤeスタジアムで開催されたのは「リアル MINECRAFT ープログラミング&企業体験イベントー」。
マインクラフトというビデオゲームで制作したものをリアルでも制作しようというイベントでした。
eスポーツ高等学院とは、通信制高校やサポート校などを展開するディー・エヌ・ケーがNTTe-Sports、東京ヴェルディeスポーツとタッグを組んだ日本初のeスポーツ専門の高校です。渋谷区在住の参加者、中学2年のリオン君は進学先としてeスポーツ高等学院を考えており、このワークショップは学校見学も兼ねた最高のチャンスだと話してくれました。ビデオゲームをリアルに? 一体どんなことをするのか2日間に渡って取材させていただきました。
ちなみに、渋谷新聞はオープン直前の今年2月に、東京ヴェルディeスポーツチームGM 片桐正大さんに新しい取り組みについて取材をしています。そちらの記事はこちらからどうぞ。
ビデオゲームでつくったものをリアルに再現するって!?
「ブロックを組み立ててオリジナルの建造物を建築しよう!」
そんな呼びかけに集まったのは、マインクラフト好きの小中学生8名。
マインクラフト(以下、マイクラ)とは、砂場で遊ぶ際のように決まったゴールのない「サンドボックス(砂場)」と言われるジャンルのビデオゲームです。
レゴブロックで遊ぶのと似ている、というのが筆者の第一印象でした。
木・火・土・石・水といった要素をベースにした立方体ブロックで構成された世界で、自由にブロックを配置し建築などを楽しめるビデオゲームで、原料を加工して装備品などをつくったりもできる自由度の高さ! 基本はブロックを選んで積み重ねるだけなので小さいお子さんでも楽しめますが、その奥は深く、パソコンはもちろんのこと、スマホ、タブレット、PlayStationやNintendo Switchといった家庭用ゲーム機でも遊べるという間口の広さもポイント。上級者はプログラミングを駆使し、複雑な世界を構築できる(らしい)、ブロック遊びの枠を超える世界的に大人気のゲームです。
会場に集まった子どもたちは、普段マイクラを家庭用ゲーム機で遊ぶ子もいればタブレットやパソコン派とそれぞれ、加えてレベルもまちまちです。パソコンを触るのが初めてという子どもも半数いましたが、あっという間に最先端ゲーミングPCの操作に慣れてしまいました。「これがデジタルネイティブなのか?」と何度マイクラにトライしても自分の位置がわからなくなる昭和生まれの筆者には理解のできない感覚です。
子どもたちは2人1組のチームに分かれて建設会社をつくります。会社とは何なのか、仕事をしてお金を稼ぐ組織(チーム)とは、会社には社会貢献という役割もあるといったことも学び、チームメイトとどんな街をつくるのか、会社の経営理念や社名を相談しながら、ロゴを制作しました。設計図として、マイクラ上で理想の街に建てる建造物をつくっていきます。出来上がったマイクラでの設計図をベースに、1cm角の木製ブロックで実際にミニチュアを作り上げていくので、1人で画面に向かってゲームをするのとはまるで違う工程を進めていきます。
スケジュールは、
1日目:「会社設立&起業体験」「企画会議」「マイクラ建築」から「木製ブロック建築」へ
2日目:「木製ブロック建築」の続きを行い「塗装」「振り返り(発表)」
週末を利用して2日連続で開催されたので、時間的に余裕があると思っていたら、そんなことはなくーー。
ゲームの中で建造物をつくる際はクリック一つでブロックが積み重ねられるし、間違えたらブロックを壊せばいいだけです。その一方で現実世界でブロックを積み重ねていくには、接着して乾くのを待つという手間と時間が発生します。ましてや間違えてブロックを接着してしまったら、その部分を取り除くのは一大事で、つくり直しまで考えなければいけません。
そして、避けられない現実として私たちは「重力」の中で生きています。マイクラの中では空中にポンとブロックを設置できるのですが、リアルでは下から支えのない空中に物が浮くことはまずあり得ません。
リアルとバーチャルの違いを体感してほしい
今回のイベントを進行した、恵比寿で小・中・高生向けプログラミング教室アントレキッズ/カレッジを運営する株式会社アントレキッズの事業責任者 太田可奈さんは、
「リアルとバーチャルの違いを感じてほしいと思ってこのワークショップを企画しました。実際にブロックを積み重ねていくと1mmのズレが大きな歪みにつながります。マイクラ上でつくるものとは大違いだということを体感してもらいたいんです!」とイベントへの想いを話してくれました。
意気揚々とゲーミングPCで建造物をつくった後に始まった工作タイム、「マイクラだとピューンってつくれるのに、本物の建物ってすごい大変!! 大工さんすげー」
「うわぁ、手がベトベトになった!」
など、口々に建物づくりのプロへのリスペクトや手作業の難しさに驚きの声が飛び出します。
また、水をどう表現するのか、ガラスをどう表現するのかなど、ゲーム上では素材のブロックを選ぶだけで用意できたものをリアルに再現しようと思うと課題が沢山出てきます。屋根を三角にするのも至難の業です。
「もう、トーフでいいよ!」
というのを聞いたのでトーフとは何なのか尋ねると、四角い箱の建造物のことをトーフと呼ぶマイクラ用語なのだそう。三角屋根を諦めた叫びだったようです。
ゲームの中では自立していた建造物も、実際につくってみるとバランスが悪くて自立しないなど、作業をしてみて初めて気づくことも――。
先生たちも巻き込み、ゲームはもちろんのこと、学校の話や好きなアニメの話、学校も学年も違う子どもたちが和気あいあいと作業を進めていました。手と口を動かしながらも、その瞳は真剣そのもの。
ゲームの中では簡単なのに、実際に作るのは大変
「ドームができたけど形ダッセェ!」
「うまくつかない! マイクラでならすぐできるのに~」
「めんどくさいからフェンスはいらない」
「ヤバイ、外れた!」
と、子どもたちは試行錯誤を繰り返しながら2日目に突入しました。
木のブロックを接着する作業が終わると、ポスカなどのマーカーを使って色塗りをするのですが、この作業に意外と時間がかかるのも想定外。
「木で全てつくれば後で色塗りをしないですむからいいね」
とても合理的な考え方が見受けられたり、天井をつくってしまってから「中が塗れない!」という叫びが聞こえたり、ガラス張りのドームをつくっていたチームはガラスをどう表現するのかに苦戦していました。
「もっと違うものにすればよかった〜」
と弱音を吐きつつも、透明なビニールで天井を覆う作業を黙々とこなします。試行錯誤の末できあがった作品を3Dスキャナーで取り込む際にも問題が発生し、透明なビニールはスキャナーに写らず取り込むことができませんでした。こういった予定外の問題に直面して解決していくのもリアルならではかもしれません。
作業のスピードは個人差があり、設計図に忠実につくっている子もいれば、まるで違う作品をつくる子も。
「積み重ねてできるだけ高くしようとおもって」
と話しながら、ちょっとのズレが出来上がる形に影響して、興味深い形が出来上がっていく様子は見ている大人までワクワクしました。
2日間に渡る作業の最後は大画面をバックに自分たちの作品の発表会。
「時間がかかって大変だった」「リアルでつくるのが難しかった」「手に接着剤がついて大変だった」といった声もあれば、
「また参加したい」「ペアで協力して作品を完成できて楽しかった」「ゲーミングPCに触れてよかった」「色塗りが楽しかった」など感想も様々でした。
各チームがつくった作品は3Dスキャナーでデータとして取り込まれ、メタバースの仮想都市に設置されます。そこには、別日程で同じワークショップに参加した、他のチームの作品も並ぶ都市が出来上がるという壮大なプロジェクトになります。
バーチャルでつくったものをリアルで再現し、それをまたバーチャルに取り込むという、一見同じことの繰り返しなようにも思える作業を繰り返すことで、「つくる」ということの手触り感やコツコツ積み重ねること、1mmのズレが大きな歪みを生じさせるというリアルを経験できるのかもしれません。
バーチャルからリアル、リアルからバーチャル経てーー
マイクラ上では、気に入らなければ壊せばいいし、手も部屋も汚れないーー。
ブロックを一気に積み上げる作業もプログラミングができればコマンドを利用して一瞬でできてしまいます。
今回、パソコンに向かって作業をしていたのはたったの2時間でした。その後はひたすら木片を見つめる時間となり、画面の中でつくったものと比べると凸凹があったり、塗りムラがあったりしますが、出来上がったことへの達成感が伝わってきました。
3Dスキャナーでスキャンされた作品は、メタバースプラットフォームの「cluster(クラスター)」内のワールドに設置され、子どもたちはそこを訪れることができます。
後日、子どもたちがつくった建物がバーチャルの世界で再現されました!
早速メタバースのワールドを訪れてみると、作業中は見下ろしていた作品が迫力満点の見上げる建築物としてメタバースの空間に設置されていました。
「マイクラだとキチッとしてキレイなのに、リアルにつくったものってガタガタしてたりムラがあるのが面白い」
「みんなの作品をここ(メタバース)でまたみられるのはとても不思議」
と語ってくれた子も。
バーチャルとリアルが入り混じるとこんな世界になるのか! と昭和生まれは感無量でした。
◾️イベント情報
「リアル MINECRAFT ープログラミング&企業体験イベントー」
日程 2022年8月20、21日
会場 シブヤeスタジアム
企画・運営
東京ヴェルディeスポーツ https://verdy.club/e-sports/
株式会社アントレキッズ https://entre-kids.jp