渋谷と恵比寿のちょうど中間に位置する改良湯は、100年以上の歴史を誇る老舗の銭湯です。2018年に現在店主を務める大和伸晃さんの手によってリニューアルが行われ、現在の姿になりました。
シックなデザインの内装やポップなアートワークが銭湯好きにとどまらない人気を集め、渋谷パルコとのコラボレーションなども行っています。
100年以上の伝統を守りながら、現代的な新しい銭湯のスタイルを模索する改良湯。リニューアルの背景や、サウナブームやコロナ禍のなかで一体どのような未来を見据えているのか、お話を伺いました。
「新しい銭湯」を印象付けたリニューアルの背景
ーーまず、現在の改良湯のスタートとなる2018年のリニューアルから伺わせてください。100年以上となる歴史があるなか、どのような経緯でリニューアルに至ったんでしょうか?
今の建物は先代が作ったもので、築40年ぐらい経っていたこともあり、老朽化などで直したいところがあったんです。自分達でつくったものじゃないという感覚があったのも大きい。
また、なかなか若い方達に銭湯を知っていただけないという思いもあったので、今のような現代的なデザインにガラッと変えました。
お風呂の面では、軟水を使ったナトリウム温泉に近いようなお湯に変えました。硬水と軟水って飲むと全然違うと思うんですが、やっぱり体でも全然感じ方が違いますね。なめらかな感じというか。「あ、いいね」と言って頂けていますね。
ーーデザインを大きく変更するにあたって、どのような意図を持って進められたのでしょうか?
男性の方はもちろん、女性の方も安心して入れるような銭湯を意識しました。昔はかなり明るい照明だったのですが、光量を落として落ち着ける雰囲気にしています。また、浴槽に浸かっている方と、体を洗っている方で目線が合わないように壁も建てました。
動線も含めて、落ち着いて自分のペースでくつろげる空間になっていると思います。
逆に、キャパシティの部分は意識していませんでした。今年2月に行った2度目のリニューアルで、サウナなどキャパシティ部分に力を入れた感じですね。
ーー2度目のリニューアルではどのようなアップデートがなされたのでしょうか?
世の中のサウナブームやコロナ禍もあって、リラックスしに来ていただいているお客さんに混雑でストレスを与えてしまっていたので、サウナ室を広げたり、外気浴や休憩ができるスペースをつくったりしました。
とくに外気浴のスペースをつくったことで「順番待ちのあいだ、場所探しをしなくて良くなった」というお声をいただきますね。
あとは、サウナ室を遠赤外線ストーブから、ストーンを使った対流式に変更し、湿度が上がるような形のものにしました。空気を伝って暖かくなるような方式ですね。
ーー100年の歴史を考えると、すごい意思決定の速さですよね。
周りの方には「バカだな〜」って言われたりするんですが、やっぱり自分達がバカになるぐらいの方が、お客さんには喜んでもらえる。
営業面で言えば、すでにお客さんが入っているので、手を加えない方がいいかもしれない。今回の改装も数千万かかっていますが、お客さんが喜んでくれると自分達も嬉しいので、その思いでやっていますね。
もともと飲食をやっていたのですが、お客様に喜んでもらうために努力するというのは変わらない。なんといっても名前が改良湯なんで(笑)。自分達なりに、できることはやっていこうというスタンスです。
銭湯をもっと気軽に、楽しく
ーー現在も続くサウナブームはどのように捉えていますか?
日本人って結局お風呂が好きだと思うんです。だからこそ、サウナの良さに気づいたのかなと。ブームというよりは、銭湯でのお風呂以外の楽しみがあることに気づいてもらえただけだと思っています。
ーー確かにサウナというより、銭湯そのものが趣味としてメジャーになったような印象です。
アパレル・ファッションの影響も大きいかもしれないですね。好きな方にはブランド的に扱ってもらえていて、凄くありがたいなと思います。
改良湯でTシャツをつくるときも、ロゴを控えめにした方がみなさんに着てもらえるのかなって思っていたんです。だけど、ロゴが大きい方が着たいって言ってもらえて、嬉しかったですね。
ーー銭湯文化を長く残していくためにはどんなことが必要でしょうか?
やっぱり、体験していただけるのが一番だと思いますね。
20年ほど前に銭湯が廃れてしまっていた時は、上の世代の方達が「昔は良かった」と口を揃えて言っていましたが、僕からすれば昔を忘れられずに胡座をかいているだけのように見えました。当時、同世代の若手たちは同じことを感じていたと思います。
ですが、今はいろんなメディアさんに取り上げてもらったり、SNSで発信していただいたりしている。本当に日本人の方はお風呂好きですから、一回体験していただくために、敷居を下げる、親しんでもらいやすい取り組みが必要だと思います。
実際に改良湯では「渋谷CROSSING」というコンセプトを打ち出しているのですが、銭湯ってもともとは地域のコミュニティスペースだったんです。なので、改良湯はアートなどいろんな文化と人がクロスする場として、イベントも開催しています。
脱衣所の仕切りを取れるようにしているので、サイレントディスコ*を行ったこともありますね、。イベントを通して、もっとみなさんが銭湯で遊んで、楽しんでくれたらいいなと思っています。
*来場者がそれぞれヘッドホンをつけてDJなどのプレイを楽しむ音楽イベント。
ーー銭湯の楽しみ方も多様化してきているんですね
仕事の合間にリフレッシュしにカフェに行く方も多いと思いますが、最近はその時間を使ってひと風呂浴びにくる方も増えてきました。高いコーヒーより安く入れますから(笑)。
ぜひ、そういう新しい使い方をしていただけると嬉しいですね。
■大和伸晃 略歴
飲食店を企画・運営する株式会社ピューターズを経て、改良湯の4代目として代表取締役社長に就任。改良湯は妻の大和慶子さんの曽祖父が開業し、夫婦で事業を継承した。
■改良湯
〒150-0011 東京都渋谷区東2-19-9
営業時間:
平日 13:00~24:00
日曜・祝日 12:00~23:00
定休日:土曜
Instagram @kairyouyu
Twitter @kairyouyu1916