
2026年2月5日、spongeで開催されたのは国際ファッション専門職大学(以下 PIIF) 3年次の必修科目「地域企業地方連携ゼミ」の中の映像ゼミの学生たちが制作した映像作品の発表会。「渋谷」を題材にした2つのテーマについて、グループに分かれて挑みました。しかしこれは、単なる課題発表ではありませんでした。
きっかけは2025年7月に、渋谷新聞の編集会議にPIIFの学生たちが参加したことでした。普段から遊び場として親しんでいる渋谷という街も、視点を変えると、見え方がまるで変わってきます。「自分たちにとって渋谷とは何なのか」「この街をどう切り取ればいいのか」。そんな問いを胸に、指導教員・淺野麻由先生のもと、学生たちはカメラを片手に街へと飛び出しました。
グループは2〜3名編成。観光客でも消費者でもなく、”取材者”として渋谷に向き合った全5作品が発表されました。
渋谷の多様性を、それぞれの視点で切り取る

一つ目のテーマは、渋谷区の基本構想である「ダイバーシティ&インクルージョン」を考察すべく「渋谷の多様性」に3グループが挑みました。同じテーマでも、視点はまったく異なります。
最初のグループが選んだのは、渋谷のあちこちで見かける異文化の象徴ともいえる「ケバブ屋」でした。渋谷で4年以上働くトルコ人店員に密着し、ドキュメンタリーを制作。取材を通じて浮かび上がってきたのは、渋谷という街が持つ独自のエネルギーです。オーナーはこう語っています。「歌舞伎町(新宿)には欲にまみれたエネルギーがある。対して渋谷には、何かを創り出す若いエネルギーがある」。「多文化共生」という言葉だけでは括り切れない、働く人々のプライドと若者の熱気が交錯する渋谷の温度感を、映像はしっかりと掬い取っていました。

続いて登場したのは、街中にいる疲れきったり、周囲にキレているおじさんに対し「現代のおじさんは大丈夫なのか?」という問いから出発した異色のグループです。「かっこいい」という概念を問い直すために訪ねたのは渋谷の音楽シーンの立役、宇田川町の「リズムカフェ」を経営し、72歳にして現役DJとしても活躍する小山俊明さん。「かっこいいとは、嘘を言わずに思うことを伝えること。そして時に、ポーズも大事だ」——力強い言葉と大胆なテロップ編集で構成された映像は、ひとつのメッセージを際立たせていました。「ファッションも音楽も今が一番いいんだ。止めてしまう大人ではなく、やり続ける大人がかっこいいんだ」。ファッションを志す学生たちへの、これ以上ないエールでした。

3番目のグループのテーマは「私の知らない外国人」。近年高まる、排外主義への疑問を出発点に、ムスリムの女性へのインタビューと密着取材を行いました。ただ話を聞くだけには留まらず、学生自身がヒジャブ(頭や体を覆う布)を着用して渋谷の街を歩くという体験を取り入れた点が、この作品の核心です。ヒジャブは、イスラム教では女性だけが身につけるもの。SNSを中心に男尊女卑を象徴するものとしてネガティブなイメージがあります。「ヒジャブは女性を抑圧するものなのか」という問いから、学生自ら身につけ、ムスリムの女性と共にファッションコーディネイトをする家庭を映像化しました。その中で芽生えたのは、「ヒジャブを被ると暑かったりしたが”隠す美”があることもしれた」という素直な共感でした。「体験すること」が、知識を超えた理解へとつながっていきました。
「光と影」見慣れた街の、知らなかった顔

二つ目のテーマである「渋谷の光と影」には2グループが取り組みました。
中国からの留学生3人組は、外国人観光客で賑わう渋谷の「光」を留学生の目線で再発見しようとしました。日本人と中国人観光客を対象に街頭インタビューを実施し、渋谷の魅力を多角的にリサーチ。「食べる・飲む・遊ぶ」が全て徒歩圏内で完結するこの街の構造は、海外の都市と比べても際立って稀有な魅力であることに気づきます。動画では朝・昼・夜と時間軸に沿って街の表情の変化を追い、それぞれの時間帯に輝くスポットを紹介しました。日本人学生が「当たり前」と感じていた渋谷が、留学生の視点を通すことで別の輝きを帯びて見える、映像ならではの発見がありました。

最後のグループが正面から向き合ったのは、渋谷の「影」です。タイトルは「それを消すまで」。フォーカスしたのは「シブヤキャンパス(通称・シブキャン)」が取り組む渋谷の環境美化を支えるボランティア清掃活動でした。スクランブル交差点のすぐそばに落ちるゴミ、雑居ビルの壁を汚す落書き。華やかな街の足元では、誰かが毎日拾い、消し続けている現実があります。「街は誰のものでもないからこそ、綺麗に保ちたい」その言葉を体現する人々の姿を丁寧に追いながら、学生たちは問いを立てました。「渋谷の文化価値を向上させるとは、どういうことなのか」。ファッションやカルチャーを発信する以前に、その土台となる街を愛し守ること。地味に見えるその問いが、じわりと重く心に残ります。
「知ること」と「理解すること」——優秀賞が示したもの

5組の発表を終え、会場は大きな拍手に包まれました。渋谷新聞代表・鈴木大輔氏から「優秀賞」が贈られたのは、ヒジャブを体験したグループです。
受賞理由として挙げられたのは、「共感へのプロセス」。ムスリムについて知識として学ぶだけでなく、実際に布を纏い、渋谷を歩き、自身の身体で感じたその体験こそが映像に深みと説得力を与えていたという評価でした。
総評の中で指導教員の淺野先生は「他者を理解することはできないが、知ることが大切。それが尊重へとつながる」と述べました。ヒジャブを「頭や体を隠すもの」と知識で知った”イメージ”と、実際に被って渋谷を歩くことの間には、大きな隔たりがあります。 多様性社会において、その隔たりを越えようとする姿勢が、不可欠だということを示唆する上映会となりました。

また、PIIFの生徒であり渋谷新聞のライターとしても活動する学生・及川さんは「渋谷は楽しいだけの街だと思っていました。でも実は、様々な問題も抱えている。今回、あえて悪い部分(影)であるゴミや落書きに焦点を当てることで、改めて訴えられるものがあると感じました」。
「客観的な視点はもちろん大切ですが、同時に相手への尊重も欠かせません」と話す淺野先生の教えは5つの作品すべてに通じていました。ファッションを学ぶ彼らがカメラ越しに見つめたのは、流行のコーディネートではなく、その服を着てこの街で生きる人間たちのドラマ。「若者の街」というラベルを超えて、多様な人が交差し、光と影が混じり合う渋谷のリアルを切り取った貴重な映像発表でした。
国際ファッション専門職大学:https://piif.ac.jp/











